アルコールとの正しい付き合い方 ~「酔い」の4段階を知ろう!【前編】
新学期・新社会人生活がスタートする季節になりました。新しい人間関係を築く場面で、慣れないお酒に接する機会が増える方も多いのではないでしょうか? 東京消防庁の調べでは、年間を通して急性アルコール中毒で救急搬送される人は、年齢層別で圧倒的に20代の若者が多いことが明らかになっています。摂取量によっては命の危険を招くことがあるアルコール。
同シリーズでは、東京アルコール医療総合センターのセンター長で、アルコール依存症の問題に取り組んでおられる医師の垣渕洋一さんに、「アルコールとの正しい付き合い方」についてうかがっていきます。
第1回目は、アルコールに関する基本知識から。一般に嗜好品として認知されているお酒ですが、医学的に見ればレッキとした「薬」です。作用も副作用もあります。なので、使い方を間違えると、死に至る危険がある「化学物質」だということを解説いただきました。
気持ちよくなれる「ほろ酔い」が起こるメカニズムとは?
アルコールの薬としての効用は、主に脳神経に対して抑制的に働くことで発揮されます。しかし、脳の全ての部分が一斉に抑制されるのではなく、順番があるわけです。ここでは、「酔い」の段階を4段階に分けてご説明します。
第1段階は「ほろ酔い」です。この「ほろ酔い」は、血中アルコール濃度が0.05~0.1%を指し、日本人の平均では日本酒だと1~2合、ビール大ビンだと1~2本、ウイスキ-ダブルだと1~2杯程度を短時間に(以下同じ)飲んだ場合です。この時は、前頭葉の働きだけが抑制されています。前頭葉は、創造性の源であり、理性の中枢でもあり、社会性をつかさどる重要な部分です。また、他の動物に比べて前頭葉が発達しているのが、人間の特徴でもあります。
この前頭葉が機能してこそ喧嘩せずに、平和を生み出すことができるのですが、逆にこの部分が働き過ぎると、人目を気にし過ぎて自分の意見を言えない、感情を出せない、人前で話す時に緊張しすぎるといった、ストレスをためる方向に行ってしまいます。そういうストレスをためがちな人にとっては、ほろ酔いによって前頭葉機能を低下させることは、ストレス解消に不可欠な薬になります。酔えば、人前で話すのが苦手な人が、スラスラと話せ、笑えない人も笑い、泣けない人も泣けるというお酒の効用は、この前頭葉の機能低下によって起こっているのです。
また、シラフでは自分を責めて、気分が落ち込みがちな人が、ほろ酔いになると「自分が世界で最高」と感じることもできます。余分な不安、精神的苦痛も身体的苦痛もなくなります。ここまでくると、ストレス解消を越えて、自己治療の域になっています。
以上のようにアルコールの作用は、医師が処方する薬の中で、麻酔薬、精神安定剤、抗うつ薬、睡眠薬、抗不安薬の作用を全部カバーしているんですね。まさに万能の薬、魔法の薬といっても過言ではありません。さらに香り、風味、のど越しに工夫も凝らすことにより、飲料としても魅力に富んでいるので、ただの薬よりも摂取しやすい条件が整っています。
アルコールを、少したしなむだけ、「ほろ酔い」段階までで止められるのならば、後編でご紹介する身体への害を差し引いても効用の方が多いと言えるかもしれません。しかし、その魅力のあまり止められない人が多いのが、まさにアルコールの問題点なのです。
「ほろ酔い」のその先、「酔い」の第2段階以降については、明日の後編でご紹介します。
(写真はイメージ)