ツイッターで活躍する、シャープ、セガ、東急ハンズの「中の人」が登場。SNSをどのように活用したらいいか分からないという企業の声に対し、運営する立場から、効果を感じたエピソードやSNSと広告との違い、炎上した時の対応方法、SNSを運営する価値など、運営する上でのコミュニケーション論が語られた。
4月12日、宣伝会議が主催する「AdverTimes Days2018」が開催された。Twitterで活躍するシャープの山本氏、セガホールディングスの山田氏、東急ハンズの本田氏をお招きし「シャープ × セガ × 東急ハンズ 企業SNS『中の人』が考えるコミュニケーションの作法」と題したパネルディスカッションが開催された。モデレーターは宣伝会議の上条氏が務めた。
SNSをどのように活用したらいいのか分からないということは、どの企業でも話題に上がる大きな課題だ。今回Twitterで活躍する3名から、SNSを取り巻く環境がどのように変わったのか、そして、作法というものはどう変わったのかということについて話が聞けたらと上条氏は語った。
自己紹介と担当業務について
―― では、自己紹介と担当している業務についてお願いします。では東急ハンズさんから。
本田)Twitterが盛り上がってきた2009年から担当しています。始めたころは情報システム部にいましたが、現在はマーケティングを担当する部署で働いています。
もともと、会社の仲間内でTwitterを始めていたのですが、当時の上司がコミュニケーションとしてTwitterは面白いというところに目をつけまして、半ば強制的に始めたのがきっかけとなります。
―― ありがとうございます。続いて、セガさんお願いいたします。
山田)2012年からFacebookとTwitterを担当しています。またセガグループ内に約250の公式アカウントがありまして、そちらの管理・運営・指導なども行っています。アカウント立ち上げ時に注意する点を指導したり、eラーニングテストの実施や講習会を開いたりしています。
2012年、Twitterが流行りだし無視できない存在になりました。グループ内でも既にいくつかSNSアカウントを立ち上げて運用していましたので、広報部でも始めようということになりました。
―― ありがとうございます。では、シャープさんお願いいたします。
山本)2011年の立ち上げから担当をしています。シャープでも一通りSNSアカウントは持っていますが、手が回らないので、Twitterしかやっていません。
―― シャープさんは他の企業よりもゆるいツイートをされていますが、ツイート内容についてどんな判断基準をお持ちですか?
山本)ゆるいかどうかの境界は難しいのですが、そして私自身はとりわけゆるいと思ってないのですが、たとえば私がどこへ行った、なにを食べたといった、私自身の行動そのものがコンテンツとして成立してしまう、フォロワーさんとの関係性ありきでツイートしています。その関係性は時間をかけて築いてきたものですし、それは同時に企業と生活者のエンゲージメントのひとつと言えると思います。
―― 今つぶやいたからというよりは、これまでの関係性があるから反応してくれるということですね。次の質問ですが、SNSの効果を感じたエピソードがあればご紹介ください。では東急ハンズさんからお願いします。
何気なく言った、大雪警報の出来事
本田)最近では、関東地方に大雪警報が出た際に、「東急ハンズに来ている場合ではありません。早めにご帰宅を」というツイートをしたのが皆さんの目に留まったようで、大量に拡散されました。
大雪警報が出たあと、他の企業アカウントを見ているとほとんどが「足元に気をつけてご来店ください」という内容をツイートしていたのですね。それを一消費者の目で見たら、「いやいやいや、こんなに雪積もっているのに、行くわけ無いでしょ」と思ったので「来なくていいですよ」と何気なく言っただけなのです。この事件をきっかけに、一部の方からは「ミスター大雪警報」と呼ばれています。
山本)人としてまともな事をしただけですよね?ネットって案外まともな事をしたら、きちんとリターンがあるのですよ。
―― 逆にそういう時、自分がよくある発言をしても、社内からこれはどうかと思うと言われることは、長い担当経験の中でもあったのですか?
本田)最初のころは、理解されていないと感じたことが多少ありましたが、今はあまり感じないですね。お客様と会話をしているという意識でやっているので、うちの従業員が店頭で接客をしているのと同じ感覚で捉えられていると思います。
―― 大雪警報事件が起こった時に、会社の上層部にも目に止まったという話も聞きましたが。
本田)はい、一部メディアにも取り上げていただいたのですが、それを上層部の人が見て、僕の席までわざわざ来てくださいました。あのツイートは3桁までリプライいただいたので、それを入り組んで返信したのですが、「これを見たらさ、全部返信しているのだね、すごいね」と言われました。それは9年前からやっていますけど(笑)。
成人式の日に投稿した、粋な出来事
―― セガさんはいかがですか?
山田)成人式の日、二十歳を迎える女性へ向けて「ラブandベリー」という、その年の成人にとって非常に思い出深いゲームの主人公が、晴れ着を着て「おめでとう」というメッセージを投稿しました。非常に反響がよかったです。
成人の日の投稿となると、企業は「この自社商品も二十歳になりました」という投稿が多いと思うのですが、今年はファンに喜んでもらえる、ファンの気持ちに刺さる投稿を意識してデザインしました。かつて少女だった頃、お姉さん的存在だった憧れのキャラクターがいま二十歳を晴れ着でお祝いしてくれた、ということに非常に喜んでいただけて、「セガは粋だね」「さすがセガだね」というコメントを多数いただきました。
ネットで会った人はリアルでも会いたいなと思うのは自然の感覚
―― ファンの方について話がありました。ゲームにはコアなファンがいるという意味では、SNSとの親和性が高いのかなと思うのですが、ゲームのファンとSNSのファンはほとんど重なっているのでしょうか?
山田)重なっているところもありますし、ゲームではないところに魅力を感じてフォローしてくださっている方も一定数いらっしゃいます。先日はファンミーティングというかたちで、公式アカウントのオフ会を行いましたが、いろいろなファンの方がいらっしゃいました。
ごく普通の感覚で、ネット上で仲良くなった人はリアルでも会いたいなと思うのが自然の感覚だと思いましたので、一度お会いしてお話したら面白いことができるのではないかなと思い企画しました。
―― シャープさんにも同じ質問をしたいと思いますが、フォロワーとのやり取りをして「この反応が良かった」という出来事はありますか?
山本)こういう場にいらっしゃるみなさんも、どこか似たようなところがあると思うのですが、マーケティングや広告の仕事をやっていると、その仕事が大掛かりになればなるほど、実はお客様と直接コミュニケーションする機会って、驚くほどなかったりします。ですがTwitterを始めると、また自然にお客様と直接会話することができるようになる。それは職業人として、やっぱり非常にモチベーションになります。
自分から距離を縮めないと、お客様の立場に立てるわけがない
―― シャープさんのアカウントは、会社の「内」と「外」の間に立っているような独自のスタンスが特徴だと思います。それは2011年からそのスタンスを保っているのですか?
山本)そうですね。会議でも、「お客様目線で」と飽きるほど言われますけど、結局、自分からさっさとお客様の方に距離を縮めないと、お客様の立場になんてなれるわけがない。そんな当たり前のことを、SNSでコミュニケーションをしていると、ひしひしと感じました。だから僕はまず自分からシャープの社員という立場を半分やめようと思いました。そして半分やめたからこそ、お客様との距離が近づけたような感じがしています。
―― もともとは、宣伝部でマス広告を担当されていたのですよね。SNSを始めた時は兼任されていたのですか?
山本)ずっと僕はテレビコマーシャルや新聞広告を作っていたのですけど、徐々にWeb広告にシフトしつつ一時期はWeb広告をやりながらSNSをやっていました。なので、SNSを始めた当時から、マス広告とは一定の距離をもって運営しようと思っていました。
ツイートの8割はお客様との会話。そうすることがアカウントの目的
―― 次の質問ですが、今の話で関連するところはあったと思いますが、いわゆる「宣伝ツイート」が嫌われている現在、どんな内容のツイートをすれば読んでくれるのでしょうか。また、言葉を選ぶ際の葛藤などありましたらよろしくお願いいたします。では東急ハンズさんから。
本田)この間、自分のツイートを振り返ってまとめてみたのですが、おっしゃるとおり、本来であれば東急ハンズが伝えなければいけない内容というのは1割もなくて、8割はお客様との会話だったということが分かりました。自分的にはそれでいいし、そうすることがアカウントの目的だと思っているので、狙い通りではあります。
とはいえ、東急ハンズの店舗に来てくれるというところへつなげないと、会社的には理解が得られないので、なるべくこちらからお伝えしたい内容は、お客様の立場で楽しいかどうかを考え、気を配るようにしています。
―― これだけのフォロワー数がいると、社員の方から「新商品出たからつぶやいてよ」といったリクエストがあると思いますが、その時どうしていますか?
本田)基本、笑顔で全部いいよと言いますが、投稿するかどうかは自分で判断します。社内に敵を作る気はないので、いいよと言いますが、自分の責任でTwitterを運営している以上、それをつぶやいてもお客様は面白くないだろうと思ったら、そっと受け流しているという感じですね。
楽しそうな気持ちはフォロワーに伝わる
―― ありがとうございます。続いて、セガさんお願いします。
山田)私としてはセガが大好きなので、自分の推しはセガだというつもりでやっています。ただし、それが独りよがりにならないように「常に俯瞰して見る」ということは忘れないようにしています。あとは、誰かを傷付けないということ、それはフォロワーさんだけでなく、自社のブランドや社員も傷つけないということは、自分の責任で必ずチェックします。
―― 誰かを傷付けないというのは重要なことですね。一方で、「セガのイベントに行きましょう」みたいなあからさまな宣伝も難しいと思いますが、その点どうお考えですか?
山田)宣伝はしますが、「セガへ行こう」とか「ゲームをプレイしよう」とこちらが言うよりは、お客様が好きかどうかや面白いかどうかで判断されると思います。むしろ、好きでないものはSNSではバレやすくどうしても伝わってしまうので、偽りなく好きという気持ちを出すようにしています。
本田)何かを好きだと言っている人の周りには、それが好きな人しか近づいてこないのですよね。だから、嫌いな人はそもそも近づいてこないし、ちょっかい出されても、そっとしておけば飽きて離れていくので、そういう意味では、好きというのは大事だと思います。
山田)そうですね。社員がセガ好きだとか、社員が楽しそうにやっているだとかを、ありのままに見せていくというのが、弊社にはマッチしているのかなと思います。
―― 好きだという感情をありのままに見せていくというお話の一方で、「会社のことはあまり好きではない」というスタンスを隠そうとしないシャープさんのスタンスもすごいと思います。
山本)僕は会社員を半分辞めているので、会社のことはさほど好きではないですけど、製品やお客様のことは好きです。なので、何をもって好きかというのはいろいろあると思います。
ですが少なくとも、等身大で楽しそうにやっている姿というのは案外意味があって、TV番組の『水曜どうでしょう』を見ても、YouTuberの『Fisher’s-フィッシャーズ-』を見ても思うのですが、なんだか楽しそうにしている人を眺めるという行為は、割と人間の根源的な欲求を満たすものではないかなと考えています。
誠意をもって対応することが一番
―― 次の質問です。Twitterでも炎上などネガティブな反応はあると思いますが、どのように付き合っていきますか?東急ハンズさんお願いします。
本田)あまり自分が原因で炎上することはないので、そういう意味で気をつけることはできているのかなと思いますが、巻き込まれることはあります。ただ、企業宣伝ではなく、東急ハンズという名前で、SNS上でお客様とコミュニケーションをしているという意識なので、気を遣いながらやっていますね。
―― ありがとうございます。セガさんはいかがですか?
山田)ボヤは弊社グループにある250のアカウントでも起こることはあるのですが、やはり誠意をもって対応するのが一番ではないかと思いますね。「ここが間違っていました、ごめんなさい」という対応を、リプライをくれた方全員に返信するようにしています。誤魔化さないで、誠意を伝えるのが一番いいのではないかなと思います。
ツイートはいかに広告から離れて、溶け込むかが大事
―― SNSを担当するようになって、マス広告から距離を置いたという話がさきほどシャープさんからありました。今はどんなことを心がけていますか?
山本)僕自身は、いかに広告から離れるかということをいつも考えています。極論を言えば、広告というのは札束で人の認知・関心を買うわけですけど、SNSでは真逆のアプローチをとります。つまり、タイムラインに溶け込むというか、生活者の会話の間にたたずむというか、その瞬間の人の気持ちに寄り添うという感じで、できるだけ声は小さく、言葉も弱々しくするようにしています。
たぶん広告って、大きな声を出して人の歓心を買おうとするのが、常套手段だと思うのですが、ツイートでは特に言葉も弱くありたいし、スマホ画面の占有もできるだけしたくない。改行せず、できるだけ少ない行でまとめてツイートの幅を細くして、我が物顔をしたくない。そういうふるまいを通じて、僕は、無自覚に広告をする存在ではないのですよということを、フォロワーさんと共犯関係を結んでいくという感じですね。
―― テレビなどのマス広告は強いインパクトがありますから、メッセージの持つ「威力」が全然違ってくるわけですね。
山本)別にそのやり方が間違っているわけではなくて、場所によっての振る舞い方というのが変わってくるわけですよね。広告には広告の振る舞い方がありますし、特にインターネットやSNSでの振る舞い方というのは、僕はマス広告とぜんぜん違うと思っています。その部分を結構、ごっちゃに考えている人が多いと思います。
Twitterを運用する価値とは
―― ありがとうございます。次の質問ですが、企業がSNSを運用する価値について、どう考えていますか。東急ハンズさんお願いします。
本田)Twitterのアイコンに企業ロゴを使っており、投稿をするとフォロワーのタイムラインに企業ロゴが出てくるので、それを目にすることで東急ハンズのことを認識してもらえます。例えば、東急ハンズは他の小売店と同じものを販売していますが、それを買いに行こうと思った時にロゴを覚えていてくれれば、「同じものを買うのだったら東急ハンズに行ってもいいかな」という動機付けにはなると思います。
―― ありがとうございます。セガさんはいかがでしょうか。
山田)今まで「点」として存在していたお客様が、インターネットが発展して、つながるようになってきました。企業アカウントというのは、その中心となって、点と点をつなげて「線」にしていく存在なのではないかなというふうに考えています。
「セガさんこの間、バズっていたね」と言われることもありますが、投稿が1度話題になったからといってもそんなに意味がなくて、すぐに忘れられてしまいます。そういうことより、もっと長期的に「セガはいつも楽しそうだよね」や「やはりセガはさすがだよね」という信頼が重なり、お客様と会話をしていきながら「線」がつながっていくと、今度はそれが「図形」となって、やがて「コミュニティ」となり、交流を深め、リアルで会うようになる。企業アカウントはお客様と企業の間にコミュニティを形成していくお手伝いができるのではないかなと思います。
テンプレ的な投稿を懸念
―― ありがとうございます。以前セガさんの話で、他アカウントと絡んで投稿するなどのやり方が上手くなってきた反面、お客様から見たらどう思うのだろうか疑問に思っている話がありましたが、そのあたり説明していただけますか?
山田)ツイートの定型文的なものが世の中に流布するようになってきて、「これは広告だな」と瞬時にお客様に捉えられてしまうようになったと、個人的には感じています。なにかのハッシュタグが流行ったら、それに乗っかって企業の宣伝をすればいい、というパターンも増えてきています。
そういうことではなくて、今どうしてTwitterという世界の中で、皆さんがこの話題について話しているのか。どうしてこのハッシュタグが生まれて、こんなに盛り上がっているのか、その背景や、今それに乗ってツイートしている人たちの気持ちを分かっていないと、粋な投稿や分かっていると言われる投稿がなかなかできにくいと思います。
―― そういうテンプレ投稿をしないと思われるシャープさんはいかがですか?
山本)たまにしますけど、それは逆説的な意味でします。というかテンプレがパロディとして成立すること自体、セガさんが言うように、広告として手垢が付いていることを表していると思いますし、同様にハッシュタグもそうですよね。
例えば「#新生活はどっちもドア冷蔵庫」とか、企業の一方的に言いたいことをハッシュタグにしているだけであって、しかも後でキャンペーンの集計として確認したいから付けているだけであって、そんな事、はっきり言って企業の勝手ですよね。
そういうことをどんどん押し付けていくと、もはやマス広告と一緒になってしまうので、僕はできるだけ距離をおきたいと思って、やっているだけです。そうは言っても、アイコンが企業アカウントである限り、営利企業ですし、広告ですし、こっちは大人ですし、フォロワーさんからの視覚的な見え方というのは、常に意識しています。
もしかしたら、企業アイコンとテキストのギャップがあるというのが、ゆるいとか面白さの秘訣なのかもしれませんが、最終的には広告として機能するより、お客様と直接コミュニケーションをするためのツールでありたいと思っています。
―― ありがとうございます。シャープさんの話にもありましたとおり、企業はお客様とつながっているようでつながっていないわけで、それがSNSを活用することによって、お客様と対応する機会が1つ得られたというのは、すごく大きな価値だと思います。3社とも立場がいろいろですが、向き合う姿勢というのは共通していて、皆さんの参考になる話もあったのではないでしょうか。こちらでセッションを終わらせていただきます。