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【社説】

差別禁止条例 共生できる町づくりへ

 LGBT(性的マイノリティー)や外国人への差別を禁じる条例づくりが各地で広がっている。性別や民族などの違いを超え、共生できる社会を目指す「宣言」だ。この流れをさらに押し広げたい。

 今月、東京都の国立市と世田谷区でそれぞれ条例が施行された。

 国立市の条例は「女性と男性及び多様な性の平等参画を推進する条例」。性的指向(恋愛対象の性)や性自認(自分の性をどう認識するか)による差別を禁じる。個人の事情を公表するかしないかの選択は個人の権利とし、他者が本人の意に反してアウティング(暴露)することを禁じた。

 国立市では三年前、一橋大の大学院生が同性愛者であることを同級生に暴露された後、転落死した。

 性的指向や性自認に対する偏見は命さえも奪いかねない。

 罰則はなくても行政が条例をつくり、率先して啓発に取り組む意義は大きい。

 世田谷区は「多様性を認め合い男女共同参画と多文化共生を推進する条例」。条例名に性自認や性的指向、LGBTなどの言葉はないものの、総則では性別を「生物学的な性別及び性自認並びに性的指向」と定義している。

 性的マイノリティーへの差別を禁止したり、支援を行う自治体は増えた。条例では二〇〇二年の堺市を全国初として、東京都内では多摩市と文京区が一三年に性的指向や性自認による差別を禁じる条例を制定。法的婚姻とは異なるが、同性カップルなどをパートナーとして公的に認める「パートナーシップ制度」は世田谷や渋谷両区、那覇市などで導入されている。

 条例ではないものの、大阪市や千葉市などでは自治体窓口で当事者にどう対応すべきかをまとめた手引を作成し、職員研修も進めている。自治体職員だけでなく、教師や医師など専門知識を持って働く人たちの役割は大きい。LGBTへの偏見をなくし、正しい理解の下で職責を果たしてほしい。

 五輪憲章は性的指向による差別禁止を掲げる。世界中から多様な人が訪れる二〇年の東京五輪・パラリンピックを前に、自治体の条例づくりはさらに進みそうだ。この流れに期待したい。

 一方で条例だけでは一部地域に限られ象徴的な動きにとどまりかねない。国や都道府県も差別禁止の制度化に本腰を入れる時ではないか。合理的説明のつかない区別や排除は尊厳を傷つける人権侵害にほかならない。偏見や無理解がもたらす差別は終わりにしたい。

 

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