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ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた 作者:桂かすが

第一〇章

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196話 ヒラギス本土攻略


 山間部の峠を抜け、ようやくヒラギス本土と言える場所にたどり着いた。見渡す限りの平地が広がり、魔物さえいなければなかなかいい土地のようだ。森に潜んで辺りを窺う。

「あそこに見えてる町が次の目標ね」

 軍のな。それがなんで俺たちがやってんだろうね? すでに時間は午後も半ば。俺が作った峠途中の砦の引き渡しが案外遅かったのだ。やはり敵を警戒しながらだと行軍が通常より遅くなるようだ。

「結構でかいか? 殲滅はできるだろうけど、維持は難しいんじゃないか?」

 遠方に見える町は探知外であるが、周囲や町の空には相当数の魔物がうろうろしている。町中にも当然かなりの戦力がいるだろうことが予想される。殲滅は出来るだろうが、その後が問題だな。
 エルフの一〇〇人は一旦戻ってもらって今は俺たち一〇人だけである。普通のエルフは魔力の関係で長時間稼働はきついし、俺たちに比べると格段に機動力も火力も落ちる。
 そのエルフたちをもう一度呼び出したとしても大きな町の防衛は少々厳しいものがあるだろうか?
 出来なくもないだろうが、今占領すると夜通し……明日の昼くらいまで維持することになりそうだ。
 どうも軍は一旦途中砦で停止するようだ。まあ今から移動するとここに到達する頃には日は落ちているだろうし、賢明な判断ではある。

「軍の動きはやっぱりないか?」

 引き続きほーくで偵察してもらってるティリカが頷いた。

「軍の後続が到着した。周辺に偵察を出して、どうするか協議をしているみたい」

 手堅いな。姿を見せたくなかったとはいえ、ほとんど何も教えず引き上げたのはまずかったか。
 先遣隊が見えた時点でエルフの大半を送り返し、続いて俺たちも撤退。少数の残ったエルフにオークキングを含めて周辺の魔物をあらかた殲滅したことだけ告げさせて、そのエルフも先に進んだ俺たちに合流してからエルフの里に送り返したのだ。
 まあそれでこっちの思惑通りに動いてほしいというのは贅沢というものだろう。

「あとほーくを休ませてたら干し肉をもらった」

「それは良かったな。一応ほーく捕まったりしないよう気をつけるんだぞ」

 ティリカがちょっと顔が緩めて頷いた。召喚獣は食事の必要はないが、普通に食べることも出来る。同調を深くすれば五感すべてを共有できるらしく、それがなかなか面白い感覚らしい。

「今日はもう家に帰るか?」

 ほーくも動かしっぱなしでティリカの負担も大変だろう。俺も今日はもう十分に働いたと思うし、町の攻略は軍の動きに合わせたほうが効率がいい。

「それとも暗くなるまで狩れるだけ狩って帰るか……」

 こっちには多少のリスクが生じるかもしれない。ここまで山間部で好き放題奇襲をかけていたのだが、平野部で攻撃をかけるとなるとすぐに俺たちの存在がバレるだろう。やられるとかそんな心配はさすがにないが、戦闘を見られた魔物を完全に殲滅とはいないだろう。そうすると派手にやって魔族に俺たちの存在がバレる危険もある。

「どっちにしろ今日は家のほうに帰るのね?」

「戦場で徹夜とか嫌だろ。長丁場になるんだ。帰れる時は家で休みたい」

「ブルムダール砦へは戻らないの?」

「それは面倒になりそうな気がするし」

 神殿が探しているだろうし、ギルドに話がいっていてもやっかいそうだ。ここまで俺たちの姿は一切見られてないが、出撃したのはわかっているだろうし、エルフが関わっているとなれば俺たちが関係しているだろうことは想像に難くないだろう。ヒラギス居留地で俺たちがエルフの関係者なのは調べるまでもなくわかることだ。
 アンのことを考えると最悪拘束されるまで考える必要があるかもしれない。

「ごめんね、私のほうで対処出来れてば良かったんだけど……」

 アンが済まなそうに言う。

「気にするな。事態が急に動いたのが何もかも悪い」

 時間に余裕がないんだよな。軍があっさり負けてしまったのがそもそも悪いのだが、敵がいる戦争だ。予定通りいかないのは仕方がないが、かといって決死隊なんて編成して捨て石にするのもひどい話だ。
 俺たちのほうもギリギリまで修行をしての行動だったが、それも仕方のないことだった。お陰で前衛に不安はなくなったし、ミリアムもさすがに師匠に直接指導してもらっただけあって、ほぼ初めての実戦でオークキング相手に見事な動きをしてみせた。修行も大事だ。

「時間があるならもうちょっと稼いでおきたいわね」

 エリーが言うのも、今日は思ったより経験値が稼げてないからだ。ここまでの各自のレベルアップは折を見ては教えてあるのだが、途中の砦での防衛で襲ってきた魔物が案外少なかった。エルフの里での防衛戦が異常だったのだろう。
 砦からここまでも魔物を見つけては殲滅していたが、それは後衛が中心。前衛の経験値がもっとほしいし、後衛もまだまだ稼ぎ足りない。

「マサル様、雨が降りそうです」

 やはり効率を考えると軍の動きに合わせて、そう考えていた時にミリアムが俺に言ってきた。確かに雲が出てきている。

「ここの雨は短い時間ですが、降り出すとかなりな土砂降りになります」

 つまり視界がほぼなくなる。時間的に夕立かスコールか。

「雨に紛れて奇襲ができそうってことか?」

 ミリアムが頷いた。

「悪くない案だ」

 また場当たり的な行動になっているが、状況に合わせて臨機応変に動くのも大事だし。

「じゃあまたわたしとリリアでサンダーかしらね」

 まあもともと町への攻撃に対してはそれくらいしか選択肢はない。俺がやると町ごと消滅してしまう。魔物の襲撃で相当破損しているだろうが、あの町は軍の拠点となる予定だ。必要以上にぶっ壊せない。アイス系だと氷が解けるのをしばらく待つ必要があるし、建物への影響がよくわからない。凍ったところに水がかかると相当破損しそうな気がする。
 そうなるとサンダー系が一番いい。サンダーで火が出ることもあるが、雨なら都合もいい。

「降ってきたらすばやく町の近くまで移動して二人がぶっ放す。いいな?」

 あとはまあいつもの流れだな。素材を回収しつつ、生き残りに止めを刺していく。
 さほど待つこともなく辺りが暗くなり雨が降り出した。低空をフライで移動。土砂降りの雨は風精霊が防いでくれるので気にならない。思ったより視界はあるが、遠くになると霧がかかったように薄ぼんやりしている。発見される可能性は高いが雨音もすごいし、さっきまで飛んでいたハーピーたちも雨を嫌って地上に降りているようだ。
 町の側までうまく発見されずに近寄れ、恐らく元は農地だったろう雑草の生い茂る草むらに身をひそめることが出来た。

 風系雷撃最強呪文【霹靂(へきれき)】の詠唱が始まった。二人でだいたい町の範囲はカバー出来るだろうとのことだ。威力はなるべく強いめだ。
 敵の動きは良くわからない。探知は敵が多すぎて良くわからないし、視界もないし雨音も大きい。
 だがどうやら無事詠唱が終わりそうだ。

 二人の詠唱が完了――その刹那、視界は閃光で染まり轟音が響き渡る。雷光が町全体を覆い尽くす。

「どうじゃ!?」

 大規模な魔力を放出し、高揚した様子のりリアが聞いてくる。

「……半分以上は減ったかな」

 探知の反応はかなり減っていたが、それでも半分か、三分の一くらい残っただろうか。

「出来るだけ威力は強くしたんだけど、建物の中に入られるとダメね」

 森の木々くらいならお構いなしだが、さすがに屋根付きの建物だと倒せるほどの威力がなくなるようだ。
 雨で奇襲はいい考えだと思ったんだが、魔物も雨を避けて建物に入るくらいはするだろう。ちょっと失敗したか。

「どうする?」

 中に突入して前衛でなんとかするか、いっそ俺の魔法で破壊し尽くす。それとも諦めて明日にするか。
 せっかくだから倒した分は回収しておきたい。迷うところだ。

「雨が止むわね。わたしたちでもう一度攻撃してみましょうか?」

「そうだな……」

 雨が止めば魔物も外に出てくるだろうし、あいつらは血の気がひどく多い。仲間が倒れていて、大人しくはしていないだろう。少し時間をおいて攻撃すれば効果的かもしれん。

「よし。雨が止まったらもう一度だ」

 だけど問題は魔物側もやられっぱなしじゃないってことだな。町の城壁はところどころ崩れていて、今もそこからひょっこりオークが顔を出した。
 弓の準備をしている前衛には待機をしてもらう。敵がいることくらいはわかっていそうな感じではあるが、あの様子だと居場所までは特定できてない。俺たちを探すような素振りでオークやハーピーがうろつき始めた。
 こんなことなら前の詠唱中に土壁でも作っておくんだった。いま襲いかかられると周囲には何も障害物がない。

「詠唱を始めてくれ」

 雨は完全に止まった。探知の反応は活発に動き出している。そして詠唱が開始されると、魔物が一層騒がしくなった。とうとう見つかった。

「前衛、敵を近寄らせるな!」

 俺の命令でサティたちの攻撃も始まった。周囲に接近していたオークたちがパタパタと倒れていく。
 俺はどうするか。前衛に加わって攻撃に参加してもいいし、土魔法で防御に回ってもいいし……ゲートで逃げることも考えるか。

「来たれ、来たれ。全てを貫く最強の雷撃。神なる雷よ、天より轟き――」

 詠唱がそろそろ終わりそうだが魔物がかなり集まってきてる。こりゃ回収は諦めてさっさと逃げたほうが良さそうだ。前衛の能力を考えればさほどの危険はないだろうが、探知範囲全域に魔物の反応がある。戦争はまだ始まったばかり。素材がもったいないとかで無理する場面でもないな。

「「テラサンダー!!」」

 再びの閃光と轟雷。探知の光点が潮が引くように消滅していっている。戦果は十分。

「撤退しよう。エリー、ゲートはいけるか?」

 防御用の土壁を周囲に作るための詠唱をしながら言う。

「もちろん」

「町の中の魔物もまだ残ってるし、周り中魔物だらけだ。今日はもう無理しないでおこう」

 俺の言葉に頷きエリーが詠唱を始める。俺の方の詠唱が完了し、土壁が周囲を囲む。
 今日は色々あったがどうやら無事帰れそうだ。朝からずっと動きっぱなしだったし、実戦はひどく神経を使う。オークキングが出てきた時はガチで肝が冷えたし、今日は本当に疲れた――

「「お帰りなさいませ!」」

 ゲートが発動し視界が転換する。俺たちに気がついたすぐにメイドちゃんたちが何人かで出迎えてくれた。ずっと待機してくれていたらしい。
 今日の予定がわからなかったんで置いていって正解だったな。まあどこかでゲートで送り返せば良かっただけのことなんだろうけど。

「食事の準備を頼む。まずはお風呂で汗を流そう。話すことは食べながらまとめてでいいな?」

 まずはお風呂だ。楽しいお風呂で汗と疲れを流そう。出たら今日の反省会とレベルアップした分のスキル振り、予定が大幅に狂ったので今後のことも相談しないといけない。これはかなり長い話し合いになりそうだ。


 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


「まずは反省会ね」

 お風呂の後、大食堂で食事を開始してすぐにエリーが言った。

「今日はサティがずいぶんと頑張ったのう」

 リリアがナチュラルに上から目線で言う。しかし意識してやってるんじゃないだろうし、当のサティも褒められて嬉しそうだ。

「うん。今日の戦果は後衛のほうが多かったけど、それも前衛が守っていてこその成果だしな。最初に突っ込んできたオークキングを受け止めたシラーも良くやったぞ。あと首を取ったミリアムもな」

「兄貴、俺は?」

「お前は……普通に頑張ってた?」

「なんで疑問系なんすか! ちゃんと戦ってたじゃないすか!」

 確かにちゃんと戦ってた記憶はあるが、俺は予定外の行動で考えることが多かったしミリアムが心配だったしでウィルまで目配り出来てなかったな。

「そうねえ。しっかり前衛としての役目は果たしてたけど、あんまり目立ったところはなかった気がするわね」

 うちの副将のエリーさんも似たような意見のようだ。こいつは王子様の癖に普段ほんとに目立たんな。

「お前もシラーも修行で腕が上がったし、安心して任せられるようなったってことだ」

 ちょっとしょんぼりした様子のウィルをフォローしておく。

「それにオークキングと一対一で戦って倒してただろ。フランチェスカに言えば、きっと羨ましがるぞー」

 フランチェスカは剣聖と一緒のはずだ。だがヒラギスへの参戦は恐らく実家の父母と叔父であるリシュラ国王が許すまいという話だったのだが、どうにか説得でも出来たのだろうか?

「そうっすね!」

 ウィルのフランチェスカへのアプローチは相変わらず進展がない。というかそんな余裕がなかった。修行だけでみんな必死だった。まあそれはそれで苦楽を共にした絆みたいなのは生まれたはずだが……もうあそこには戻りたくねーな……

「はい! 今日は何がありましたか?」

 俺の後ろで給仕をしてくれていた留守番メイドちゃんの一人が手を上げて尋ねてきた。どうやら今日のことはまだ何も聞いてないらしい。
 この娘らにも一通り話しておいたほうがいいだろうな。仮にも加護候補なんだし、ミリアムを除いて四人のヒラギス出身者がいる。

「じゃあ最初から話していくか」

「そうじゃな。我らが軍の先遣隊の動きに合わせてここを発ったのは知っての通りじゃが……」

 そうりリアが話しだした。

「その先遣隊が魔物の手によって壊滅しておった」

「っ!?」

 軍は壊走。被害は甚大。和気あいあいと戻ってきた俺たちからまさかそんな話が出るとは思えなかったのだろう。

 続けてアンジェラがぽつりぽつりと語る前線の砦での夜を徹しての治療活動の様子。そして夜明けすぎ、俺たちとアンとティリカが合流する。

「決死隊のことを知ったマサルは言ったのじゃ。今からちょっと出かけていつもの狩りに行こうとな!」

 リリアのセリフに「おお~」とメイドちゃんたちから感嘆の声があがる。

「じゃがそれを阻む者たちが現れた。あろうことか聖女アンジェラを我が物にしようと神殿騎士の一隊が我らの前に立ちふさがったのじゃ!」

「我が物にしようとかしてないからね? 単に危険なところはダメだって止めようとしたってだけで」

「似たようなものであろうが。しかし決死隊はすでに出立しておる。騎士団にかかずり合っておる時間の余裕はない。そこにサティが――」

 剣聖の伝説の再現。あれはなかなかスカッとしたな。

「もはや邪魔者は居なくなった。そうなれば魔物の命運など決まったも同然よ。妾のフライで前線へと飛び立つと、雲霞の如く現れる魔物など瞬く間に殲滅じゃ!」

「それでいきなり飛び出てきちゃったけど、ギルドへはもう行かないほうがいいか?」

 リリアの語りが一段落ついたところを見計らって発言をする。リリアの独演会みたいになってるけど今は反省会だしな。

「たぶんそのほうがいいわね。それに今のところ、うちは何の仕事も請け負ってないわけだし」

 冒険者ギルドからはエリーが簡単に仕事の概要は聞いていたが、それもこれもパーティリーダーである俺が承認してからってことで実際にはどんな仕事も受けていない。受け入れていない。
 ヒラギス奪還の軍に加わるとは明言しているが、今まさにそれを始めたところだ。つまり好き勝手やっても差し支えないと言えなくもない。

「じゃあこのまま顔は出さないでおこう」

 どんな藪蛇になるとも限らない。それに軍に合流してしまうと、こうやって家に戻るのが難しくなる。
 そこからは魔物との戦闘の振り返りだ。やはり山間部での遭遇戦だと探知が無類の強さを発揮するな。
 そして途中の砦での数時間の防衛戦。

「エルフにも礼を言わないとな」

「それはさっき連絡がてら言っておいたわ」

 ああ、まずはエルフにも戦闘が終わったとの連絡が必要だったな。いつまでも待機させては悪い。さすがエリーさん、気が利く。

「そういえばほーくはどうした?」

「ゲートの前に戻した」

 気になったのでティリカに尋ねた。召喚獣は距離が離れすぎるとリンクが切れて独自行動になって、魔力がなくなった時点で勝手に消えるから特に問題はないが、これも忘れるのはよろしくないな。

 それから砦を軍へ引き渡し、道中の魔物を殲滅しながらの移動。この辺りも普段の狩りの延長だ。特に問題もない。
 そして平野部での町への二度に渡る広範囲雷撃。

「一回目で半分くらい。二回目で九割くらいは殲滅できていたはず」

 だけどその後がまずい。町の周囲の敵もさすがに俺たちに気がついて殺到してきた。倒せなくもなかっただろうが、後衛が危険に晒される。

「今回茂みに籠もれたから手を抜いたけど、平地でやるなら砦を作ってからのが安全だな」

 簡易な砦を最初の攻撃後すぐくらいに作って、防御しながら二回目の攻撃。そして町への突入か。必要ならエルフも召喚する。
 まあそれをやっちゃうと今頃魔物への対応で、風呂どころかご飯すらまだだってことになりかねかったけど、明日になって軍の支援があるならそんな感じにやることになるのだろうか。

「町を壊していいならいくらでもやりようはあるんだけどな」

 メテオで更地にして生き残りが居ても、今日みたいに二発目打ち込むか前衛で処理すればいい。だが勝手に動き回った挙げ句、破壊の限りを尽くすのも支障があるだろう。

「いざとなれば再建を手伝えば良いのではないか?」

「まあいざとなったらな」

 リリアは簡単に言うが町作りもするとなるとまた時間が取られるしそれは避けたい。話し合いの結果、余裕のあるうちはこのまま非破壊の方針でやっていくことになった。町への損害を度外視するのはもっと状況が悪くなってからでいい。

「それで町に突入するとなると前衛がもっとほしいよな」

 剣聖率いるビエルスの剣士隊が使えれば最高なんだが、ゲートの公開とトレードになる。師匠とホーネットさんとかの信用できるメンバーだけ? ちょっと少ないし、増やそうにも今日明日の時間のなさで信用できるかどうかの判別をするのも難しい。
 エルフの誰かにフライで運んでもらうか? それが現実的な気がするが、剣士隊を連れて歩くとなると今日みたいにゲートでの撤退が使えなくなる。

「難しいな」

 皆で剣士隊の同伴を検討してみるが、やはりそういう結論になった。

「今は手持ちの戦力でやるしかないわね」

 情報開示をしたくない以上仕方がない。まあまだ戦力に余力はある。今日撤退したのは無理をしたくなかったからだ。

「師匠へ助けを求めるのはいよいよ危ないとなったらにしよう」

 今日の反省会はこんなところか。スキルの割り振りは時間がかかるし個別にやるから後回しにして……

「なら次は今後の方針ね。明日はまず今日の町の攻略をするとして、それからどうするの?」

 ここまでやった以上今更戻ってギルドの指示を仰ぐという選択肢はない。エリーは最初から派手にやるのに異存はないだろうし、他のみんなも特に異論はなさそうだ。
 今回のそもそもの目標はヒラギス奪還であるが、さすがに俺たちだけでは無理があるだろうし、少々目的がふんわりしすぎてる。もう少しはっきりとした目標が必要だ。

「たしかこっちの軍は北の首都を目指すと見せかけて陽動をかけるって話だったな?」

「ええそうね」

 その間に南部攻略軍が南からヒラギスを順に制圧していく、そういう計画らしい。

「だったら俺たちがそれを手伝ってやろう」

 軍の基本方針に沿う形で動く。それならば後々文句も少なくなるはず。

「じゃあ次はヒラギス北部で陽動ね?」

「いや、まずは南に向かおうと思う。せっかくだし南部方面軍も助けてやろう」

「それは良い考えじゃな」

 エリーたちも頷く。何日かかけて南を荒らす。町への攻撃が中心になるだろうけど、拘らずにとにかく魔物を殲滅していく。北方攻略軍は放置になるが、剣聖率いるヒラギス剣士隊が加わっているはずだし任せておけばいい。それとも接触してちゃんと頼んでおいたほうがいいだろうか? ミリアムなら顔は割れてないし、こっそり接触させればいいか?
 師匠にはなるべく前線近くに居てもらって、いつでも動けるようにしてもらいたい。

「そうすると魔物の目が南に向くはずだ。まあ陽動の効果はともかく、魔物の数はとにかく減らす」

「あとで地図を見て攻撃しやすい町とか村を検討してみましょう」

 ヒラギスの地図はエリーが入手済みのようだ。

「そして頃合いを見て、首都を直撃する」

 首都をつくと見せかける必要などない。実際に攻撃してみせればいい。それは最高の陽動になるだろう。

「ヒラギス首都を我らの手で奪還するのじゃな!」

 基本は今日のように攻撃して逃走となる。もし奪還までとなると何か作戦を考えないとダメだろう。

「上手く行けばな?」

「マサルがそう決めたのじゃ。上手く行くに決まっておる」

「まあそのあたりは臨機応変に行こう」

 途中で軍とかギルドに捕まって怒られるかもしれないし。

「じゃあ次はポイントの割り振りだな。どれにするか決めてるのから聞こうか」

 首都を狙うまでにまだまだレベルも上がって戦力も強化されるのだ。どうにかなるだろう。

コミカライズ5話まで公開中です

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アスカム子爵家長女、アデル・フォン・アスカムは、10歳になったある日、強烈な頭痛と共に全てを思い出した。  自分が以前、栗原海里(くりはらみさと)という名の18//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全284部分)
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  • 最終掲載日:2018/04/24 00:00
八男って、それはないでしょう! 

平凡な若手商社員である一宮信吾二十五歳は、明日も仕事だと思いながらベッドに入る。だが、目が覚めるとそこは自宅マンションの寝室ではなくて……。僻地に領地を持つ貧乏//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 完結済(全205部分)
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  • 最終掲載日:2017/03/25 10:00
ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント-

世界最強のエージェントと呼ばれた男は、引退を機に後進を育てる教育者となった。 弟子を育て、六十を過ぎた頃、上の陰謀により受けた作戦によって命を落とすが、記憶を持//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全180部分)
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  • 最終掲載日:2018/03/17 16:22
レジェンド

東北の田舎町に住んでいた佐伯玲二は夏休み中に事故によりその命を散らす。……だが、気が付くと白い世界に存在しており、目の前には得体の知れない光球が。その光球は異世//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全1711部分)
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  • 最終掲載日:2018/04/24 18:00
この世界がゲームだと俺だけが知っている

バグ満載のため、ある意味人気のVRゲーム『New Communicate Online』(通称『猫耳猫オフライン』)。 その熱狂的なファンである相良操麻は、不思//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 完結済(全242部分)
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  • 最終掲載日:2018/04/04 00:00
ありふれた職業で世界最強

クラスごと異世界に召喚され、他のクラスメイトがチートなスペックと“天職”を有する中、一人平凡を地で行く主人公南雲ハジメ。彼の“天職”は“錬成師”、言い換えればた//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全314部分)
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  • 最終掲載日:2018/04/21 18:00
Knight's & Magic

メカヲタ社会人が異世界に転生。 その世界に存在する巨大な魔導兵器の乗り手となるべく、彼は情熱と怨念と執念で全力疾走を開始する……。 *お知らせ* ヒーロー文庫よ//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全140部分)
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  • 最終掲載日:2018/04/22 15:37