最近こんなつぶやきをしました。
大企業の新規事業開発を行う部署の知人が、1億円の予算があるものの何をしていいかわからないので、コンサルにまるっと投げようかと話していたのでそれをつぶやいたら結構反応がありました。多くの大企業が同じようなことを考えているのではないかと思い、考えてみたいと思います。
新規事業開発におけるスタートアップと大企業の比較
新規事業開発におけるスタートアップと大企業の違いについて考えてみると下記が挙げられます。
1.小さく始めて大きく育てるスタートアップと最初から大きく始める大企業
多くのスタートアップは小さく始めます。MVP(Minimum Valuable Product)を使って本当に顧客のニーズがあるのか検証を行い、顧客ニーズがあることがわかったら、市場がどの程度あるのか検証し、など細かいステップに分けて新規事業を一つずつ前に進めます。プロダクトがない状態のスタートアップは調達する金額も少なく、数百万円程度で仮説検証するケースがほとんどです。一つの仮説が検証できたら次の調達という形で事業を小さく初めて徐々に大きく育てていくのがスタートアップの事業開発の基本です。
一方で大企業は最初からある程度大きな絵を書いて、稟議書を書いて事業の承認をもらわないとそもそも新規事業をスタートすることができないことがほとんどです。顧客ニーズがあるか検証しないまま、キレイなパワーポイントでバラ色の未来を描いて、1億円程度の大きな予算を獲得することが大企業の新規事業のスタートになりがちではないでしょうか。
2.仮説検証サイクルを内製化するスタートアップと外注依存の大企業
2000年前後の営業職が強かったベンチャー企業とは異なり、最近のスタートアップ企業でエンジニアを採用していないのは稀なことで、自社内で開発を行い、仮説検証サイクルを回しているでしょう。社内で仮説を検証することができるので、高速に様々な仮説を検証することで事業の方向性を考えることができます。
大企業は前述の通り、最初から大きな予算を取りに行き、外注先に発注を行う形で新規事業の開発を行うケースがほとんどです。なのでそもそも仮説検証する機能を社内に持たず、開発それ自体を外部に依存しています。当然、細かな仕様の変更はできても、仮説検証に基いて事業の方向性を変更することができません。
3.チームを承認するスタートアップと事業を承認する大企業
スタートアップは事業を別のものに転換するピボットすることが前提としてあり、スタートアップに投資する投資家も事業内容にももちろん興味があるものの、特に事業が生まれる初期段階では、基本的に組織やチームの重要性を高く見ています。
VCの判断基準の中でも、経営チームは大きなウェイトを占めています。直接チームを印象づけるという意味で、意志決定プロセスの中で一番重要なステップとも言えます。
(中略)
スタートアップの世界は、環境変化がはやく、不確実性も高くなっています。そんな世界に、正しい答えなどありません。ここでは「計画の正しさ」「受け答えの正しさ」ではなく、「いかにロジカルに環境を分析し、戦略を考えられているか」、「環境が変化したときに、再現性をもって戦略を再構築できるか」が注目されます。
スタートアップでは多くの会社が最初の事業からは全然違う領域にピボットすることで成功を収めています。
一方で大企業では、チームを承認することはなく、あくまで事業を承認しているので、方向性を転換するのであれば再度、方向性の転換の承認を得る必要があり、ピボットを難しくしており、その分成功する角度も低くなってしまっているように思います。
4.10年以内に売上10億円を目指すスタートアップと短期間に売上・利益を求める大企業
IPOを目指すスタートアップというと急成長が印象的ですが、IPOしているスタートアップを調べてみると、10年以内に10億円程度の売上を目指すのが標準的な成長曲線のように思われます。この成長に資金を多い時には数十億円突っ込めるのがスタートアップの強みと言えます。
一方で大企業では、10年で10億円の売上だと本当に物足りなく感じて、とても稟議の承認がおりないのではないでしょうか。3年で純利益ベースで投資金額が回収できないとゴーサインがでない会社も多いと思われます。
新規事業の成果に対してはスタートアップよりも大企業の方が時間軸が短く、そして大きなリターンを求めてしまうがゆえに中々新しい事業に踏み出せないと考えられます。
5.使える予算が実は大きいスタートアップと予算は意外と少ない大企業
過去にこんなの書いてますが、仮説検証を追えて、成長したスタートアップはつぎ込める金額が大企業よりも全然多かったりします。
大企業というと資金が豊富にあり、新規事業にも湯水のようにキャッシュをつぎ込めると深く考えずに思い込んでしまっている人は少なくありません。ですが実際にはうまくいくのかわからない新規事業にそこまで資金を投下することはできず、対応が遅れることがままあるといえます。
具体的な数字で説明すると、クラシルは今回調達した30億円をすべて人員採用や広告費につぎ込むでしょうが、クックパッドは30億円の資金をレシピ動画の領域に簡単には突っ込めません。クックパッドも大きい会社ではありますが、2017年5月現在の現預金は170億円、2016年度の営業利益も50億円レベルです。そんな中で30億円を、伸びてるけど成功するかわからないレシピ動画市場に突っ込むにはかなり勇気のいる経営判断が必要になります。しかも30億円は攻めの投資というよりも、迫り来るクラシルを撃退するための守りの投資なので、余計に判断が難しくなると思っています。
10億円以上の大型調達でもスタートアップであればその金額を全て人材採用や広告宣伝費に投下することができます。
大企業でも成功している事業であれば予算をいくらでも突っ込むことはできますが、まだ成功するかわからない新規事業にはそこまで予算をつぎ込めないケースも多いのではないでしょうか。
大企業内に新規事業のチャンスは山程ある
ここまで大企業内で新規事業が生まれない理由についてスタートアップとの比較で見てきましたが、大企業は新規事業の宝庫です。最近ではネットだけで完結するビジネスの余白が小さくなり、スタートアップも日系大企業が主戦場とする古い業界を変化させる方向に大きくシフトしてきています。
特にSaaSビジネスでは、大企業出身の経営者の方が活躍しており、2018年のB Dash Camp優秀のカケハシは薬局薬剤師向けのSaaSビジネスで、武田薬品出身の人が立ち上げた会社です。他にも建設会社、商社など業界のインサイダーと言える人がSaaSの領域でスタートアップを立ち上げています。
大企業は豊富な事業チャンスを活かせる組織に変化できるか
古いと言われる業界の元社員が社内では新規事業でできなかったものを社外に飛び出して起業しているのが現在のトレンドですが、大企業からすると優秀な人材だけでなく、社内にある事業チャンスを社外に流出してしまっている状況だと言えます。
このトレンドが本格化する前に大企業は事業チャンスを新規事業として形にすることのできる組織に変わることはできるのでしょうか。社内で新規事業をやる場合には、上記にあげたようなスタートアップの違いに加えて、優秀な仲間を集めることができるのか、スタートアップの人たちよりも高いモチベーションで事業立ち上げができるインセンティブ構造を構築できるのかなど様々な問題が考えられますが、そういった問題一つ一つに向き合う大企業が一つでも多く出てくるとより多くの大きな社会課題が解決されるように思います。