3Dプリンターでつくられた宇宙船で、人類は再び月を目指す
NASAが計画している月軌道への有人ミッション。アポロ17号以来、約半世紀ぶりに人類を地球低軌道の外へと運ぶのは、宇宙船「オリオン」だ。そのオリオンには、3Dプリンターで“印刷”された部品が使われることになる。大気圏再突入の超高温でも溶けないという、その新素材の実力とは。
TEXT BY MATT REYNOLDS
TRANSLATION BY ASUKA KAWANABE
WIRED (UK)
1972年12月、アポロ17号の船長ユージン・サーナンは月に降り立ち、月面に足跡を残した最後の人間となった。それから半世紀近く、サーナンの足跡に近づいた者はいない。
われわれは太陽系中やその先にまで、無人探査機を送り込んできた。しかしアポロ17号の月面着陸以降、地球低軌道の向こう側に行った人間はいないのだ。
しかし、3Dプリンターでつくられた100以上のパーツからなる宇宙船が、それを変えるかもしれない。
史上最強のロケットで宇宙へ
NASAの宇宙船「オリオン」は2023年までに、人類がかつて行ったことないほど遠くへと、最大4名の宇宙飛行士たちを運んでいく予定だ。
史上最もパワフルなロケットに載せられて打ち上げられるこの宇宙船は、地球を2周したのちに月を数周し、地球へと帰還する。開発を担当しているのは、ロッキード・マーティンとエアバスだ。
2019年の“無名”の試験飛行でも使われる予定のオリオンは、NASAの有人宇宙探査計画の核となる。この宇宙船はやがて、クルーを火星やその先へと運ぶようになるだろう。
オリオンは、スペース・ローンチ・システム(SLS)で打ち上げられる最初の宇宙船でもある。SLSはNASAの大型ロケットで、打ち上げ時の推力は記録破りの5,000トン(500万kg)である。
大気圏再突入でも溶けないプラスチック
速度は秒速11.2km(時速25,000マイル=4万km)、温度2,500℃の大気圏再突入に耐えうる宇宙船をつくるために、エンジニアたちは素材を再考する必要があった。
通常、プラスチックは使えない。融点が低く、時間とともにゆっくりとガスを出して太陽電池などの部品を使えなくしてしまうからだ。そこで出てきたのが、3Dプリンターを使おうというアイデアだ。
3Dプリンターメーカーのストラタシスは、この問題を解決するために新素材に目をつけた。オリオンの部品や、NASAのロケット「アトラス V」の部品の一部を手がけるストラタシスが使っているのは、宇宙船の打ち上げ時の極端な温度や力にも耐えられる「Antero 800NA」という素材だ。
「宇宙船に使われるプラスチックの条件は厳しいのです。非常に頑強で、優れた耐熱性をもつ必要があります」と、ストラタシスの製造ソリューション担当ヴァイスプレジデントを務めるスコット・セヴシックは言う。この新素材は、ジェット燃料や油に浸かっても、化学反応を起こすことがない。
この熱可塑性樹脂は、オリオンのドッキングハッチのすぐ外にある部品に使われる予定だ。この部品は別々に3Dプリントされた6つのパーツからできている。これらがかっちりと組み合わさって、宇宙船の外部に使われるリングをつくるのだ。
ドッキングハッチは主に、長期のディープスペースミッションで宇宙飛行士がオリオンと居住モジュールの行き来をするために使われる。これは地球帰還時にも役に立つだろう。太平洋着水後に波が高すぎる場合、クルーたちはサイドハッチではなく、ドッキングハッチから外に出ることができる。
さらにこの新素材は、宇宙船の電気系統に異常が起こるリスクを最小限にするよう設計されていると、セヴシックは言う。
彼のチームは素材にカーボンナノチューブを加えた。静電荷の蓄積を防ぎ、ミッション中に厄介な異常が起こるのを防ぐためだ。「宇宙で静電荷が蓄積して電気系統に放電されると、代替の効かない部品を壊してしまうことになるのです」
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