エッジ処理やスライスが重要に
上記の計測結果については、「余計な誤解を招く」として事業者の反論も多いだろう。遅延はインターネットを介したアクセスを計測したものであり、必ずしも事業者の実力を示すものではないからだ。各事業者は頻繁に設備を見直しており、遅延の状況も日々変化する。
ただ、上記の計測結果はある断面を切り取ったものとはいえ、ユーザーの体感そのものを表したものと言える。論文では公表していないが、pingとは別にtracerouteも実行(1分おきに1回、24時間計測)しており、「最初の数ホップ(事業者網内のルーター)のRTTを確認しても同様な傾向が見られた」(中尾彰宏・東京大学大学院情報学環教授)という。
日本で2020年に商用化が見込まれる5G(第5世代移動通信システム)では、遅延時間が数ミリ秒(要求条件は1ミリ秒)程度に縮まる見通し。上記のような遅延は気にしなくて済むようになるかもしれないが、当面はエリアが限定される。ホットスポット的な用途であればともかく、しばらくはLTEも併用することになる。特にコネクテッドカーのように広範なカバーが必要な分野への適用を考えると、やや気掛かりな結果と言えそうだ。
遅延の影響を抑えるため、ネットワークのエッジ部分で処理を折り返す「MEC(Mobile Edge Computing)」の検討も進んでいる。だが、エッジ部分は処理内容が限定され、導入や運用管理のコスト増加も懸念される。運営者側にとってはできるだけ上流のクラウドで処理したいという要望もあり、どう最適化を図っていくかが課題となる。
一方、5Gでは共通のネットワーク基盤を使いつつ、求められる要件に応じてインフラを仮想的に使い分ける「ネットワークスライス」の導入も広がる見通し。例えば遠隔手術のトラフィックがエンタメ系の映像配信の影響を受けて遅延するような事態は避けなければならず、遅延に厳しい用途はネットワークを論理的に分離する動きが進みそう。事業者側は運用が難しい面もありそうだが、こちらには期待がかかる。