「Detroit:Become Human」,ゲーム序盤のインプレッションと,ディレクター/脚本家によるQAセッションの模様をレポート
このイベントではDetroitの序盤を試遊できたので,さっそくそのインプレッションをお伝えしよう。なお,ゲームの性質上,少々ネタバレっぽくなってしまう箇所もあることを,あらかじめご了承いただきたい。
またプレイ後には,本作でディレクター/脚本家を務めたQuantic DreamのCEO,デヴィッド・ケイジ氏に対するメディア合同のQAセッションの場も設けられたので,その模様も合わせてお届けする。
現実の社会に起きている問題を扱い,感情を引き起こすようなゲームを目指して――「Detroit:Become Human」ディレクター/脚本家デヴィッド・ケイジ氏インタビュー
「Detroit: Become Human」公式サイト
ゲーム序盤をプレイしただけでも
物語の深さとスケールの大きさを予感できる
今回のイベントでは,Detroitの冒頭10チャプターをプレイできた。本作の舞台となるのは,2038年のアメリカ・デトロイト。この世界では,人間と同等の外見や知性を備えたアンドロイドが労働や作業を担っており,生産性や利便性を向上させ,経済の発展に寄与している。
しかしその一方では,アンドロイドに職を奪われ失業した人間達による“アンドロイド差別”も招いており,実際に暴力行為なども発生している。
さらには原因不明だが,自意識や感情を持つかのような振る舞いをする「変異体」と呼ばれるアンドロイドも出現するようになっていた。
そんな状況の中,本作では主人公となる3体のアンドロイドの物語が,海外の連続ドラマのように1チャプターに1シーンずつ交互に描かれていく。
主人公の一人・コナーは,オーナーである人間を変異体アンドロイドが殺害するという事件の捜査に派遣された捜査官アンドロイドだ。今回のプレイでは,人質に取られたオーナーの娘を変異体アンドロイドから救い出すというシーンと,ベテラン刑事とともに殺人事件の犯人を捜すというシーン,そしてその犯人を尋問するシーンを体験できた。
相棒となるベテラン刑事・ハンクをはじめ,警察の人間はコナーに非協力的。そこでコナーは事件現場に残された証拠を独自に調査し,事件当時に何が起きたのかをリプレイ映像のように再現する特殊能力「状況シミュレート」を駆使して推理を進めたり,犯人を説得する材料を作ったりしていくこととなる。情報をどれだけ収集できたかは数字で確認できるので,できるだけ多く集めて有利な状況を作りたいところ。
さらに説得や尋問を成功させるために,犯人である変異体アンドロイドの自白を促すために脅したり,なだめすかしたりすることになる。こちらも犯人の感情や心理が数字で示されるので,ときに高圧的に,ときに感情に訴えかけるようにバランスを取る必要がある。
二人めの主人公・マーカスは,悲惨な事故にあって脚が麻痺し,隠遁生活を送っていた老画家・カールをオーナーとする男性型アンドロイド。かいがいしいマーカスのサポートにより絵画への情熱を取り戻しつつあるカールの穏やかな生活を描くシーンと,カールがマーカスの自我の萌芽を期待するようなシーン,そしてカールと息子のレオの対立にマーカスが介入して……というシーンを体験することができた。
そして3人めの主人公・カーラは,アンドロイドに職を奪われ,さらには妻にも逃げられたオーナー・トッドの家で家事を行う女性型のアンドロイドだ。今回のプレイでは,修理から戻ったカーラが家事を再開するシーン,アルコールと薬物で日々をやり過ごしているトッドが,彼の娘であるアリスに暴力を振るおうしたとき,カーラがどうするのか決断を迫られるシーン,そしてアリスとともに逃げ出したカーラが,一晩の宿を求めて人間を相手にどんな行動に出るのか迫られるシーンを体験できた。
ゲーム中は主人公が何か動作可能な場所に近付くと,Quantic Dreamの前々作「HEAVY RAIN -心の軋むとき-」(PlayStation 4 / PlayStation 3。以下,HEAVY RAIN)や前作「BEYOND: Two Souls」(PlayStation 4 / PlayStation 3)と同じく,該当するスティックやボタンの操作を要求する表示が出るのだが,それを実行するかどうかはプレイヤー次第だ。ただし実行すれば分岐が発生し,物語の展開や,登場人物の心理や感情が変化することもある。
正解は決まっておらず,プレイヤーが何を実行し,何をやらなかったか,あるいは何を見落としたかによって物語は変化していく。そして本作には,その分岐ポイントが驚くほど多く用意されているのである。
またそうした分岐は,シーンをまたいで物語全体に影響を与える。例えばあるシーンで引き出しに拳銃があることに気付けば,のちのシーンでそれを護身用に持ち出すことも可能だ。さらにあとのシーンでは,もっと別な用途に拳銃を使うことになるかもしれない。
逆に最初に拳銃の存在に気付かなければ,そのあとのシーンでは拳銃を使う分岐は出てこなくなる。「何か武器があれば……」という局面に立てば,拳銃以外の手段を探す羽目になるわけだ。
加えて,特定のシーンで何かを見逃すことにより,のちのシーンそのものがなくなることもある。
そうした膨大な分岐や変化の末に生み出されるのが,「Detroit: Become Human」というプレイヤー自身の物語である。実際,筆者もプレイ終了後にほかのイベント参加者と情報交換してみたのだが,大筋では似通った展開でも,このシーンで誰それがあんなことをした,あのシーンではこういう結末になったと細かい部分がまったく異なっており,その「あり得たかもしれない選択」の多さに驚かされた。
またアンドロイド達が抱く自我や感情,自分達を作り出した人間に対する葛藤なども見どころだ。今回は物語の最後までプレイできていないので,それらがどのような結末を迎えるのか,またそのバリエーションがどのくらいあるのか全貌は見届けられなかったが,10チャプターの範囲内だけでも相当深く,かつ大きなスケールで描かれていることがうかがえた。
そうした壮大な物語を,Quantic DreamによるPlayStaton 4最高峰のグラフィックスとともに味わえるのが,本作である。興味を持った人は,ぜひプレイしてみてほしい。
ディレクター/脚本家のデヴィッド・ケイジ氏が
QAセッションでメディアからの質問に回答
──Detroitの開発には4年ほどかかっているとのことですが,こうして完成した今,どんなお気持ちですか。
デヴィッド・ケイジ氏:
安堵と,情熱と不安が入り交じった感情があります。安堵に関しては,実をいうと開発の途中で「あまりにも複雑で脚本を書き上げられないんじゃないか」「分岐構造が複雑すぎて完成しないんじゃないか」と思った時期があり,それを乗り越えて,こうして完成させられたからです。
もう一方の情熱と不安については,4年もかけて完成させたゲームですから多くの人に楽しんでほしいと思う半面,Detroitが多くのゲームと違うこと,そしてそれを伝える手段もまたほかとは違うという独自性の点から,プレイした人がどんな反応を示すのか分からないからです。
もう一つ。Detroitでは,これまであまりゲームには取り上げられてこなかった非常に重いテーマを扱っています。「ゲームでこうした難しいテーマを語れるのか,語ってもいいのか」というチャレンジも含まれているのです。
──各チャプターのプレイを終えるとフローチャートが表示され,どこにシーンの分岐となる部分があるのかが明らかになります。こうした仕様を採用した理由を教えてください。
デヴィッド・ケイジ氏:
そこは本作における重大な決断でした。私達が過去に手がけたゲームでは分岐がある部分を示してこなかったのですが,それが間違いだったのではないかと考えたからです。
というのも,例えばHEAVY RAINをプレイして全シーンの20%程度しか見ていないにも関わらず,多くの人は「なかなかいいシーンが多かったね」という感想を抱いてしまい,自分が80%ものシーンを見逃していることに気付けないんです。
一般的なゲームではさまざまなトリックを活用し,ゲームプレイを通じて分岐が多いように見せているので,裏の構造を明かすのをためらうこともあるでしょうが,Detroitではプレイヤーの選択が異なる結末をもたらすことにかなりこだわったので,あえてフローチャートを隠す必要はないと判断しました。
実際,プレイヤーの皆さんは自分の選んでいない分岐があることを知ったら,それがどんな結末を迎えるのか見たいという欲求が生まれるのではないでしょうか。通常のゲーム開発では,コストの関係でプレイヤーの10%しか見ないようなシーンは最初から作らないのですが,Detroitはプレイヤーが自分で物語を作っていくゲームを目指しました。実際に,プレイヤーによって違う体験ができるゲームとなっています。
──フローチャートに表示されるポイントの意味を教えてください。
デヴィッド・ケイジ氏:
ポイントはゲーム内で分岐を経るごとに溜まっていきます。そして溜まったポイントは,コンセプトアート集やサウンドトラック,メイキングビデオなどゲーム内のボーナスコンテンツをアンロックするときに消費します。
──今回プレイできた全10チャプターは,ゲーム全体のどれくらいの割合を占めるのでしょうか。
デヴィッド・ケイジ氏:
10チャプターはおそらく2時間から2時間半程度でプレイできるでしょうが,ゲーム全体となると早くても10時間,通常は30時間くらいはかかると思います。今回お目にかけたのは,あくまでもプロローグと捉えてください。
またDetroitは,フローチャートを使えばいくらでもやり直しが可能ですが,初回プレイではぜひ自分自身の心にしたがった選択で最初から最後まで遊んでいただきたいです。それが,本当の意味でその人の作った物語なのです。そのあとに,我々が一生懸命作った分岐を楽しんでください。
──メニュー画面に出てくるアンドロイドの女性についても教えてください。
デヴィッド・ケイジ氏:
彼女は「クロエ」という名前で,ストーリーの中で重要な役割を果たしますが,登場するのはゲームをかなり進めてからです。またDetroitのリリース前に,彼女に関するサプライズ的な何かを皆さんにお見せする予定があるのですが,今はまだ明かせません。
また彼女は単なるシステムメニューのような存在ではなく,日付や時間帯,ゲームの進行などいろんな事柄に対してプレイヤーにコメントを発します。彼女には,リアルに存在しているんじゃないかと思わせるトリックを仕込んでいます。
──日本のQuantic Dreamのファンに,どんなイメージを抱いていますか。
デヴィッド・ケイジ氏:
日本の皆さんは,ユニークな体験を求めるという印象があります。また新しいことや感情を揺さぶられるゲームに,貪欲であり寛容でもあります。
同時に,AIやロボットといった要素が日本の文化の中で重要な地位を占めていると思いますので,Detroitの何が日本の皆さんに響くのか,非常に楽しみにしています。
──Detroitを作ったことで,ご自身のAIやロボットに対する考え方は変化しましたか。
デヴィッド・ケイジ氏:
AIはどこから知性と呼べるのかといったことを考えるようになりました。もちろんAIは,特定の分野においてすでに人間の能力を凌駕しています。それでは我々人間は,どのポイントからAIを生物と見なすのか。非常に興味深いです。
Detroitでは,自分達の作り出した機械が生物のようになってしまったことに対する人間の反応を描いています。多くの人間は,それをバグだと判断します。というのも,自分達の作ったものが自分達自身の能力を凌駕することは,人間にとって非常に大きな意味を持つからです。
──それでは,ご自身でAIやロボットを作ってみたいと思ったことはありますか。
デヴィッド・ケイジ氏:
非常に難しい質問です。というのも,誰しもテクノロジーは欲しいからです。新しいものはどんどん開発してほしいですし,それを次々に進歩させてほしい,便利にしてほしいと願っています。
その一方で,テクノロジーに依存しすぎることに対するネガティブな気持ちもあります。実際,テクノロジーが私達の生活様式や脳の働き方に影響を与えるという研究結果もあります。例えば現代人には長い時間同じ作業に集中することが困難になる傾向がありますが,それはおそらくインターネットやスマートフォンの台頭により,次から次へと新しい刺激にさらされる環境に順応しているからだと言われています。
また,私自身ショックを受けたのですが,誰かと二人で話しているとき,お互いの顔を見る時間よりもスマートフォンの画面を見ている時間のほうが長いという事態も頻繁に起きています。それはテクノロジーによって,テクノロジーとの付き合い方がうまくなっているけれども,目の前にいる人間との付き合い方が下手になってしまうということかもしれません。テクノロジーにはそういった副作用があります。
実はDetroitの中にも,機械と付き合うようになって,もう人間との付き合いはいらないというような表現が出てきます。しかし人間と機械のカップルだらけになり,人間と人間のカップルがいなくなるというのは,人間としては極めて暗い未来像ではないでしょうか。以上のような理由から,自分でAIやロボットを作りたいかどうかという質問には少々答えにくいですね。
現実の社会に起きている問題を扱い,感情を引き起こすようなゲームを目指して――「Detroit:Become Human」ディレクター/脚本家デヴィッド・ケイジ氏インタビュー
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