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北朝鮮「突然の核開発終了」の真意を伝える「二つの重要文書」を読む

これからは「核保有国」として…

朝鮮半島情勢が、再び急転回した。今週金曜日、27日に板門店で開催される文在寅大統領と金正恩委員長との南北首脳会談を前に、北朝鮮が「今後は経済建設に専念する」と宣言したのだ。北朝鮮による中国式の改革開放宣言である。

2016年5月、北朝鮮は第7回朝鮮労働党大会を開き、「核建設と経済建設」の並進政策を採択した。それから2年近くを経て、大きな路線転換である。以下、具体的に見ていこう。

二つの重要な「決定書」

4月20日、朝鮮労働党中央委員会第7期第3回全員会議が、「革命の首都」平壌で開かれた。金正恩委員長が指導し、常務委員、政治局員、同候補、中央委員、同候補、検査委員らが参加。省や中央機関、道、市、郡、主要工場、機関、企業所、協同農場、党、行政府の幹部、武力機関メンバーなどが、オブザーバーとなった。

金正恩委員長が基調演説を行った後、2つの「決定書」が採択された。

一つ目は、「経済建設と核武力建設の並進路線の偉大なる勝利を宣布することに対して」。その全文は、以下の通りだ。

〈 第一に、党の並進路線を貫徹するための闘争過程に、臨界前核実験と地下核実験、核武器の小型化、軽量化、超大型核武器、及び運搬手段開発のための作業を順次進行し、核武器の兵器化を確固として実現したことを、厳粛に闡明するものである。

第二に、主体107年(2018年)4月21日から、核実験と大陸間弾道ロケット試験発射を中止する。核実験中止を透明性をもって担保するため、共和国(北朝鮮)北部核実験場を廃棄することにした。

第三に、核実験中止は、世界的な核軍縮のための重要な過程であり、わが共和国は、核実験の全面中止のための国際的な志向と努力に合流するものである。

第四に、わが国家に対する核の威嚇や核の挑発がない限り、核武器を絶対に使用しない。またいかなる場合でも、核武器と核技術を移転しないものとする。

第五に、国の人的、物的資源を総動員し、強力な社会主義経済を作り上げ、人民生活を画期的に高めるための闘争に、すべての力を集中させるものだ。

第六に、社会主義経済建設のために有利な国際的環境を整え、朝鮮半島と世界の平和、安定を守護するため、周辺国や国際社会との緊密な連携と対話を積極化させていくものである 〉

 

「決定書」の二つ目は、「革命発展の新たな高い段階の要求に合わせて、社会主義経済建設に総力を集中することに対して」。その全文は、以下の通りだ。

〈 第一に、党と国家の全般的な事業を、社会主義経済建設に志向させ、あらゆる力を総合的に集中させるものである。

第二に、社会主義経済建設に総力を集中するための闘争において、党と勤労団体組織などと、政権機関、法機関、武力機関などの役割を高めていく。

第三に、各級の党組織などと政治機関などは、党中央委員会第7期第3回全員会議で決定した執行状況を、正常的に掌握し、総括しながら、徹底的に貫徹するようにする。

第四に、最高人民会議常任委員会と内閣は、党中央委員会全員会議の決定書に提示された課業を貫徹するための法的、行政的、実務的措置を取るものとする 〉

北朝鮮は何を「宣言」したのか

私はこの二つの重要な「決定書」を、全員会議が開かれた翌21日の朝鮮労働党中央委員会機関紙『労働新聞』で読んだ。この日の『労働新聞』は、二つの「決定書」以外にも、教育科学大国を目指すとか、新たな幹部人事が承認されたとか、全員会議で決議した多くの事項が盛りだくさんだった。

中でも非常に重要な二つの「決定書」を精査してみよう。今回、北朝鮮が宣言したのは、以下の7点だ。

核兵器の完成

北朝鮮は、2015年7月に核合意したイランのように、「核兵器を開発している途中で断念する」と言っているのではない。そうではなくて、「核兵器が完成して核保有国となった」と宣言しているのである。つまり、あくまでも対等の核保有国として、アメリカと交渉していく姿勢を示している。

核実験と大陸間弾道ミサイル実験の中止

トランプ大統領が昨年来、「北朝鮮への空爆も辞さない」と怒りをあらわにしているのは、「アメリカ本土が北朝鮮の核ミサイルの脅威にさらされるようになった」ことが直接の原因である。それを踏まえて北朝鮮は、アメリカ本土を射程に捉えた大陸間弾道ミサイル(ICBM)の実験を慎むと宣言したのである。

一方、日本にとって脅威になっているのは、射程距離1万㎞以上に及ぶICBMではなくて、1000㎞~2000㎞のノドン・ミサイルである。ところが北朝鮮は、今回の党全員会議において、ノドン・ミサイルについては、一切言及していない。すなわち、日本にとっての北朝鮮のミサイルの脅威は、いささかも減っていないのである。

北部の核実験場を廃棄する

これは、2006年10月、2009年5月、2013年2月、2016年1月、2016年9月、2017年9月と、これまでの計6度の核実験を行った咸鏡北道吉州郡豊渓里(プンゲリ)にある地下核実験場を指す。北朝鮮は、「もう二度と核実験をやらない」ことを示すために、この豊渓里の核実験場を廃棄するというのである。

このことに関して、指摘したいことがある。それは、豊渓里の崩落事故である。