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企業・経営

孫正義氏はなぜソフトバンクを「子会社上場」させるのか

資金調達に「異変」が起こっている…?

今年の1月、ソフトバンクグループ(SBG)は傘下の携帯事業会社ソフトバンク(SBKK)を東証一部に上場させる方針発表し、現在、年内の上場に向け、東証などと近く本格的な調整に入った。資金調達額は2兆円程度で、過去最大規模の新規株式公開(IPO)になる見込みといわれる。財務体質の悪化を避けつつ、調達した資金を新たな成長分野へ投資するのが目的らしいが、今回は親子上場の論点と取引所規則について、考えてみたい。

親子上場の何が問題とされてきたか

親子上場とは、ある会社の支配権を持つ親会社と、その親会社に支配される子会社が同時に上場していることを指すが、まずは親会社、子会社の定義を確認する。

東証では、親子上場を規則上認めている。

上場審査に係る「親会社等」の定義は財務諸表等規則第8条3項に定められており、要約すると「親会社とは、他の会社等の財務及び営業又は事業の方針を決定する機関(株主総会その他これに準ずる機関をいう)を支配している会社等をいい、子会社とは、当該他の会社等をいう」ということになっている。

 

親子上場では常に親会社と子会社の少数株主との利益相反や、親会社から見た子会社少数株主への利益流出などが課題とされており、私も過去に何社か、実務でその課題解決に携わって来た。

上場審査の形式基準では、東証一部の場合、「流通株式が35%以上あること」だけである。

※新規上場審査で流通株式と認められない株式
・上場会社(自己株式)
・上場会社の役員
・上場株式数の10%以上を所有する者又は組合等
・上場会社の役員の配偶者及び二親等内の血族
・上場会社の役員、役員の配偶者及び二親等内の血族により総株主の議決権の過半数が保有されている会社
・上場会社の関係会社およびその役員

一方で実態基準として、特に子会社の上場については、親会社に依存することなく、独立した事業運営が可能か否かが、審査上重要であり、ヒト、モノ、カネ、情報等すべてにおいて、一定の定量的な数字をクリアしなければならず、それなりにハードルが高い項目もある。

具体的には、親会社から出向していた主要部門長を転籍させたり、親子間で取引を行っていた場合、その商取引の価格含めた取引条件が第三者と取引を行う場合と、遜色のないものに条件変更したり、役員構成の過半数を親会社出身以外の人間にすることが必要になる。

東証は近年、親子上場に否定的

親子上場は認められてはいるものの、2007年10月に当時の各証券取引所共同声明としての「中核的な子会社の上場に関する証券取引所の考え方について」で、「親会社グループのビジネスモデルにおいて、非常に重要な役割を果たしている子会社、親会社グループの収益、経営資源の概ね半分を超える子会社などのいわゆる中核的な子会社の上場については各企業グループ、子会社の事業の特性、事業規模、過去の業績の状況、将来の収益見通し等を総合的に勘案しながら、慎重に判断していくことといたします。」と発表されている。

また、2009年12月の当時の東京証券取引所グループの斉藤惇社長は、ブルームバーグのインタビューに対して、強制的な措置は考えていないと言ったうえで、「子会社の犠牲の上に親会社が利益を上げるケースもあれば、その逆も起こる可能性がある。(親会社が取締役の派遣などを通じて子会社の経営を握ることで、利益相反を引き起こす可能性があることから)親会社が上場子会社を吸収合併して連結対象とすることを推奨したい」と話している。

それ以降、取引所からの親子上場に関する方針、コメントは発表されていないが、実際には親子上場企業数は2006年度末の417社をピークに減少が続いており、2017年3月末では270社となっている。減少の主な理由は親会社による子会社の完全子会社化。いわゆる、ガバナンスも、利益も全て親会社が吸収するという極めてシンプルな構図に戻りつつある中での動きだ。