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BS1 ワールドウオッチング - WORLD WATCHING -

特集

2018年4月17日(火)

接近するバチカンと中国 その行方は

 
放送した内容をご覧いただけます

世界12億のカトリック教徒の中心であり、人権や世界平和を訴え続けてきたバチカン。

ローマ・カトリック教会 ローマ法王
「国際社会は一体となって、各地の残虐行為をやめさせなければなりません。」

そのバチカンが、これまで距離を置いてきた国が、中国です。
バチカンは、「中国のキリスト教徒には信教の自由がない」と、繰り返し中国当局の対応を非難。
対する中国も、「バチカンは国内問題に介入すべきではない」と批判。
両国は半世紀以上、国交を断絶してきました。
ところが、相容れないはずの両国が、ここに来て急接近しているとの報道が相次いでいます。
2つの国の間で、一体、何が起きているのでしょうか。

中国とバチカン 対立に新たな動きが

酒井
「カトリックの中心地であるバチカン、そして宗教への締めつけが強まっているとも指摘される中国。
その2つの国が今、急速に接近しているといわれています。」

花澤
「今日(17日)の特集は、この動きの裏に何があるのか、読み解きます。」

松岡
「バチカンと中国は、1951年から外交関係を断絶しています。
それはなぜか、改めておさらいしますと…。
中国のキリスト教徒の数は、政府の公式統計では、今や数の多いプロテスタントは3,800万人、カトリックでも600万人とされています。

しかし、大きな問題となっているのが『司教の任命権』です。
世界各国のカトリック教会では、ローマ法王が司教を任命しています。
しかし中国では、この司教の任命についても中国政府の許可が必要で、バチカンの任命権を認めていません。
これに、バチカンが反発。
『司教の任命権を持つのはローマ法王だけだ』と主張するのに対し、中国側は『それは“内政干渉”だ』と主張。
中国では、中国共産党が主導し、バチカンとは独立した形で、カトリックの団体を設立。
ローマ法王の意向に反する形で、独自に司教の任命などを行ってきました。
一方で、ローマ法王に忠誠を誓う人たちは、そこから分裂。
非公認の教会、いわゆる『地下教会』として活動してきました。

ところが、このところ、この対立に新たな動きがあると報じられています。」

接近する中国とバチカン その背景は?

香港TVB
「バチカンと中国が、まもなく合意するとの報道がある。」

先月(3月)以降、世界のメディアが、バチカンと中国が司教の任命権の問題について合意に近づいていると報道。
中国当局も否定しませんでした。

中国国務院 国家宗教事務局 外事司長
「中国とバチカンは接触を続けているし、いくつかの問題について深く話し合っている。
中国は両国関係を改善するため、真剣な姿勢で努力を続けている。」

しかし報道の中には、バチカンが今回、中国に大きく譲歩するのではないかという見方もあります。
バチカン側からは、中国との急速な接近に懸念の声が上がっています。

ローマ・カトリック教会 ベルナルド・チェルベッレーラ神父
「(合意すれば)中国政府に管理され、抑圧が強まるという意見もあります。」

ローマ・カトリック教会 元香港司教 陳日君枢機卿
「(中国の信者は)まさに『かごの中の鳥』です。
バチカンがカトリック信者を『鳥かご』に入れるのを手助けするようなものです。」

バチカンの思惑は?

酒井
「ここからは、宗教学が専門で、カトリックの事情に詳しい、北海道大学准教授の岡本亮輔さんに聞きます。
まずは、中国とバチカンが歴史的な歩み寄りに至るかもしれないという今回の報道、どう思われましたか?」


北海道大学 岡本亮輔准教授
「率直に、最初は驚きました。
これまでも関係改善しようという動きはあったんですが、なかなかうまくいかなくて、仮に合意に達したとしたら、歴史的な転換点だと思います。」

花澤
「なぜバチカンが、中国に歩み寄ろうとしているのでしょうか?」

岡本亮輔准教授
「大きく3つ理由があると思うのですが、まず1つ目は、『地下教会』で弾圧されながら活動をしている信徒さんたちを助けたいというバチカンの意図があると思います。
さらに2つ目は、今の法王のスタンスです。
前法王のベネディクト16世は保守的な法王だといわれていたのですが、今のフランシスコ法王はよりリベラルで、ご出身もアルゼンチンで、南米初の法王ということで、欧米中心主義の価値観ではなくて、ヨーロッパ以外の地域でより積極的にカトリックを広めていこうというスタンスがあるかと思います。
3つ目は、もともとカトリックの勢力が強かった西欧、ヨーロッパで『世俗化』と呼ばれる『教会離れ』が著しく進んでいることがあるかと思います。
フランスやイギリスなど、西側の先進諸国では信徒さんがどんどん減っていて、毎週日曜日の礼拝に行く人の割合が5~10%という国もあります。
さらに、礼拝に行っている人も高齢化が進んでいたりということがあって、教会が閉鎖されたり、壁が大きいので、カーペット屋や、サーカスの練習場になったりという事例もみられます。」

花澤
「その中で、バチカンにとって中国の魅力とは何なのでしょうか?」

岡本亮輔准教授
「中国というのはバチカンにとって、宗教的に、魅力的なマーケットなんです。
新しい信者を獲得するという意味では、世界の人口の5分の1近い人口を抱えていて、さらに、宗教が禁止されていたということは、ある意味、宗教を信じている人がいないので新規参入できるかもしれないという、非常に魅力的な場所だと思います。」

司教の任命権とは?

花澤
「それにしても、バチカンにとって中国での司教の任命権というのは、どれほどの意味を持つものなんでしょうか?」

岡本亮輔准教授
「なかなか分かりにくい部分だと思うのですが、司教というのは、その管轄している地域の信者の方々を監督したり指導したりする立場の方で、究極的にはローマ法王の権威や意図を信者さんに直接伝えるという役割を担っている方です。
カトリックの信者さんにとっては、日曜日のミサにあずかるということが救いにつながるという教えになっているんですが、そのミサも司教(や司祭)が行えるということで、この人事の任命権はいちばん大事な権威の源泉といえると思います。」

花澤
「教会というのは各国ごとに1つのピラミッド組織になっていて、大司教という方たちがいる。
その国ごとのトップを、誰が決めるのかということになるわけですね。
それを中国政府が決めるかバチカンが決めるか。
中国政府が決めると、バチカンとしては何を信徒さんに説くのかが分からなくなると?」
岡本亮輔准教授
「そうですね、法王のメッセージが伝わらなくなるということになります。」

花澤
「そこを譲るとすると、ものすごく大きな譲歩ということになりますよね。」

岡本亮輔准教授
「ある意味、カトリックがカトリックではなくなってしまうといえるほど、大きなことですね。」

中国のカトリック教徒の現状

酒井
「ここからは、中国総局の奥谷記者に聞きます。
中国国内で、カトリック教徒を巡る状況はどうなっているのでしょうか?」


奥谷龍太記者(中国総局)
「教会の活動は、中国当局により細かく監視を受けているのが実態です。
先日、私もミサの撮影のために北京市内のある教会を訪れたのですが、現地では『監視カメラで見られているからインタビューはしないでくれ』と言われました。
中国では、こうした監視や干渉を嫌って、当局から承認を受けずに活動する教会が多く存在しています。
こうした教会は『地下教会』とも呼ばれていて、政府の統計では、カトリック教徒は600万人ですが、地下教会なども含めると、実際の信者数は2倍はいるとみられます。
プロテスタントも公認された教会と地下教会があって、急速に信者が増えています。
当局は特に地下教会を警戒していて、とりわけ、信者数が増えて規模が大きくなった地下教会に対しては、いわば見せしめ的に、牧師や神父を拘束したり、教会や関連施設を取り壊したりする事例も出ています。」

中国の思惑は?

花澤
「バチカンと近づく中国側の思惑は何でしょうか?」

奥谷記者
「当局は、神父が政府を批判したり、民主主義や自由といった価値観を信者に伝えたりするのを恐れているわけです。
仮にバチカンとの間で何らかの合意ができれば、信者は地下教会ではなく公認された教会に集まってくることにつながり、管理がしやすくなる。
また、反政府的な意見の広がりを未然に防ぐことにつながると考えているとみられます。
今月(4月)、中国政府は『宗教白書』という文書を発表したのですが、この中には『宗教の中国化を進める』と書かれています。
つまり、宗教を無くすことはできないので、教会を共産党の管理下に置いて、党を支持するように誘導したい考えです。
中国共産党は神の存在を否定する無神論で、しかも習近平主席が最大の権威です。
しかし、当然、キリスト教は神を崇め、党員よりも聖職者が尊敬されているわけで、両者の価値観は全く違います。
当局が監視や圧力で管理しようとしても、信仰に心の救いを求める人々の心を共産党が本当に意味でつかむことは難しいのではないかと思います。」

花澤
「一方、このバチカンと中国の接近を固唾(かたず)を飲んで見守っているのが、台湾です。」

接近する中国とバチカン 背景に“台湾問題”

台湾が外交関係を維持する国は、現在20か国。
ヨーロッパではバチカンのみです。
しかし中国は、台湾とこうした国々との関係に揺さぶりをかけています。

特に、中国が「独立志向が強い」とする民進党の蔡英文政権が発足して以降、中国は台湾と外交関係のある国々にアプローチし、関係を断ち切らせるなどしてきました。

パナマ サインマ副大統領
「パナマは中国を唯一の合法政府として承認し、台湾との外交関係を断ち、あらゆる公的接触を放棄した。」

台湾と外交関係があるのは、キリスト教徒が多い国がほとんど。
バチカンが中国との外交関係を持てば、その影響が他の国々に広がる可能性も指摘されています。
バチカンと中国が接近しているとの報道について、台湾は…。

台湾外交部 高安欧州司長
「バチカンが(中国と)行っている協議は、政治的なものに及んでいない。
われわれは最も慎重な姿勢で、この協議の状況を注視している。」

市民の反応は…。

市民
「この先、台湾と外交関係がある国が減れば、私たちには大きなダメージです。」

市民
「バチカンと中国が外交関係を結んだとしたら、私たちは大きな無力感を覚えます。」

台湾側の受け止めは?

酒井
「ここからは、台北支局の高田支局長に聞きます。
台湾では、バチカンと中国の接近、どう受け止められていますか?」


高田和加子支局長(台北支局)
「台湾では、中国とバチカンの接近は宗教の問題にとどまらず、台湾との断交にまで発展してしまうのではないかと懸念されています。
今日も、蔡英文総統が、台湾と外交関係のある国との関係強化を図るために、アフリカに向けて出発しましたが、中国が各国に対して台湾との断交を迫るのではないかという心配が絶えません。
そのため、台湾メディアはバチカンと中国の協議の進捗も細かく報じていますし、議会でもたびたび質問が出ていて、その行く末は非常に注目されています。
台湾の外交部は、今のところバチカンからも説明を受けていて、断交に至る話ではないと説明しています。
しかし、台湾にとってバチカンはヨーロッパで唯一外交関係があり、国際的にも影響力の強い国だけに、仮に断交に至った場合、台湾に与える衝撃が大きいことは間違いありません。」

今後の行方は?

花澤
「一旦は合意間近、ほとんど合意したのではないかという報道もありましたが、現時点での状況はどうなっているのでしょうか?」


岡本亮輔准教授
「3月下旬にそうした観測が出たのですが、なかなか実際には難しいと思います。
バチカンといっても実際には一枚岩ではなくて、法王1人の独断で何かが決められるわけではありません。
幹部の中には特に人権などの面で中国と相容れない価値観を持っているわけで、そことの合意に抵抗感を持っている方もいらっしゃるかと思います。」

花澤
「つまり、法王主導で中国との合意までいこうとしたんだけれども、反対する人たちがいて難しくなったという理解でいいでしょうか?」

岡本亮輔准教授
「そういう見方でよろしいかと思います。」

花澤
「法王に対して周りが『それはやめましょう』という状況になるものなんですか?」

岡本亮輔准教授
「なかなかそれが明らかにされるわけではないのですが、実際には中でいろいろな考えを持っている方々が合議していて、その上に、ある種、総理大臣のような形でいらっしゃるのが法王という存在なのでなかなか簡単に意思決定ができるわけではないと思います。」

花澤
「これから、バチカンにとって最悪のシナリオとはどういうことになるでしょうか?」

岡本亮輔准教授
「それはやはり中国政府が管理する、例えば中国カトリック教会のようなものが出来上がってしまって、地下教会が排除され、中国の信者さんにカトリックがアクセスできなくなるという状況ではないかと思います。」

花澤
「今回、そもそも合意しようとしていたのかも分からないわけですが、今後どうなっていくでしょうか?
将来的にまた合意するということになるのでしょうか?」

岡本亮輔准教授
「それを模索するということはあるかもしれませんが、やはり長い時間がかかるのではないかと思います。
いずれにしても、こうしたニュースが出たということ自体が、ヨーロッパだけでカトリックが立ち行かなくなった、世俗化の傾向を大きく示す、非常に象徴的な出来事ではないかと思います。」

花澤
「ある意味、バチカンが、マーケットというか勢力を広げるために大事な部分を譲ろうとしたと受け止められましたよね。
バチカン、カトリックにとっての今回の事態の影響というのはどうなのでしょうか?」

岡本亮輔准教授
「司教の任命権という、いちばんカトリックにとって重要なものを、12億ともいわれる中国の人口の新たな宗教マーケットと、ある種、てんびんにかけざるを得なくなったというところが、バチカンの大きな変化を示す兆候ではないかと思います。」

花澤
「そして今回ダメだったということは、長期的に、数か月というスパンではなくて、当分合意はないということになるのでしょうか?」

岡本亮輔准教授
「そうですね、なかなかすぐにという形ではないかと思います。」

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