J-STAGEセミナー「信頼されるオープンアクセスジャーナルの要件とは」に参加してきました
J-STAGE, 2018.04.09こんにちは、ダニエル・イッスです。
3月20日に開催されたJST主催のセミナーに参加してきました。
今回は「信頼されるオープンアクセスジャーナルの要件とは」をテーマに、主に以下の内容が発表されました。
- J-STAGE登載誌の品質向上に向けて~信頼されるオープンアクセスジャーナルの要件とは~
- ジャーナルのオープンアクセス化に向けた国内の取り組み事例(2学会)
- 学術ジャーナルのコンサルを専門とするINLEXIO社(オーストラリア)による日本の学協会におけるオープンアクセス化の課題・問題点
オープンアクセスといっても、実はフリー公開と何が違うのか曖昧であったり、オープンアクセス化に向けてどのように取り組むべきか分からない学協会も多いかと思います。
今回は、セミナーで取り上げられた「オープンアクセスの定義」と優良な信頼のあるオープンアクセスジャーナルを採録する「DOAJ」の2つに絞ってまとめてみたいと思います。
オープンアクセスとは
まず、オープンアクセス(以下OA)とフリー公開の違いについて、結論から言うと・・・
オープンアクセス(OA) | CCライセンス等によりあらかじめ利用者の権利を明示し、再利用にあたっての著作権問題をクリアにしている |
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フリー公開 | 個人利用目的以外の複製、電子蓄積・転送、翻訳などは著作権者から事前の許諾が必要である |
とされています。では、上記はどこで定義づけられているものでしょうか。
Budapest Open Access Initiative
OAの定義としては、2002年に公開されたBudapest Open Access Initiativeによるものがよく知られています。ここでは
「公衆に開かれたインターネット上において無料で利用可能であり、閲覧、ダウンロード、コピー、配布、印刷、検索、論文フルテキストへのリンク、インデクシングのためのクローリング、ソフトウェアへデータとして取り込み、その他合法的目的のための利用が、インターネット自体へのアクセスと不可分の障壁以外の、財政的、法的また技術的障壁なしに、誰にでも許可されることを意味する。」
と記載されています。
OAと聞くと「論文に無料でアクセスできること」ととらえられがちですが、Budapest Open Access Initiativeではそれだけではなく、著作権をクリアにすることで、自由に再利用できることがOAであるとしています。また、著作権は主にクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)におけるCC-BYライセンス、またはそれと同等のライセンスの下で公開することを推奨しています。
クリエイティブ・コモンズ・ライセンスについてはまた別の機会でご紹介したいと思いますが、インターネット上で無料でアクセスできる(=フリーアクセス)にプラスしてCCライセンスなどで二次利用についても明確にしていることが一般的なOAの定義となっているようです。
続けて、DOAJについて取り上げたいと思います。
DOAJとは
DOAJ(Directory of Open Access Journals)は、スウェーデンのルンド大学が運営するOAジャーナルのデータベースで、世界124カ国の1万1千誌以上のOAジャーナルの目録が収録されています(2018年3月時点)。
DOAJは、質の高いOAの査読誌をインデックスしていると謳っているように、数多い審査項目を経たOA誌だけが収録されています。そのため、OAジャーナルを発行する機関は、DOAJにジャーナルが掲載されることによって、優良なOAジャーナルであることを示すことができます。
では、国内ではどれだけのジャーナルがDOAJに収録されているのでしょうか。
残念ながら、国内が発行するOAジャーナルは、19誌しか収録されていないようです。数年前までは多くの国内発行のジャーナルが収録されていましたが、2016年にDOAJ全体の4分の1に当たる約3,300誌のジャーナルが審査基準の見直しによって削除され、日本では残念ながら世界で1番削除率が高い74%が削除されるという結果になりました。
※国別の削除率ランキング
1位 | 日本(74%) |
2位 | パキスタン(60%) |
3位 | カナダ(51%) |
4位 | 米国(50%) |
5位 | メキシコ(49%) |
(引用元:Helping journals to improve their publishing standards: a data analysis of DOAJ new criteria effects)
審査基準の見直しの背景として、DOAJに掲載されているジャーナルの中に、著者から投稿料を徴収することを目当てとした信頼性に疑いのあるジャーナル(ハゲタカジャーナル)が多く含まれており、これを削除する目的があったようです。削除された国内のジャーナルがすべてそのようなジャーナルだったわけではないはずですが、審査基準が厳しくなったことにより残念ながら振り落とされてしまったものと思われます。
その結果、削除されたあとも国内のジャーナルは増加されず現在にいたります。まだ国内ではOA化に向けた動き、また、DOAJへ申請するという流れは少ないようです。
しかし、DOAJの審査をクリアすることによって、OAジャーナルの信頼性を獲得することができ、また、助成機関の方針(助成した研究成果はオープンにする)に対応することによって、優良なOA誌に投稿したいという研究者のニーズに応えることができると思います。
完全OA化はこれまでの学協会の方針もあるので、なかなか話を一歩先へ進めることが難しいかもしれませんが、セミナーで講演した2学会のスライドおよびDOAJの審査基準の一覧が後日J-STAGEのサイトにて公開されると思いますので、他学会の事例を参考にしつつ検討してみてはいかがでしょうか。
OA化でお悩みであればお役に立てるお話ができるかもしれませんのでお気軽にご相談ください。
ではでは。