南北首脳会談 どんな成果が期待できるか
バージニア・ハリソン BBCニュース(シンガポール)
韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が27日、10年以上ぶりとなる南北首脳会談を行う。
まれに見る対話はここ数カ月の両国関係の進展が結実したもので、提案されている米朝首脳会談の環境整備にもなるだろう。
朝鮮半島における非核化と平和が最優先課題になる。 専門家は北朝鮮が核兵器の放棄に同意することには懐疑的だが、両国は会談に期待を寄せている。両国とも経済制裁や離散家族の問題など別の課題を抱えており、それらも交渉のテーブルに上げられるとみられる。
会談の意義
会談は重要な出来事だ。2007年以来初めて南北の首脳が顔を合わせることになり、金氏にとっては初の公的な首脳会談となる。面会した事実が秘密とされ、終了後に正式発表された中国の習近平国家主席との会談とは異なり、南北首脳会談はテレビで生中継される。
「これは彼のお披露目パーティーだ」と韓国のシンクタンク、峨山政策研究院のディレクター、ジェイムズ・キム博士は述べた。「金正恩氏はこの種の会談を今まで経験したことがなかった」。
金氏は父親の足跡を辿っている。金正日(キム・ジョンイル)氏は韓国の大統領と2度会談した。1度目は2000年に金大中(キム・デジュン)氏と、そして2度目は2007年で相手は盧武鉉(ノ・ムヒョン)氏だった。
2度の南北首脳会談は核の脅威への対応と両国の経済協力の進展を目的として実施された。会談への取り組みが評価され、金大中氏はノーベル平和賞を受賞した。
開城工業地区が設立され、戦争によって引き裂かれたいくつかの家族が再会を果たすなど、いくらかの進展がもたらされた。
しかし、軍縮の行方はいまだ不透明なままで、北朝鮮が繰り返した核問題での挑発と保守的な韓国政府の北朝鮮への強硬姿勢が相まって、平和への努力を頓挫させた。北朝鮮を孤立状態から抜け出させたり、韓国へのより大きな信頼を構築させようとする試みは、批判されてきた。
峨山政策研究院のキム博士によると、韓国の一部識者は、北朝鮮に核保有への野心を抑制するよう説得することを狙って送られた援助物資や経済支援の多くが、意図したとおりに使われていないと主張するだろうという。
「何人かの人々は、支援がどちらかというと状況を悪化させたと主張している。彼らは支援が北朝鮮の核保有国化につぎ込まれたと考えている」
韓国の狙い
10年と少しを経て、敵対心と脅威の増大を背景に、韓国政府は北朝鮮との交渉の席に戻ってきた。
盧武鉉元大統領の再側近として南北首脳会談に関わった文大統領は、昨年大統領に就任し、北朝鮮との連携強化を推し進めてきた。
「文氏が和解を自らの実績の一部にしようとしていることは疑いない」とアメリカン大学国際関係学部のリ・ジヨン助教授は話す。
軍事境界線上にある板門店で行われる会談での、文氏の望みは明らかだ。厳密に言えばいまだ戦争状態にある韓国と北朝鮮間での平和条約が、朝鮮半島で長く続く対立を終結させるために「追求されなければならない」と文氏は語っている。
北朝鮮との関係を監督する韓国の統一部は、非核化と軍事的緊張の緩和を、経済的および社会的な北朝鮮との関係強化に先立つ主な目標としている。運営が凍結されている開城工業地区の再始動もこれに含まれる可能性がある。
韓国と北朝鮮による経済協力の類を見ない例である開城地区は、北朝鮮が同地区で働く労働者の賃金を接収し、核兵器への野心を支援する基金にそれを流用していると韓国政府が指摘した後、2016年に閉鎖された。
文大統領は、もし非核化への前進が実現すれば、最大で5万5000人の北朝鮮労働者が韓国の所有する工業で雇用されていた同地区を再始動すると表明している。
朝鮮戦争によって引き裂かれた6万人もの家族の再会も議論されるとみられる。最も最近の離散家族再会は、関係が再び悪化する前の2015年に、北朝鮮の核計画の一環として実施された。北朝鮮に拘束された外国人の解放も議論されると予想されている。
北朝鮮の狙い
北朝鮮の狙いは明確ではない。専門家の多くは、経済制裁が金氏を対話へと向かわせた理由だと述べている。
北朝鮮が相次いで核・ミサイル実験を繰り返したことを受けて、米国や国連が実施している北朝鮮への経済制裁は昨年さらに強化された。
前出のキム博士は、韓国との融和政策が制裁などの問題について「米国を対話に引き込む唯一の方法」だと、北朝鮮は考えていると語る。
北朝鮮の国営メディアは、制裁ではなく「自信」が対話を求めている背景だと主張している。
このほかにも、北朝鮮が制裁解除を求めているのを示す動きがあった。歴史的な首脳会談の1週間前の21日に北朝鮮は、全ての核・ミサイル実験を停止すると発表した。実験は過去の主な挑発行為だった。
文大統領は発表を歓迎し、北朝鮮の指導者がより死活的とみるドナルド・トランプ米大統領も、同様に反応した。
豪シンクタンク「ローウィ国際政策研究所」のユアン・グレアム氏は、金委員長にとって全ては米国との対話のためで、文大統領との会談はそのための「代償」だと考えていると話す。トランプ氏と対話する舞台が確保できれば、孤立してきた金氏は国内向けに成果をアピールできるという。
アメリカン大学のリ・ジヨン助教授は、金委員長が「米国の指導者と同等に扱われる」のを望んでいると語る。「独裁者は何でもできるとみられがちだが、彼にはいつもプレッシャーがかかっている。国内での立場を心配しなくてはならない」。
何が達成される可能性があるのか
国民の4分の3以上が支持していると韓国統一部が説明する、南北首脳会談の実現への楽観には、現実的にどのような成果が望めるのかという重しがかかっている。
対話は北朝鮮の核放棄、そして南北統一の可能性に向けた第一歩になると多くの人は考えている。
首脳会談の後に、数多くの合意と追加の交流があると考えるリ助教授は、「これらの対話は効果的な一種の発射台になり得る」と語った。
2首脳間の個人的な関係にも注目が集まる。キム博士は、会談の成功は文大統領と金委員長の間の「相性」そしてうまく付き合えるのかにかかっていると指摘する。
「両首脳にとって良い会談になると思う。しかし、非核化につながるかどうか確信は持てない」