※この記事は2018年4月23日11時55分にfacebookに投稿したものです(リンク)。
昨日のJILIS緊急シンポジウム(海賊版サイトブロッキング)は、家庭の事情で行けませんでした。子育て中だと日曜日の仕事イベントはつらいですね。
さておき、本件に対するぼくのポジションは、4月11日にJILISから発表された「著作権侵害サイトのブロッキング要請に関する緊急提言の発表」に賛同者として名を連ねさせていただいた通り(リンク)、立法前のブロッキング措置には反対です。
まず理論的には、通信の秘密(憲法21条2項後段)及び電気通信事業法4条(通信の秘密)に関する、現在までの法律の解釈を踏まえると、ブロッキング措置は不可能であり、一方で本件における財産権の侵害を根拠にした緊急避難による違法性阻却事由の適用も、およそ係争に耐えるものではない。このように考えています。
一方でぼく自身は、「通信の秘密を根本から見直す時期に来ている」とも、以前から考えてきました。うっかり言葉にするとハレーションが大きいので、声高ではありませんでしたが、現実で起きているサービスやビジネスとの齟齬や、それを実現する技術革新との乖離が大きすぎるからです。
通信事業者の中でも、アプリケーションに関心のある向きからすれば、「OTTにできて通信事業者にできないのはなぜか」「海外の通信事業者はトリプル/クワッドプレイにDPIを実施してそれらを通貫する内製メディアレップにより商機を得ているのになぜ日本ではダメなのか」という疑問がありました。そして、少なくともそうした疑問を彼らが抱くことには、一定の合理性があるように思えます。
ただしそうした疑問は、現在の法制度を無視して解決・突破できるものでは、当然ありません。科学的・産業的な実態や、人工知能(機械学習による学習機会としてのデータ収集の必要性)を含めた、将来的な可能性に基づきながら、時間をかけて合意形成を図らねばなりません。
その時、マルチステークホルダープロセスなどという「ヌルい」言い方は、少なくとも本件に関しては、ぼくはしません。国民の合意が必要です。通信の秘密は、国民の権利に関する公益(public interest)を対象としており、これまでの法解釈を踏襲すべしと考える以上、それは当然のことなのです。
さらにいえば、通信の秘密によって守られているのは、国民だけではありません。政府からの不必要な干渉から、通信事業者自身も守られています。だからこそ、政府が本件を立法なしで主導することは厳に慎むべきですし、通信事業者自身も「政府がそのような意向だから」というだけで、安易にこれまでの法解釈、というよりそれによって均衡していた公益のバランスを崩すようなことには、抑制的であるべきです。
それらを踏まえて、いまぼくが申し上げたいのは、ただ一つ。
通信の秘密について、もっと真剣に議論しよう。
いまはあまりにも議論が足りない。そして通信の秘密に関する運用実態も明らかになっていない。だから「守れ/破れ」みたいな、粗雑な議論になってしまっている。そしてそんな泥濘に立脚した議論でしかないから、あまりにも乱暴すぎる。
その粗雑さと乱暴さに、ガックリきています。本当に大事なことなのに。
現実に起きていること/起きようとしていることは、もはや法解釈ではなく、立法でもない。だとするとこれは、(広義の)政治闘争そのものなのかもしれません。政治闘争なんて四字熟語っぽくするとカッコよく見えますが、要はプロレス…いや、それじゃプロレスに失礼か。
つまりこれ、ケンカですね。
ケンカなら、潰し合ってはいけない。潰し合って当事者が本当に潰れてしまったら、それはケンカではなく、暴行、傷害、または殺人です。
だから落としどころをちゃんと見極めた動きが必要です。そして当事者がオトナである以上、オトナとしてのケンカの作法を守ることが必要です。たとえばそれは、何かプレスリリースを出したり、会議で発言する時に、オトナ語を使うこと、とかね。
「そんなくだらないこと」とぼくも思います。でも、そういうのを「くだらない」と一蹴してきた結果として、ここまでのコミュニケーション不全が生じていて、だからこそこんなに乱暴なことが起きているのだと、思っています。
すいません、時間がなくて、いま書けるのはここまでです。昨日JILISに集まったちゃんとした人たちが、ちゃんと発言したことに敬意を表しつつ。
繰り返します。通信の秘密について、もっと真剣に議論しよう。