クロアチア東部、ボスニア・ヘルツェゴビナとの国境沿いに、スラヴォンスキ・ブロッドという町がある。コウノトリのマレナは、この町の郊外で暮らしている。翼を傷めていて、飛ぶことができないのだ。
マレナを保護しているのは、71歳になるスティエパン・ヴォーキッチさんである。3人の息子はそれぞれ遠くへ巣立ち、妻とは死に別れたため、現在は一人暮らしだ。
25年前、まだ幼いマレナは翼に銃弾を受け動けない状態だった。それを発見したヴォーキッチさんはマレナを保護し、甲斐甲斐しく面倒をみている。
もう二度と飛ぶことは叶わないマレナだが、彼女を見初めたオスが現れた。クレペタンはその愛を貫き、毎春1ヶ月をかけ、14,000km以上の距離を越えて帰ってくる。
コウノトリは渡り鳥なのでずっと一緒にいることはできないが、この通い婚は16年も続いているという。
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飛べなくなったコウノトリ
1993年、25年前のことである。スティエパンさんは、お気に入りの釣り場での一ヶ所で、まだ若いマレナを発見した。マレナはケガをしていて動けなかった。翼に銃弾を受けていたのだ。
スティエパンさんはマレナを連れ帰って保護した。献身的な看病で健康を取り戻したマレナだが、残念ながら飛べるようにはならなかったのだ。
スティエパンさんはマレナが冬を過ごす倉庫を十分に暖め、水槽と巣を入れた。マレナはここで「人間のお父さん」と一緒に冬を過ごすのである。
image credit: YouTube
スティエパンさんはここでマレナに定期的に水浴をさせる。脚には保湿クリームを塗ってあげる。そしてマレナが寂しくないよう、一緒にコウノトリのドキュメンタリー番組を見る。
「そのまま放っておけば、遠からずキツネか何かに食われていたことでしょう」とスティエパンさん。
「私が保護したことで彼女の運命を変えてしまった。ですから、私はマレナの人生に責任があるのです」
飛べないマレナにも恋の相手ができた
保護されてから9年がたった。飛べないマレナにもつがいの相手ができた。
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クレペタンと名付けられたそのオスは、脚につけられた追跡システムによると、南アフリカ、ケープタウンの近くの湿地で北半球の冬に当たる時期を過ごしている。
そして毎春、1ヶ月をかけ、14,000km以上の距離を越えて帰ってくるのだ。
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無事に再会した二羽は、夏の間に、スティエパンさんの手も借りつつヒナを育てるのである。スティエパンさんは毎日30kmの距離を釣りに行き、コウノトリ一家のために小さな魚を20匹以上釣ってくるのだ。
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クレペタンは自分で魚を捕りには行かないという。しかし、遊んでいるわけではない。ヒナたちに飛び方を教えるという大仕事があるのだ。こればかりはスティエパンさんが代わることはできない。
「私は自分の子どもたちを育てました。だから、マレナにもそうしてほしいのです」
クレペタンの「通い婚」はもう16年続いており、巣立った雛の数は60羽を超えている。
A stork love story
秋の別れと春の再会
ヒナの成長は早く、孵って2ヶ月もすると渡りができるくらいに成長し、アフリカを目指して飛び立つ。クレペタンはさらに2ヶ月をマレナと共に過ごし、秋になるとしばしの別れを告げ、子どもたちの後を追うのだ。
だが、旅立つクレペタンにとっても、残されるマレナにとっても、別れの時はつらい。スティエパンさんによると、マレナは「あなたは早く旅立って。私は行かれないから」とでも言っているようなそぶりを見せるという。
するとクレペタンは屋根に上がり、マレナのことを見ようとしなくなる。そうして2、3日過ごした後、マレナが生きていることを確認して、アフリカへと旅立っていくのだ。
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残されたマレナは10日間ほど嘆き悲しんでいるという。
そこで、スティエパンさんはマレナを釣りに連れて行き、気持ちを切り替えてやるのだ。そうして、一人と一羽で共に冬を越せるようになるのだそうだ。
「アフリカに連れて行くことはできませんが、釣りになら連れて行けますからね」
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そして翌春のクレプタンの帰りを待つのである。クレペタンの帰還は、マレナにとってはもちろん、スティエパンさんにとっても喜びだ。
「息子の一人が帰ってきたような気がするんですよ」
The man who adopted a stork - BBC Travel Show
References: Oddity Central / YouTube など / written by K.Y.K. / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
映画化なんてされなくても今年のオスカー像は
彼らのものだ。
2. もと冬の樹
なんちゅーいい話だ。
3. 匿名処理班
優しい人に助けられて本当に良かったよ…幸せな世界が続くといいなあ
4. 匿名処理班
「私が保護したことで彼女の運命を変えてしまった。ですから、私はマレナの人生に責任があるのです」
この言葉がすごく心に響いたよ
5. 匿名処理班
クレペタン、どうか生き抜いて
6. 匿名処理班
16年という年月の重み
7. 匿名処理班
25年前に保護して、
60羽以上雛が巣立った。
コウノトリって長生きなんだなあ・・・。
8. 匿名処理班
なんてカワイイ恋のお話…
9. 匿名処理班
凄いとしか言えない。何て素晴らしい話なん。何かに感謝したい。
10. 匿名処理班
飛べなくなってしまったけど、
優しいお父さんと愛情深い夫、かわいい子供たちに恵まれてよかったね。
みんな末永く元気で幸せに暮らしてほしい。
11. 匿名処理班
爺さんが先に天に召されませんように
クレペタンも毎年無事に戻ってきますように
どうか幸福な結末でありますように
12. 匿名処理班
通い婚のオスのコウノトリもこの男性を受け入れてるのが凄い
13. 匿名処理班
私が保護したことで彼女の運命を変えてしまった。ですから、私はマレナの人生に責任があるのです
素晴らしい
14. 匿名処理班
出かける前になんちゅうもんを読んでしまったんじゃ…ちょっと泣いてしまった
※12
お義父さんってわかってるのかもね
15. 匿名処理班
僕も東京と大阪と博多の人と純愛してるよ
16. 匿名処理班
このおじいさんの生活はコウノトリ中心に回っているのだね。子育てシーズンは毎日釣りに行かねばだし。コウノトリのドキュメンタリーを一緒に見たり、釣りに行ったりしてるとこも見てみたい!
17. 匿名処理班
私が保護したことで……の言葉を見て、某漫画の「一度飼ったものは最後まで面倒をみるのが人として当然」って台詞を思い出した
この三者の穏やかな関係ができる限り続いて欲しいと願わざるを得ない
18. 匿名処理班
愛しか感じられない
なんて凄まじい愛なんだ…
19. 匿名処理班
※4
軽々しい気持ちで「何とかしてあげたい」なんてのもエゴだと判るよね。
運命を変える決断は重い。