fhánaが3月28日、3rdアルバム『World Atlas』をリリースした。同作はアニメとの出会いのなかで生まれたシングル楽曲を含みつつも、「新たな地図を探す旅」と題して出かけた『Looking for the World Atlas Tour 2017』で感じた手応えや、世相、社会情勢も反映させた、ポップスとしても高い強度を持つ作品に仕上がっている。
リアルサウンドでは同作のリリースにあわせ、fhánaのフロントマン・佐藤純一とUNISON SQUARE GARDENの田淵智也との対談が実現。ロックシーンで厚い支持を得ながらも、アニメシーンでも人気があり、個人名義やプロデューサーチーム・Q-MHzで音楽作家としても大活躍する田淵と、佐藤との関係性や共通点とは。UNISON SQUARE GARDENの最新アルバム『MODE MOOD MODE』と最新シングル『春が来てぼくら』の話も交えながら語り合ってもらった。(編集部)
シーンを俯瞰で見る2人の共通点
ーー2人の表立っての関係性としては、田淵さんもメンバーのひとりであるプロデュースチーム・Q-MHzが手がけた小松未可子さんの「My sky Red Sky」(アルバム『Blooming Maps』収録)にfhánaが編曲で参加、という縁はありながらも、バンド同士の接点が見当たらないのですが。
佐藤:そうですね。バンド同士というより、田淵さんとfhánaの4人で交流があるという感じです。
田淵:fhánaのことは昔から一方的に知っていました。2〜3年くらい前に作曲家界隈の忘年会にお邪魔して、そこで初めてfhánaの4人と話して、ライブも見に行かせていただいて。
ーー2人はお互いをどういう音楽家だと思っていますか。
佐藤:僕にとって田淵さんは、理想的な活動をしている音楽家なんです。ロックバンドとしても多くのファンを獲得しつつ、アニソンを書くときも、いわゆる「ロックバンドがアニメのタイアップをしました」という感じではなくて、良い曲かつ意味のあるタイアップにするのが上手い方で。しかも、作家としても活躍して、プロデュースチームまで作っているという。
田淵:ありがとうございます。佐藤さんは、初めてお会いする前に読んだインタビューが印象的で。「この人、めちゃくちゃ時代を読むセンスがある人だ」と、勝手にシンパシーを感じました。だから、忘年会の会場で見かけた瞬間に、緊張を解くためにお酒をグッと飲んで、佐藤さんに突撃していった記憶があります(笑)。
ーー具体的に、どういう部分にシンパシーを感じたのでしょう。
田淵:「今の時代がこうで、音楽の役割はこう」と今の立ち位置を客観的に見ている人で、僕もそういうことを取材で言いがちなんですよ。楽曲についても、聴けば聴くほど緻密に曲を作ってる人なんだなと感じますし、ライブに行ってもデカい音で聴くべき音楽をやっているなと。それらを含めてfhánaはサウンドメイクを高い偏差値でやってる集団だし、佐藤さんはそのリーダーとしてすごい人なんだと思っています。
佐藤:田淵さんが俯瞰していろんなことを考えているなというのは、お話を聞いていたり、インタビューを読んでいてもそう思いますね。プロデューサー的な気質や視点があるというか。だけど、完全に俯瞰してるなかでも「俺、俺!」みたいな強い自己主張を感じるところが田淵さんの面白いところだし、ユニゾンにパンク的なアティチュードを感じる部分なんです。
田淵:なるほど。僕、仮面被るのが上手なんですよね。バンドとして物を言うときはちょっと偉そうにすべきとか、作曲者の立場だとあくまで楽曲の細かな部分で我を出すだけとか、プロデュースするときはプロデューサー面をする……みたいな。別に取り繕っているわけでもなんでもなく、全部素なんですよ。カメレオンのように瞬時に変わっているというか。
佐藤:その場所ごとに仮面を変えるなんて、僕は全然できないんです。fhánaのときも、ソロワークのときも、プライベートの時もほとんど同じですから。
田淵:僕、よく「身の丈に合うことをやる」って言葉を使うんです。バンドのときはその身の丈にあった態度をとるし、作曲仕事も、身の丈に合わせたエネルギーの出し方をしている。そこに一番適した実力のものを出すようにしているのかもしれません。
ーー2人の大きな違いを挙げるとしたら?
田淵:佐藤さんは自分のバンドでもさることながら、編曲も自分で全部できるし、持っている手札の数で結構な差があると思います。僕は曲を作る以外できないから、全部一人で完結できる人は憧れますね。「音楽家たるものそうでなければ!」と思って勉強したけど、結局ダメだったので(笑)。
佐藤:そう言ってもらえて光栄なんですけど、僕は自分のことを7割が作曲家・メロディメイカーで、3割が編曲家くらいの比率の人間だと思っているんですよ。もちろん、自分で完パケることもできるんですけど、fhánaは僕以外の男性2名も1人で完パケられるメンバーなので、お互いに持ち寄って補い合いつつも、トータリティ的な部分は僕がしっかりとディレクションするからこそ出てくる絶妙なバランスみたいなものがあります。
田淵:「メロディだけ考えて、編曲を人に任せられたら楽だ!」と思いますか?
佐藤:信頼できる人に任せられるなら。
田淵:そうですよね。「自分が少し時間を割けば円滑に進むのではないか」みたいなのを判断することはバンドにおいて大事だし、全部できる人って、巡り巡って「これだったら俺がやったほうが早かった」みたいなことに気付く瞬間があるような気がしていて。なんとなく、佐藤さんは「これだったら俺がやったほうがいい」という事柄に反射的に気づいている人のような気がするんですよね。
佐藤:そうかもしれないです。でも、それでも僕がバンドを大事にしているのはバンドという形態に昔から憧れがあるからで。田淵さんがバンドを始めたのっていつなんですか?
田淵:コピーバンドを含めて良いなら、高校一年生ですね。
佐藤:そのとき、バンドメンバーに技術的なフラストレーションって感じませんでした?
田淵:ははは(笑)。僕はほぼ最初から今の2人と近い環境でやっていたし、元から上手かったので、フラストレーションはなかったですね。キャリアを積んでいくなかで、「こういうことやってみたいな」というときにストレスなくトライできるのは、自分のバンドの強みだと思うようになりました。他のバンドから「こういうフレーズをドラムが叩けない」という話を聞いて、「俺、めっちゃラッキーだな」と(笑)。佐藤さんはそういう時期があったんですか?
佐藤:僕はバンドとDTMをそれぞれ半々くらいやってきたんですよ。高校生のころにバンドを始めたんですけど、周りにはプロ志向の人がいなかったので「こういうのやりたいんだけど」ってデモを渡しても、全然その感じにならなくて。宅録についても、デビューしてから動画投稿サイトが盛り上がって、「こんなすごい人たちは、今までどこにいたんだ」と驚きました(笑)。今の田淵さんの話を聞いていたら、メンバーとは必然的に知り合って、自分のやりたい音楽が作れていたからバンドになったという風に感じたのですが、根本的に音楽がやりたかったのか、バンドがやりたかったのか、どっちなんでしょう?
田淵:ああ、なるほど。僕はバンドがやれればなんでも良かったですね。ベースを始めたのも、バンドをやるために一番競争率の低い楽器を選んだだけでしたから(笑)。仮に一緒にやる人がそんなに上手くなくても、それはそれでバンドができているだけで満足感に浸っていたのかもしれません。
佐藤:こういう音楽がやりたかったから、というのは無かったんですか。
田淵:僕は音楽偏差値が低くて、好きなバンドは狭いし、洋楽はほとんど聴いても覚えられないし、「こういう音楽をやりたい」みたいな崇高な理想はない人だと思います。だから、自分の中から生まれてきたものを、良い感じに聴こえるように工夫してきたし、その音楽が幸いにも、自分の好きな“ポップなメロディでロックバンドのていをとっているもの”だったから、ここまで来れたのかもしれません。
佐藤:田淵さんの作り方って、ボトムアップ的なものなのかもしれないですね。僕は真逆で、作りたい音楽のイメージを共有して作っていく感じなんです。でも、以前のバンドでは、自分も周りも理想に追いついてなくて。次第によくわからなくなって、僕自身もコーネリアスやAIRみたいなソロユニットも良いかなと思うようになったりして。
田淵:そう考えれるのって、元から持ってる手札の差なんですよ。僕はやろうと思ってもできないんだから。
佐藤:はじめからfhánaのメンバーに出会えていたら、ずっと同じバンドでやってこれたかもしれないですね。今のメンバーとは、4人で化学反応が起こせていると思うので。
田淵:fhánaが佐藤さんのワンマンバンドにならなくて済んだ要因って何だと思いますか?
佐藤:単純な話ですけど、「年齢」という言葉に尽きるのかもしれません。
ーーそれぞれ元々は違う世代のメンバーが集まってできたバンドですからね。
田淵:だから人間関係的にも良好だし、年長者・リーダーとしてある程度発言もできるし、喧嘩も少ないわけですか。
佐藤:会社でも対等な立場のトップがいると上手くいかないことも多いし、そういう意味で僕らは良い具合に補完しあえているんだと思います。僕はyuxukiくんみたいに上手くギターは弾けないし、kevinくんみたいにカットアップを使った今っぽいトラックが作れるわけでもないし、towanaみたいに上手くも歌えない。必要不可欠なメンバーが集まっている集団なんでしょうね。
田淵:なんだ、めっちゃ良いバンドじゃないですか!
佐藤:田淵さんはユニゾンというバンドがあって、個人の作家活動もあって、Q-MHzもあるけど、fhánaってなんとなく、ユニゾンとQ-MHzの中間くらいだと思うんです。
ーー確かに、複数人のプロデューサーがいるという意味では、fhánaはある意味クリエイターチームでもある。
佐藤:そうなんです。
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