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元子さん追悼 全日本名誉レフェリー・和田京平氏が明かす「守れなかった馬場さんの遺言」


元子さんを支え続けた和田京平レフェリー(左手前=2005年2月、馬場さんの七回忌追善興行)

「このクソババア!」とののしったことは何度もあった――。全日本プロレスの名誉レフェリー・和田京平氏(63)が23日、涙ながらに14日に亡くなった故馬場元子さん(享年78)に哀悼の意を表した。和田氏は長く全日プロの創設者・故ジャイアント馬場さん(享年61)の“番頭役”として馬場夫妻を支えた。「俺にとって本当のオヤジとオフクロだった」と振り返る和田氏はただひとつだけ馬場さんの“遺言”を守れずに後悔していることがあるという。それは――。

 和田氏は1973年5月、全日プロに最初はリング設営スタッフとして加わった。東京・足立区で生まれ育った下町っ子。窃盗、恐喝、シンナー…中学のころから手がつけられない正真正銘の不良だった。関係者の間では「殺人以外は何でもやった」とささやかれるが、それは本人も否定しない。同年夏、リング設営の合間に会場の音楽に合わせて腰を振っていると、馬場さんから「リズム感いいな。レフェリーやれ」と命じられた。天からの啓示だった。

「10代から50年以上も一緒。馬場さんと元子さんが本当のオヤジとオフクロみたいなもんですよ。昔はね、元子さんが『京平、馬場さんが仕事ばかりしているから遊びに連れて行って』と言うんで、俺がゴルフ場に送迎すると『あなた、馬場さんを独占しすぎ!』と怒るわけですよ。こっちも若かったから『何だとこのクソババア!』と怒鳴って大ゲンカしたことは一度や二度じゃない」

 99年1月31日に馬場さんは亡くなり、故三沢光晴さん(享年46)が後任の社長に就任。しかし元子さんと意見の衝突を繰り返し2000年6月に約30人もの選手、スタッフが大量離脱してノアを旗揚げした。その2年前、馬場さんは全日プロの未来を見通していたかのような“遺言”を残していた。俺が死んだら――馬場さんはそう切り出したという。

「『なあ京平、かあちゃんと三沢がうまくいくはずがないだろう。そうなったらお前、かあちゃんの側についてくれるか。あの性格じゃ厳しくて誰もついてこないと思うんだ』って。『分かりました』と答えるしかないよね。だから馬場さんが亡くなった時、心に誓った。『社長、元子さんは俺が一生、付き添いますから』って」

 皮肉にもその言葉は現実となった。馬場さんの死後、和田氏はまるで黒子のように元子さんに付き添い続けた。海外旅行はもちろん国内の移動から、日常生活まで。自宅(東京・港区)の商店街で焼き芋を買い、渋谷区の元子さん宅まで届けることもあった。そして気丈さを改めて知る。

「馬場さんが(選手に)言えないことは、元子さんがハッキリ伝えていた。人に嫌われる覚悟ってそう簡単にできるもんじゃない。夫婦としては、あうんの呼吸だけど、そういう部分で元子さんは馬場さんより強かった。最強ですよ」

 その気の強さが、和田氏を後悔させる件へ結びつく。昨年10月に元子さんは肝臓を患い、医師から「余命2週間」と宣告された。それ以後、和田氏との連絡をピシャリと絶ったのだ。

「弱ったところを見せたくなかったんでしょう。それはプロレスラーと一緒。俺が病院に行けば『京平、お願いだから家まで連れて帰って。もう病院は嫌』って言ってしまうのを自分で分かってたんじゃないかな。だから最期はごく近い親族のみで過ごされた。それはそれでいい。でも馬場さんに託された『うちのかあちゃんを最後まで頼む』って約束は守りたかった…」。そうつぶやくと和田氏は目を伏せた。来年1月31日には没後20周年追善イベントが計画されている。「もう、みんなが集まるしかないんじゃないかな。イベントでも興行でもこれ以上の大義名分はもう半永久的にないでしょう」と和田氏。元子さんが最後まで心の支えとしたイベントは、マット界のわだかまりを一掃する歴史的な日になるかもしれない。

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