2018年4月24日(火)
さまざまなタイトルを手がけるフライハイワークスの代表取締役・黄政凱さんへのインタビューを掲載する。
フライハイワークスは、ローカライズやゲーム開発を行っている。2011年に設立されて以来、多数のタイトルにたずさわってきた。
黄さんには、同社の事業やゲーム業界にかかわることになった経緯、手がけたタイトルの印象などについて語っていただいた。ダウンロードゲームの価格やメリット・デメリットなど興味深い話にも迫っているのでぜひご覧いただきたい。
――まず、御社の事業について簡単に教えていただけますか?
パブリッシッングがおもな業務です。2013年以降に90本弱のダウンロードタイトルを国内で出しています。それとは別にローカライズ案件や翻訳案件も行なっています。
――最近ではパブリッシッングがメインになっている印象ですが……。
その通りです。別にどちらかにしぼっているわけではありません。ゲーム業界で仕事をしたいと思った際に、何ができるかを具体的に考えたら、中国語への翻訳でした。そのためにその時はローカライズをメインにしていて、後にパブリッシッングで参入させていただきました。
――業界に入ろうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?
ゲームが好きだったことが根幹にあります。個人的な話になるのですが、もともと日本で生まれてすごしました。10歳の時に両親が台湾に帰ることになり、25歳まではあちらで暮らしていました。
台湾で『NiGHTS into Dreams...』にふれたのですが、まずは幻想的なゲームであると思いました。また、描かれる夢の世界の表現や物語に感動して泣きました。
――『NiGHTS into Dreams...』は好きな人も多いタイトルですね。
はい、大好きです。当時の台湾はつめこみ型教育で、「勉強しなさい、偉いことをしなさい」という思考の人が多かったんです。一方でゲームはエンタメで、生活必需品ではありません。だからこそ、そこに情熱を懸けて本気で作っている大人がいることに感銘を受けて、「一生ゲームを遊びたい、なんならゲームにたずさわる仕事をしたい」と思いました。26歳で再び日本に来て、いまになります。
よく「ゲームばかりしていると勉強ができない」というように怒る話がありますが、私自身はゲームを遊ぶことで頭がよくなったと思いますし、問題解決能力がよくなったと思います。さらに人としての反応速度がよくなったと感じていますし、さまざまな人生を疑似体験することで善悪がつくようになった……むしろゲームはいい影響しかしていないと思っています。
――ちなみに、他に好きなタイトルはなんでしょう?
昔はセガが大好きで、セガ派でした! 弊社のフライハイワークスの“フライハイ”は、好きな『バーニングレンジャー』のオープニングである『Burning Hearts ~炎のANGEL~』のクライマックスから取っています。
――業界に入って、光吉猛修さんにお会いはしたことは?
以前に光吉さんが台湾でライブをされた際に、コーディネーターをしたのでかかわらせていただきました。恐縮ですが、仲よくしていただきました。ライブでもアクセルを踏みっぱなしの姿勢がものすごくカッコいいですよね。
時間を多く費やしたタイトルは『バーチャファイター』シリーズですね。ただ、ここ数年で一番遊んでいるのは『スプラトゥーン』です。『スプラトゥーン1』は1300時間ほど、『2』は450時間ほど遊んでいます。すべての腕前がS+なのが自慢です(笑)。
――かなり遊ばれていますね!
それまでサードパーソンシューティングにふれてこなかったのですが、ずっとやっています。僕はエイムがうまいわけでないので、塗ることに特化した“わかばシューター”を使っています。立ち回りで貢献しているのが、楽しいですね。
食後にちょっとやると、「ゲージが上がるまでやろう」となって、上がったら「いま、いい感じに動かせているからあと2回だけやろう」となって、負けたら「いや、今のは相手がうますぎたからノーカウント」という感じで、止め時がわかりません(笑)。
魅力が何かを語れないから、いまだにハマっているのかもしれませんね……。
――負けてもモチベーションを保てるのはいいゲームですよね。『バーチャファイター』はどこにハマったのですか?
『バーチャファイター』は駆け引きにハマりました。もちろんものすごい人には歯がたたないのですが、うまい人でも相手のクセを研究すれば勝てると思いました。頑張ればできることをゲームを通じて学びました。スポーツをそこまでやってこなかったのですが、自分の中ではスポーツというか、部活のような感覚でしたね。
――昨年は数多くのタイトルをリリースされましたね。
Nintendo Switch用タイトルは20本程度で、3DS用タイトルは6~7本ありました。
――黄さんが考えるダウンロードゲーム市場の現状はどのようなものでしょうか?
数年前と比べて、「Steamよりコンシューマ版が売れた」という話をよく聞きます。特にNintendo Switchになってから、ダウンロードゲームが人々の認識のデフォルトになりつつあると感じています。開発者だけでなく、Nintendo Switchユーザーにもいいゲームを求めている人がいるため、活性化しているのではないでしょうか。
よくも悪くも見ていただいていて、ちゃんと評価してもらえる土壌があると感じます。3DSの時と比べて、SNSでの発言が目立ちますし、このように記事にしていただく機会も増えましたね。
――ダウンロードゲームが浸透してきたと。
そもそもの話になりますが、今のインディーゲームやダウンロードゲームは、“昔、ゲームと呼ばれていたもの”だと私は思います。僕らがやりたいゲームは、コントローラがあり、スタート画面があり、ボスを倒すとスタッフロールが流れていた。
それがいつからか、キャラを出す抽選にお金がかかり、確率の低いレアキャラが強くて、キャラを出すことがおもしろさと勘違いするようになっている。個人的には「それはゲームなの?」と感じています。……まあ僕が時代とマッチしていないんだと思うんですが、だからこそ、自分たちがおもしろいと感じているタイトルを出していきたいんです。
――作りたいタイトルを出してきたら、その市場がダウンロードゲームにあったと。
もちろん、弊社規模の会社ではAAAタイトルは作れません。できる範囲で開発していた結果、それがダウンロードゲームというくくりになっただけで、意識してそこを目指していたわけではありません。
――2Dゲームは今なお人気ですが、なぜだととらえていますか?
3Dのアクションゲームや最近のインターフェイスなどについていけない人はいると思います。それに比べて、ドットゲームのわかりやすさは揺るがないものがあります。そのため、ユーザーからの声があり、販売本数もあるため、タイトルが続いているのだと思います。
――タイトルの価格はどのようなことを意識してつけていますか?
価格の設定は難しいのですが、周りを見つつ、空気を読みながら設定しています。自分でプレイして「この価格だったら買いにくいな」と思ったら、そこの値段よりは少し下げて設定するという、感覚的な判断になります。
――個人的に御社のタイトルの価格は安いと思っているのですが……。
確かにユーザーさんからも「安すぎる」と言われます(笑)。ただ、安いと思っていただいているうちが華だと思います。「高い!」と思われたら、何も言わず離れてしまう。大事なのは、次に繋がることだと思います。
――“次に繋がること”というのは?
例えば、1000円で1万本売れた場合と500円で2万本売れば場合、売上は同じですが、メーカーのファンになってくれたり、次回作が出た時に繋がったりするのは後者。そのため、ユーザーさんが満足する価格にしたいんです。
さらに言えば、1千万円で1人だけに売れても同じ売上になるのですが、それは先ほどとイコールではないんです。制作者としては無料で100万人に遊んでもらって、生計が成り立つならばそれが一番いいと思うのですが、それはできず、適正価格があります。合理的な範囲で売れて、フィードバックがあり、次作を制作できる価格が適正な値段ということですね。
――難しいですね。
ただ、結局は買ってもらわないとしょうがないので、多くの人が買いたいと思える値段にすることをつねに意識しています。
――これまでにリリースしてきた中で、いい印象が残っているタイトルは何でしょう?
最初に出した『魔女と勇者』ですね。初速がすごかったうえに、ジワジワも売れました。国内で15万本以上売れて、ワールドワイドで20万本を越えました。そのタイトルを最初に出せたのは大きかったです。
最近はNintendo Switchの『神巫女 -カミコ-』で、フライハイワークスを認知してくれた人は多くいます。『VOEZ』を発表した際にはTwitterでトレンドにもなり話題になったので、外せませんね。
▲『魔女と勇者』 |
――個人的には『魔神少女 -Chronicle 2D ACT-』も印象的ですね。
ありがとうございます。あのタイトルは「これぞ、インディーゲーム」という作りになっています。そのため、弊社がインディーの会社であるイメージは強いかもしれません。ただ、『魔神少女』はINSIDE SYSTEMさんのタイトルの印象が強くあるため、“弊社ならではのタイトル”ではないかもしれませんね。
▲『魔神少女 -Chronicle 2D ACT-』 |
――逆にあまり売れなくて印象に残っているタイトルは?
PS4と3DSで出した『マルディタカスティーラ‐ドン・ラミロと呪われた大地‐』は、クラシックな横スクロールACT。某有名タイトルに似ているのですが、遊んでいただくとかなり違う印象を受けます。よくできたソフトですが、こちらの想定をかなり下回る数字でした。
地底を探索していくWii U ダウンロードソフト『クニットアンダーグラウンド』も厳しかったです。幻想的なグラフィックですし、ゲーム的に攻略が奥深かった。Nintendo Switchで発売したら売れると個人的に思います。
▲『マルディタカスティーラ‐ドン・ラミロと呪われた大地‐』 |
――Wii Uというハードとダウンロードゲームの相性もあったかもしれませんね。
その通りですね。売れないタイトルにはいろいろな理由はあると思うのですが、初速で伸びなかったタイトルがそこから売れることはほぼないです。
――ダウンロードゲームのいいところはどこですか?
まず、在庫リスクがないところです。また、よくも悪くもユーザーから直接評価をいただけるところもいいところですね。
パッケージソフトの場合、問屋さんに気に入ってもらえるかが、第一関門としてありますが、ダウンロードゲームはユーザーが買ってくれるかが、すべて。その価格を出してもらえるかがすべてで、ユーザーの評価がダイレクトに伝わります。
――ユーザーに届かなかった時、どうされますか?
タイトルのよさを言い続けますが、なかなか伝わらず挽回はかなり厳しいです。こちらは先ほど「よくも悪くも」と言った“悪い”ところになります。
ダウンロードゲームは基本的にパッケージソフトと比べて単価が安いため、広告宣伝費をかけることができません。そうなるとユーザーさんに情報を届けるためには、直に語りかけるしかありません。遊んだ方が口コミで広めてくれることもありますが、売れたタイトルに比べると、売れないタイトルはそのような口コミも広がらない印象です。
――昨年2017年は多数のタイトルを配信されましたが、どのような思い出がありますか?
それぞれのタイトルで言えば『神巫女 -カミコ-』と『VOEZ』、あとは『DEEMO』はリアクションが大きかったです。『ヒューマン・リソース・マシーン』は口コミ効果がすごく大きかったですね。
全体としては、常時8タイトルくらいが走っていたため、時間がすぎるのが非常に早かったです。3月に『VOEZ』を出したので、1月くらいから発売に向けて奮闘していました。昨年12月に1年を振り返えった時に、1月のことがつい先々週くらいに感じるほど、時間がすぎるのが早かったです(苦笑)。
▲『VOEZ』 |
――タイトル数を考えると、毎週何かのタイトルを提出しているような状況ではないでしょうか。
そうですね。あとは東京ゲームショウの用意もとにかく大変でした。
――広いブースに多数の試遊台を用意されていましたね。
6コマに32台の試遊台を用意しました……が、今年は少し規模を小さくしようと思います。ゲームショウは年間を通して1番の華で、大事な場所です。ただ、費用がかかりすぎてしまうため、効果を考えると個人的に悩んでいます。
――バランスですよね。ただ、ブースには常時ユーザーさんがいたように思われました。
はい、ありがたいことです。個人的には、ゲームショウは遊んでもらう場所。そこで弊社はブースのキャッチコピーとして「ゲームショウは遊べてなんぼ」を掲げて、多くの試遊台を用意しました。
最近のゲームショウは、遊べるタイトルが少ない、もしくは長い時間並ばないと遊べない状況になっています。あくまで小さいメーカーの遠吠えだととらえていただきたいのですが、「うちがやっていることこそが、ゲームショウだ!」と思っています。
――今後はどのような目標がありますか?
昨年は多くのタイトルを出しました。ただ、これ以上本数を増やしても、ユーザーさんが遊びきれない。弊社はいいタイトルを出している自信はあるのですが、知名度がまだまだ……そこに伸び代(のびしろ)があるのでより多くの人に知ってもらいたいですね。
知名度が上がることによって、SNSや動画などで告知することがタイトルの売り上げに繋がる。今年は“フライハイワークス”と“黄政凱”という名前を売っていきたいです。
――何か告知があるようでしたら、お願いします。
言えるタイトルはすで発売されていて、まだ情報が出ていないタイトルは言えないんですよ。……ゲームの告知ではないのですが、ひたすらゲームをしている動画番組『朝から晩までゲームばっかり!』を配信しています。私、黄がいろいろなゲームをやっているだけの内容なのですが、そちらを含めていろいろなことをしていくのでぜひチェックしてください。
(C)Flyhigh Works. All Rights Reserved.
(C)RSF (C)Flyhigh Works
(C)INSIDE SYSTEM (C)Flyhigh Works
(C) ABYLIGHT STUDIOS SA 2016 LICENSED BY (C) LOCOMALITO AND GRYZOR87 2016 JAPAN REGION PUBLISHED BY FLYHIGH WORKS
(C)Rayark Inc.
データ
[集計期間2018年 04月16日~04月22日]
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