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政治のことは嫌いでも、民主主義は嫌いにならないでください

小さくたって、役に立つ? オランダ「ミニ政党」の生きる道

民主主義は嫌いですか? その3

インタビューに答えるオランダのミニ政党「動物党」のマリアンネ・ティーメ党首=オランダ・ハーグ、玉川透撮影


「数は力」と言われる政治の世界。しかし、あえて少数派であることに存在意義を見いだそうとする人々もいる。オランダの「ミニ政党」だ。ユニークな主張を掲げ、政権からも距離を置く彼らは、民主主義の中でどんな役割を果たしているのか。党首や専門家にずばり聞いてみた。小さくたって、役に立つ?(GLOBE記者 玉川透)


「私たち『動物党』は、地球や動物といった声を上げられないものたちのために立ち上がった政党です。他の党との最大の違いは、人間ではなく、地球が中心だということです」


2月下旬、オランダの政治の中心都市ハーグの国会議員会館で、マリアンネ・ティーメ党首(46)は自信ありげに語った。


環境保護や動物の権利などを訴えて2002年に旗揚げした「動物党」(党員約16000人)は、昨年3月の下院選(定数150)で、33万5000票余を獲得。改選前の2議席から、5議席に「躍進」した。同党の広告塔でもあるティーメ党首は、テレビの討論番組など毎日のようにメディアに引っ張りだこだ。

インタビューに答えるオランダのミニ政党「動物党」のマリアンネ・ティーメ党首=オランダ・ハーグ、玉川透撮影

そうはいっても、議会での勢力はほんの3・2%に過ぎない。大政党に反対されたら、法案を通すどころか、提出することもままならないのではないですか?


彼女は首を横に振る。「近年の状況を見ると、オランダには大政党というものは存在しません。大きいと言ってもせいぜい、20~30議席。与党が連立政権で過半数をとるうえで、小党は無視できなくなってきています」


そして、こう付け加えた。「動物党が掲げる環境保護や動物の権利といった新しいアジェンダは、これまで議論されてこなかった。大きな政党も将来、こうした分野で有権者の支持を集めたいと考えているから、少なからず私たちの主張に耳を傾ける。私たちがめざすのは、主張を曲げてまで政権に入ることではなく、自分たちのアイデアを他党に働きかけ、影響を与えることなのです」


昨春の下院選では、計28政党が出馬し、過去45年で最多の13政党が議席を得た。世間の目は、反移民や反欧州連合(EU)を掲げるウィルダース率いる右翼・自由党が第1党に躍進するかどうかに注がれていたが、その陰で着実に議席を伸ばしたのが、動物党のような5議席以下の「ミニ政党」だった。その数はいまや、6党に上る。

オランダ・ハーグの国会議員事務所が入る施設=玉川透撮影
オランダ・ハーグの議会関係施設前の広場=玉川透撮影

ミニ政党を育んでいるのは、多様な意見を政治に採り入れてきたオランダ独特の徹底した比例代表制。現行制度では、有効投票数のわずか0・67%を獲得すれば、議会に議席を持つことができる。その歴史は、第1次世界大戦直後の1917年にさかのぼる。

インタビューに答える獨協大学の作内由子専任講師=同大キャンパス、玉川透撮影


オランダ政治に詳しい獨協大学の作内由子専任講師(法学)によれば、1917年に制定された選挙制度では、国政へのハードルは有効投票数の0・5%だった。このため改正後最初の選挙(1918年)で議席を獲得した全17政党のうち、1議席しか持っていない政党が半数近くの8政党に上ったという。「当時の下院定数は100だったことを考えると、国政へのハードルはむしろ現在よりも低く、ドラスティックに門戸が開かれていたといえます」と、作内氏は言う。


その後、段階的にハードルは上がり、1935年には有効投票数の1%となったものの、下院の定数が150に増えた1952年には、現行の0・67%に落ち着いた。


一方、徹底した比例代表制にはデメリットもある。小党乱立による政治の不安定化だ。昨春の下院選後、わずか22%の議席しか持たない第1党を中心とする連立交渉は難航。4党による連立政権が誕生するまで、同国史上最長の225日かかった。7カ月以上、政治の空白が生まれるなんて、日本ではまずあり得ないことだ。

オランダ・ロッテルダム市議会選を前に若者のために開かれた政治討論会。壇上には10政党の代表が並んだ=2月下旬、ロッテルダム、玉川透撮影

それでも、オランダ・ライデン大学の研究者、ヒールテン・ワーリング氏は、徹底した比例代表制を変えるべきではないと説く。「オランダ人は『誰かが代表として政治を行ってくれる』という感覚を比較的、強く持っている国民だ。その点でミニ政党は、多様な有権者の声の多くを『聞き取る』ことに役立っている。安易に得票率に制限を設けることは、短期的には賢い策に見えるが、長期的にはより多くの有権者が政治に対して背を向けることになってしまう」


比例代表制が多い欧州諸国の中には、小党乱立による政治の混乱がナチス台頭を許した反省から、ドイツのように5%の「壁」を設ける国もある。それでも、オランダと同様に、多くの国々では多党化がひとつの流れになりつつあるようだ。

インタビューに答える津田塾大学の網谷龍介教授=同大キャンパス、玉川透撮影


欧州政治に詳しい津田塾大学の網谷龍介教授は、こう解説する。「選挙は政権を選ぶもの。そういう習慣がある国では、ふだんは様々な不満を持っていても、選挙になれば、今回は右か左か、と政権政党の選択を考えるのがかつては普通だった。しかし、難民問題など緊急の課題が浮上してきたとき、重要な課題がいっこうに解決されないと感じるときに、『政権はどうでもいいから、不満を表明したい』という投票行動を起こす流れが生まれる。そうなると、政権を担う政党は対応に困る。そして、政治がどんどん分断化、細分化していってしまう」


こうした流れと呼応するように、盛り上がっているのが「国民投票」だ。


オランダ動物党のティーメ党首は言う。「4年に1度の選挙だけでは、オランダの民主主義は完全とはいえない。国民が政治にもっと関心を持ってもらうには、国民投票を定期的に行って、国民の声を政治にもっと反映させるべきです」


だが、2016年に英国で欧州連合(EU)離脱が決まった国民投票の「衝撃」は、記憶に新しい。有権者に直接、是か非かを問う国民投票は、極めて民主主義的なシステムだと思う半面、熟慮を重ねてから投票に臨まないと、一時のムードに流されてしまう危険性もぬぐえない。ポピュリズムに利用されるリスクもある。「もろ刃の剣」ではないですか?

インタビューに答えるオランダのミニ政党「動物党」のマリアンネ・ティーメ党首=オランダ・ハーグ、玉川透撮影


彼女はこう反論する。「だからこそ、なおさら国民投票を定期的に行い、それを伝統としていくことが大切なのです。時々しか行わないから、予想外の大きなムーブメントが起きてしまう。そして、もう一つの問題は、政治の傲慢(ごうまん)にあります。『国民はバカで何も知らない』と考えるから、(既存の大政党やマスコミは)国民投票に反対する。そんな国会の中で、民意を反映しない間違った決定がされていくのを、私たちは目の当たりにしてきたのです」

オランダ・ロッテルダム市議会選を前に若者のために開かれた政治討論会に参加した人々。環境問題や移民政策について、賛否を札で示した=2月下旬、ロッテルダム、玉川透撮影
オランダ・ロッテルダム市議会選を前に若者のために開かれた政治討論会。壇上には10政党の代表が並んだ=2月下旬、ロッテルダム、玉川透撮影




作内由子(さくうち・ゆうこ)

1983年生まれ。獨協大学法学部専任講師。専門はヨーロッパ政治史。著作に「オランダにおける「政党」の成立」水島治郎編『保守の比較政治学』(岩波書店、2016年)


網谷龍介(あみや・りょうすけ)

1968年生まれ。津田塾大学学芸学部・国際関係学科教授。専門は現代ヨーロッパ政治、比較政治。共編著に『ヨーロッパのデモクラシー』(ナカニシヤ出版、2014年)など



■特集本編は「政治のことは嫌いでも、民主主義は嫌いにならないでください」でどうぞ


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