オーストラリア政府がデザインシステムを発表したので調べてみた
2018年4月23日、オーストラリア政府が新しいサイトと2つのデジタルサービスを発表しました。
Digital Transformation Agency は政府が提供している公共サービスのデジタル化を助けるガイドの役割を担っています。記事中で「再設計された」と書かれていますが、どうやらこれまで https://www.dta.gov.au/ だったのを、試験的に https://beta.dta.gov.au/ へ移行・アップデートしているようです。DTAの役割についてaboutを見ると
政府のサービスに対する人々の経験を向上させることを約束します。これは、政府内でこれらのサービスを提供するスキルを向上させることを意味します。
私たちは他の代理店と協力して、シンプルで明確で使いやすいサービスの作成を支援します。人々は私たちのすべての中心です。私たちは、能力に関係なく、あらゆる場所、あらゆる場所でサービスを提供することにコミットしています。
これを行うために、われわれは平易な英語を使用し、実際のユーザーと一緒に研究を行い、正しい方向に進むようにします。
といった記述が見られます。このあたりはイギリスやアメリカなど他の政府系と同じ方向性を感じさせますね。
新しく提供が開始されたのはデザインシステムとデジタルサービスのガイドラインの2つです。
どちらも興味深いですが、まずはデザインシステムについて調べてみることにします。
デザインシステム
サイトの構成は
- About
- Get started
- Components
- Templates
- Community
- Support
となっています。Aboutの下にはデザインシステムを利用することのメリットとして
- 高品質なビジュアルデザイン
- モダンな設計
- レスポンシブ
- コミュニティによるテスト済み
- アクセシブル
- IE8などの古いブラウザの対応
- JS、jQuery、Reactなどフレキシブルな選択肢
- カスタマイズ可能
- モジュラー形式
- バージョン管理がされている
- 継続的な改善をしていく
- コミュニティによるサポート
が挙げられています(いくつかはニュアンス違うかも)。
続いてGet started…は飛ばしてComponentsを見てみます。面白いのが3つのステータス「Released」「In progress」「Suggestions」ごとに現状が割り振られていること。例えばSuggestionsに入ってるNavigationを見ると、コミュニティ内で提案がなされ、議論中であることがわかります。
ちなみにぱっと探してみたところデザインデータの類は提供されておらず、UIKitもWeb上のものとなっていました。
テンプレートは準備中だったので、次はコミュニティを覗いてみます。
コミュニティは、おそらくですが誰でも登録をすればディスカッションに参加することができそうです。今後はイギリス政府のように、職員専用のSlackワークスペースなんかも誕生するかもしれませんね。その他にも、デザインシステム自体のビジョンについての説明(ワールドクラスのUIデザインシステムを構築し直す・刺激的で大きなチャレンジでもある、1度に1つの目標を分解して素早くユーザーに届ける)や使い方などについて触れられています。
最後のサポートは、コミュニティ・Github・QAへのリンクが貼られています。
以上がデザインシステムについてでした。続いてデジタルガイドを読んでいきましょう。
デジタルガイド
デジタルガイドはオーストラリア政府のメンバーがデジタルサービスを構築・実行するのに役立つ指針や情報を集約しています。サイトの構成は
- Home
- Digital Service Standard
- Service design and delivery process
- Starting a team
- User research
- Content Strategy
となっています。1つずつ見ていきましょう。
Digital Service Standardではベストプラクティスとして
- ユーザーのニーズを理解する
- 持続可能な学際的チームを持つ
- アジャイルでユーザー中心のプロセスをとる
- ツールとシステムを理解する
- 安全にする
- 一貫性のあるレスポンシブなデザイン
- オープンスタンダードと共通プラットフォームを使用する
- ソースコードをオープンにする
- アクセシブルにする
- サービスをテストする
- パフォーマンスを測定する
- デジタル以外の体験も忘れないように
- 誰もがデジタルサービスを使用するよう奨励する
の13項目がPrincipleとして掲げられています。各原則はそれぞれ詳しく解説されているので、気になった人は↑のページにアクセスするとよいでしょう。
例えば「パフォーマンスを測定する」では、どのようなKPIを持つといいか、どのように測定を始められるとよいか、などが簡潔にガイドされています。
他にも上記のPrincipleがポスター(pdf)で提供されていたり、どのような時にDigital Service Standardに従うべきなのか、といった項目も用意されています。
Service design and delivery processではサービスデザインと、サービスを提供するプロセスについて言及されています。始めるにあたっては
- 概要
- ユーザー体験全体を持つ
- 発見ステージ:課題の探索
- アルファステージ:テスト仮説
- ベータステージ:サービスの構築とテスト
- ライブステージ:サービスの改善
の順番でそれぞれ解説がされています。例えば発見ステージのページでは
- 準備をする
- このステージで何をするか
- チームのキックオフ
- コンテキスト別にユーザー調査をおこなう
- 中間成果物の作成
- ユーザーのジャーニーマップの作成
- ペインポイントの作成
……といった順にどうすればいいかが解説されています。どの項目も面白いので、Principleと合わせて目を通すとよいと思います。
Starting a teamではどのようにチームを組み立てていくか、なぜチームであることが必要なのかについて書かれています。
User researchでも同様に、ユーザーリサーチをおこなう理由や、はじめ方がガイドされています。こちらもコンテンツが充実しているので、ユーザーリサーチに興味のある人は各ページを覗いてみると良いと思います。
Content Strategyも同様ですね。実はここまで読んで皆さんお気づきかもしれませんが、各ページは「What」「Why」「When」「How」で構成されているんですよね。この構成、分かりやすくて一貫性もあり、とてもいいなあと感じました。
デザインシステムとはステートメントかもしれない
というわけで、ざっくりとですがオーストラリア政府が発表したデザインシステムとデジタルガイドを紹介してみました。いろいろページを巡って調べていくうちに、政府がデザインシステムを作ることの効能って、もちろんサービスの一貫性や組織内への知見をインストールもありますが、それ以上に「宣言すること」なんじゃないかなと感じました。私たちが目指すべき方向性はこうです、実際に仕組みを利用してこういう風に進めていきます、皆さんもコミュニティに入って一緒に考えていきましょう、というのをデザインシステムを通して伝える(それは政府のサービスを利用するユーザーにも、サービスを提供する職員に向けても)というのは、なんというか一石二鳥な感じを受けました。
日本政府がデザインシステムを構築するとしたらどういう順序で作るのか?なぜ作るのか?そんなことを夢想するのも楽しいんじゃないかと思います。