複雑で微細な細胞の世界は、何百年もの間、スライドガラスの上に載せられ、顕微鏡で撮影されてきた。しかしこのたび、4月20日付けの学術誌「サイエンス」で発表された新たな撮像技術によって、生きている細胞の3D映像を高解像度で撮影できるようになり、驚きの細胞の世界をとらえることに成功した。(参考記事:「“微生物学の父”レーウェンフックは何を見たのか」)
「カバーガラス越しに細胞を調べるということは、動物園にいるライオンを観察するようなものです。自然な姿そのものを見ているとは言えません」と物理学者エリック・ベツィグ氏は言う。今回開発した顕微鏡を用いることは、「サバンナでアンテロープを追うライオンを観察するようなもので、ようやく細胞の真の姿を見ることができるようになりました」(参考記事:「ヒトの精子のしっぽに謎のらせん構造、初の発見」)
2014年のノーベル化学賞を受賞したベツィグ氏は、米ハワード・ヒューズ医学研究所に属する研究機関ジャネリア・ファームのチームを率いて、既存の2つの技術と3つの顕微鏡を組み合わせた、新たな超高解像度顕微鏡「フランケンスコープ」の開発に成功した。
宇宙から細胞まで
生体内の細胞の撮影は難しい。今回の研究で使用したゼブラフィッシュのように、透明な生物であっても困難だ。特に今回の研究では、2つの光学的な問題が課題となった。
1つは、ゼブラフィッシュの表皮細胞が、車のフロントガラスについた水のように作用し、透過しようとする光がぼやけて散乱してしまう問題だ。より内部を見ようとするほど、像がゆがんでしまう。
この問題に対処するため、ベツィグ氏は補償光学という天体観測の技術を応用した。地上にある望遠鏡で撮影した場合、宇宙の遥か彼方の画像は、地球の大気により同様にゆがんでしまう。補償光学とはそのゆがみを測定し補正する技術で、星、銀河、他の天体の画像を鮮明で明瞭にできる。(参考記事:「世界最高の性能を誇るすばる望遠鏡」)
「光のゆがみ具合を測定できれば、鏡の形状を変えて反対の同じゆがみを作り、ずれを相殺できます」とベツィグ氏は説明する。
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