うらがみらいぶらり

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『レディ・プレイヤー1』感想 〜イースターエッグと25セント硬貨〜

 今年の4月はにわかに映画ラッシュとなった。『パシフィック・リム/アップライジング』が仁王立ちしたかと思えば、今週末には『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』が決戦を控えている。『リズと青い鳥』も大輪の百合の花を咲かせていると聞く。そして先週末にスタートしたのが『レディ・プレイヤー1』だ。

 つい先日この『レディ・プレイヤー1』を観に行った。結果として、最後は泣いていた。クライマックスに目頭が熱くなるのを感じていた。その心のゆさぶりの軸にあったのは、「これはオタクのための最高のオタク映画だ」という確信だった。

 ここ最近、映画に劇薬的な効能を求めがちだった身にとって、竹槍を突き刺すようにスコーンッと響くメッセージはひどく新鮮で、25セント硬貨のように輝いていた。無論、インターネットで騒がれているようなネタの数々も、おもちゃ箱をひっくり返したような楽しさに満ちていた。純粋に、ストレートに、「なんて良い映画なんだ」とため息が漏れる、そんな作品だった。

 というわけで、以下に『レディ・プレイヤー1』に関するあれこれを書き残しておく。ネタバレも遠慮なく記す。この映画はネタバレなしで見てほしいので、まだ見てない人はこんなブログを読んでいないで映画館に行きましょう。HURRY!!

 

 作る人と遊ぶ人の物語

 「超・巨大なVRオンラインゲーム」といえばSAOが脳裏をかすめるが、精神まるごとフルダイブなSAOとは違い、「オアシス」と呼ばれる作中のゲームは2018年現在のVRをそのまま拡張発展させたようなやつだ。SEGAとかで遊べるVRアーケードゲームに近い。

 プレイヤー1人にそんな環境が与えられるところから感じられる未来感と、廃車とコンテナハウスが幼児の積み木のように重なる荒廃した未来感が入り交じった世界観は、新旧の塩梅がビーナッツバターのように染み渡る。これが開幕数秒で網膜に焼き付き、ほどなくして「このオアシスのどこかに鍵を隠した。見つけたらウチの会社とオアシスの全てをやろう」という開発者の遺言が提示され、この映画がどのような世界を見せてくれるかスラーっと並べてくる。

 と、いうところまで書いていくと「バーチャル世界を手に入れるための野望と冒険!」みたいなストーリーラインを感じるかもだが、その根っこにあるのは「作る人と遊ぶ人の物語」だった。

 オアシスの開発者・ハリデーと、主人公のウェイドは、「ゲームの開発者とプレイヤー」、そして「オタクとオタク」というものすごく純粋な関係として描かれている。ウェイドは最初こそ「金と豪邸とうまいメシ」を求めて「鍵」を探していたが、生粋のハリデーファンである彼は、やがて「ハリデーはどうしてオアシスを作りたかったのか?」という思いのもと、数々の「ゲーム」に打ち込んでいく。その姿はただただ純粋な「プレイヤー」であり、ゲームとその作り手について熱く語りたがる「オタク」だ。そんな彼と最後に対面したハリデーはこう告げるのだ――「遊んでくれてありがとう」と。それは、イースターエッグというある種の自己満足を仕込んでしまうほどの熱心な「開発者」であり、同時にそこまで細部にこだわってしまう「オタク」の姿だ。

 この純粋さというか、野心とかを抜きにして「好きだからのめり込む」という姿勢に胸を打たれた。一方はのめり込んだ末に空前絶後のVR世界を創り上げ、もう一方はのめり込んだ末にそこに隠されたエッグを全て見つけた。実は親族だったとか、生まれ変わりだったとか、そういう理由付けはない。オタクゆえだったからだ。作る人と遊ぶ人に分岐したオタクが、ゲームを通して心を通わせた、その瞬間に僕はとても感動したのである。

 めっちゃ長くなってしまったが、こんな関係性を、「ハリデーから託されたエッグを手にして涙を流すウェイド」という1カットだけで伝えてきたりする。「素晴らしい演出」というものをひさしぶりに思い知らされた映画だった。

 そして思ったものです。「ゲームを遊びてえ」と。

 

25セント硬貨が響き渡る

 イースターエッグを通したオタクの物語と同じくらい、僕がこの映画で感銘を受けたのは「25セント硬貨の使い方」だった。

 案内人からウェイドに託された25セント硬貨が、終盤にて「おまけライフ」として彼を救う展開は正直激アツで震えた。それも『ADVENTURE』の刺さったATARI2600の目の前で、である。レトロゲーム とともに少年時代を過ごしたハリデーの思いと、それを受け止め「最初のイースターエッグ」を見つけ出すウェイドの姿には、ゲーマーの挟持をこれでもかと感じさせられた。

 そして、ハリデーの盟友だったモロー(そして案内人の正体である)が、25セント硬貨1枚で新生オアシスのコンサルタントに就任するくだりも、モローなりの落とし所、すなわちハリデ―とモローの友情を感じさせる、ニクいおはなしだと感じた。

 25セント硬貨、言ってしまえば「コインいっこ」に、金銭的価値はあまりない。ソレントなんか見向きもしない財産だ。だが、このコイン1枚で、プレイヤーはコンティニューできる。その事実は財産に変換できない価値を帯びている。ここも言ってしまえばめっちゃオタク的で、「ゲームで遊ぶ」ということの根源的な楽しさを象徴しているアイテムとして光り輝いている。

 コイントスで響き渡る25セント硬貨の音が、最終盤になってとても尊い響きとして鼓膜を震わせてくる。その気持ちよさは計り知れない。

 

あれはダイトウが駆るRX-78-2なのだ

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 さて、巷で話題になっている本作のセリフといえば「俺はガンダムで行く!!」である。上記のRX-78-2ガンダムがZZガンダムのポーズをしていたことも話題になったが、まさかのスピルバーグの映画でガンダムである。予告編や風のうわさだけでは「なんだそのトンチキ映画は」と訝しがる可能性すらある。

 だが、最終決戦でダイトウがガンダムに「変身」するシーンの流れ、そして「俺はガンダムで行く!!」というセリフに、トンチキな要素は微塵も存在しない。『バーフバリ 王の凱旋』の「ヤシの木カタパルト」のように、『レディ・プレイヤー1』本編中ではまったくもって正しく、そして激熱な展開なのだ。

 ダイトウは日本人だ。アバターは鎧武者の侍であり、リアルでもバットでドローンを粉砕するサムライ・ジャパンだ。そんな彼が、ソレントが操るメカゴジラから仲間を守り、オアシスを救うべく選んだ「剣」。それがビームサーベルを引き抜いたRX-78-2に他ならない。『機動戦士ガンダム』作中で、一年戦争を駆け抜けた伝説的なモビルスーツ。それに変身し、仲間を救う――そんな覚悟と気概が「俺はガンダムで行く!!」というセリフに凝集されている。その説得力・訴求力は並大抵のものではない。ガンダムというキャラクターの持つ圧倒的なパワーも相まって、事前に聞いていたのに文句なしに盛り上がった1シーンだった。

 だからこそ、あのシーンに出てきたのは「アムロが乗ってたRX-78-2」ではなく、「ダイトウが駆るRX-78-2」だと確信している。借りてきたキャラクターでも、想いは間違いなく本物。ここにも「オタクの熱量」とでも言えるものが燃えたぎっているし、同時にVRの可能性を存分に見せつけてくれていた。

 そして、なにもダイトウのガンダムだけではない。最終決戦に集った数多のプレイヤーたちは、それはもう思い思いのアバターとして殴り込んできている。これは、統一された装備で身を固めたシクサーズとは対照的だ。あくまでオアシスを「仕事場」と断じるシクサーズと違い、最終決戦に集ったプレイヤーにとってオアシスは紛れもない「遊び場」だ。だからこそ激突するし、その激突が映える。

 「自分が望んだものになれる」というVRの魅力は、現実でも「版権・オリジナルごっちゃまぜのサイバー空間」としてVRChatが紹介されて話題になった。オタクの願望を叶えるVRは、「コンテンツのるつぼ」とも言える様相を示す。そして、そのカオスぶりがとてつもなく楽しそうに映る。遡ればニコニコ動画でも「じゃあ俺◯◯で出撃するわ」的なコメントで賑わうお祭り動画がたくさんあった。

 願望が生み出すカオスを、『レディ・プレイヤー1』はこれ以上となく肯定的に、そしてワクワクさせる形で描いている。

 

オタクマインドを刺激する快作

 ここまで書き殴ったものを振り返ってみて、いつもより熱っぽい文章だと自覚させられる。だが、ここまで管を巻くように話したくなる熱量がこの映画にはある。スマートなオタクぶってはいられない。ともすれば忘れていた「オタクとしての自分」を呼び覚ます、とても快い映画だった。

 こんなに楽しく、リスペクトにあふれて、そして貫かれたメッセージを感じさせる映画を見れたのは率直に言って幸せだし、もうスピルバーグには足を向けて寝られない。よもや2018年にもなってそんなことになろうとは思わなかったが、あんなかっちょいいガンダムを魅せてきたんだから平伏する他ない。もっと長生きしてくれ。

 無論、ゲームやアニメのみならず、「細かすぎる『シャイニング』劇場VR」とか、「チキチキ80年代名作映画猛レース」とか、あらゆるところに仕込まれまくった小ネタ探しも楽しい。というか多すぎて脳から髄液が軽くあふれる。映画館で見ても楽しいけど、20人くらいオタクをかき集めてワイワイ見るのも楽しそうだと思っている。さながらIOIのナード軍団みたいに*1

 本当に楽しい映画だった。オタクだったら見ておいて損はない。リスペクトにあふれた最高の仮想現実を目撃しにいこう。僕も吹き替え版とか4DX版が見てえんだ!!!!!

*1:彼らの「オタク心刺激されたら敵味方関係なく応援しちゃう」っていう姿がすごいよかった。あれもまた「オタクの熱量」を感じさせた。