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シンボルを長く、対応する変調方式を拡大し高速化
その下にある「OFDMシンボル長」は、1回のOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)変調で送信するデータの長さを表す。シンボルが長いほど、1回の変調でより多くのデータを送信できる。IEEE 802.11acまでの無線LAN規格では、OFDMシンボルの長さは4マイクロ秒(ガードインターバル0.8マイクロ秒+データ3.2マイクロ秒)を基本としていた。
これに対して802.11axでは、無線LANを屋外環境で使用することに対する要望や、上り方向のマルチユーザー伝送をサポートするために、OFDMシンボルのデータ部の長さが4倍の12.8マイクロ秒に拡大されている。これに伴い、20MHz幅のチャネル内に配置されるサブキャリア数も従来の52から242に変更されている。
ただしサブキャリア数の変更の影響で、IEEE 802.11axでは無線設備規則で規定されている「占有周波数帯域幅」の規定を守れなくなる。そのため、802.11ax機器を日本国内で使用するためには、周波数規則の改正が必要になる。
「サブキャリア変調方式」は、搬送波の変調方式を表す。いちどに変調できるデータ量が多い方式を使っているほうが、最大伝送速度も速くなる。802.11acでは256QAMまでだったが、802.11axでは1024QAMが追加される。これにより、最大伝送速度が802.11acの6.93Gビット/秒から9.6Gビット/秒に拡張される。
混雑緩和の新技術が盛り込まれる
混雑緩和に寄与する技術としては、マルチユーザーMIMO(MU-MIMO)とOFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)、周波数資源の空間的再利用(Spatial Reuse)という三つの技術に注目したい。
MU-MIMOは、APと複数のクライアントの同時通信を可能とする技術だ。IEEE 802.11acでも採用されていたが、適用可能なのは下り方向だけだった。これに対して802.11axでは、上り方向のマルチユーザーMIMOも導入される予定である。
OFDMAも、APとクライアントが1対多で通信する際に使用する技術である。既に、LTEやWiMAXなど採用実績があるが、無線LANでは802.11axではじめて採用される。Spatial Reuseは、多くの無線LANネットワークが存在する場所(高密度環境とも呼ばれる)における効率改善を目的とし、同じ周波数チャネルを従来よりも短い距離で再利用するための技術である。これも802.11axではじめて採用される。
今回は802.11axの特徴を俯瞰したが、次回以降、IEEE 802.11ax規格のポイントについて解説してゆく。
[1]Laurent Cariou、「Usage models for IEEE 802.11 High Efficiency WLAN study group(HEW SG)Liaison with WFA」(IEEE 802.11-13-0657-03、2013年7月)。https://mentor.ieee.org/802.11/dcn/13/11-13-0657-03-0hew-hew-sg-usage-models-and-requirements-liaison-with-wfa.ppt.で参照可能
[2]Osama Aboul-Magd、「802.11 HEW SG Proposed PAR」(IEEE 802.11-14-0165-01、2014年3月)。https://mentor.ieee.org/802.11/dcn/14/11-14-0165-01-0hew-802-11-hew-sg-proposed-par.docx.で参照可能
[3]Osama Aboul-Magd、「802.11 HEW SG Proposed CSD」(IEEE 802.11-14-0169-01、2014年3月)。https://mentor.ieee.org/802.11/dcn/14/11-14-0169-01-0hew-802-11-hew-sg-proposed-csd.docx.で参照可能