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Flamberge逆転凱歌 作者:高菜 葉
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第5話「14(フォーティン)」

初の決闘審判を終え、開業の前に必要なことをリストアップした涼。
フランベルジュの秘密を知る為、反応のあった研究施設に乗り込むことにしたのだが―――。

―――燃え盛る周囲。赤毛の少女は、その光景の最中で何とか出口を探そうと足掻く。
そこに辿りつくまでに、一体何人もの仲間が置いていかれ、撃ち貫かれ、突き殺されたか。
自身を先導する男二人。角を曲がり、漸くその目に真っ白な光が飛び込んできた。
「出口だ! もうすぐ出られるぞ!」
男の言葉に、はぁ、と大きく息を吐き出す少女。
「後にしろ! まだ安心できねえ!」
もう一人の男の言葉に、もう少し、もう少しと気を引き締め、前を見る―――。
まばゆい光の見える出口へと行く、先を往く男の背中は。
そこから唐突に現れた影に、一瞬で吹き飛ばされた。
「エイティーン! 野郎―――」
目の前の影を敵として認識した、もう一人の男。
銃を構えた瞬間、気づく―――その一瞬で、既に男の視界からその影が消えていたことを。

ザシュ……ッ!!

その時、少女の目に映ったのは。
自身より年齢の高そうだった男の背中が裂け、姿を現した、鮮血を纏った手刀。
男の脇から見える、狂気を孕んだ瞳。
現実離れした光景から、少女を現実に戻した、その言葉は―――。
「―――キヒャ……ッ!」
人間が発したと思いたくない、哄笑だった。


 Flamberge逆転凱歌 第5話 「14(フォーティン)」


世界で一番小さな国として認められた国の面積は、0.5平方キロメートルにも満たないと言われている。
大きな遊園地の方が敷地が広いほどの、非常に小さな国であった。
この0.5平方キロメートルの何倍もの領域で繁栄しているエルヴィンは、
隕石の落下地点を中心に既存国家から切り取られた小さな場所とはいえ、
一つの新興都市としては極大規模の、限りなく国家に近い存在として周囲に存在感を示していた。

―――そんな大都市から何分移動しただろうか。
街の境まで数十分、検問所から外出手続きに十数分。
一度外に出てしまえば、そこは荒れ果てた荒野。
無理もない。隕石の落下で一度周囲がリセットされてから、何の手も入っていないのだから。
そんな中にも、街の外には未だにいくつかの研究所が存在し、そこに至る道路もまた存在する。
……だが、それだけ。ここから先は、商業や宿泊用の施設など存在しない。
単純に研究所が点在するだけ。ここで何の研究が行われているかは、都市の主要機関ですら十分には把握しきっていない。
少なくとも、表立って研究できるようなものは存在していない。もっと恵まれている場所がある状況で、そんなことをする理由がないのだ。
整備が整っている街から一歩出てしまえば、そこは言わば闇そのもの。
研究・発展用に敷地自体はエルヴィン管轄ではあるが―――そのエルヴィンですら魔境と認めてしまう場所なのだ。
今回目指す場所は、その闇の中にあった。
確かに、エルヴィンにおける通常の技術でフランベルジュを建造することは不可能。
ならば真っ先に思い当たるのが郊外の研究所なのは、疑いようのないことである。

都市内の道路には、走行をある程度コントロール、あるいは補助する器材が組み込まれている。
それにより、通常の自動車クラスであれば運転の全自動化すら可能であり、
周囲のトラブルさえなけらば安全な無人タクシーが商売として成り立っている。
こうして移動に適した車の進化が発生した結果、わざわざ巨大ロボットを動かして移動するメリットは存在せず、
移動用にロボットを使うことはないのだが―――これが郊外であれば、話は違う。
全自動化用のガイドも組み込まれておらず、車の運転には本格的な習熟を要する。
そもそも『闇』と形容されるような郊外では、何が起きるかも分からない。
周囲の国の人間が入り込んで、エルヴィンの住人を狙って起こす犯罪に巻き込まれる危険性すらあるのだ。
だからこそ、他国への移動には専ら空路が使われ、次点で海路となる。陸路は悪手。
だが、その陸路で外敵から身を守る為、最大の武器となるのが移動手段にもなるロボット。
街の非戦闘区域でロボットを乗り入れるのは迷惑極まりないが、
こういう危険な場所を行くときには逆にロボットがあると安心。
「……なるほどな。こりゃ確かに便利だ」
ライズバスターを走らせながら、俊暁がひとりごちるのも無理はない。
バイクとロボットの統合。
ロボットとしても起用できるライズバスターは、街の内外どちらにでも移動手段として乗り入れることができ、
十二分に戦闘行為を行うことができる。
「でしょう? あなたの日常を守るファルコーポ社のバイク、です」
ご満悦な笑みで後方のサブシートに座る由希子。
成程、確かにライズバスターは自信作と胸を張るほどのものがあった。
通常時は移動手段、緊急時は戦闘形態。使い分けることでこれ一台で細かなところまで手が届く。
流石は齢20にして社長職といったところか。
「もうすぐ着くぞ」
横から声がかかる。並走した車、郊外に行くためにレンタルしたそれには涼とナルミが乗っていた。
その言葉に前方を注視した俊暁の眼に入ってきたのは……大きな施設、としか形容のできない場所だった。

「―――廃墟、か」
内部を視界に入れた涼が第一に出てきた言葉はそれだった。
既に放棄されていたのか、人の気配がまるでない。受付も機能せず、普通に内部まで入ることが出来た。
その内部も、今も整備されているとは到底思えない。
本当に廃墟としか言いようがない……一先ず案内板にあった管制室まで辿りついたが、全くの無人であると断定できる。
「ちょっと待ってください。今調べてみます……」
管制室の電源が入っているかを確認……電源は生きていた。
施設の状況を確かめるため、機械のコンソールを叩きながら試行錯誤をする由希子。
その間、涼が周囲の警戒がてら目を通したのはこの部屋の状況。
蜘蛛まで巣を張っており、設備に埃が溜まっている。何年こうして放置されたのだろうか。
しかし、こういったところは珍しくない。何を研究しているか分からないのだから。
「どうした、そんな考え込んで」
ふいに、同じく警戒にまわっていた俊暁が声をかける。
はっとして振り向く……警戒が薄れる程に考え込んでいたのだろうか、俊暁の表情は怪訝そうなものだった。
「……妙だと思って」
「妙?」
俊暁の言葉に視線をやれば、そこには由希子と一緒に居る―――。
「ねーゆっこさん、これなーにー?」
「きゃあああちょっとそこ触っちゃらめえええ!?」
何かごちゃごちゃと手を出そうとしているナルミの姿だった。
子どもの目には何でも目新しく映るのだろう。
コンソールに手を伸ばそうとして必死に押しとどめている由希子に対し、邪魔そうに膨れて手を伸ばしているナルミ。
まるで内職中の親の仕事が気になる子供のようで。
「此処にフランベルジュの反応があったとしたら、どうしてナルミはこの機械を持ってたんだ?」
「いや止めないのかよ」
俊暁のツッコミをよそに、示したのは自らの腕に巻かれている腕時計状の機械。
「何年放置されていたのかは知らないが、フランベルジュほどのロボットの起動キーと思わしき機械はナルミが持っていた。
 あの企業はナルミの身柄を欲しがっていた。ただ、反応からしておそらくフランベルジュの存在は知らなかった。
 研究所が人を受け入れた形跡はない。ナルミはどこから来て、どうしてフランベルジュの存在を理解していたんだ……?」
思えば、フランベルジュの存在に最初から気づいていたのはナルミだった。
彼女以外誰も知らなかったフランベルジュを、彼女は呼び出す術を知っていた。その知識はどこから来たのか。
残念なことに、その後の警察側の調査でも最初の事件について踏み込むことはできなかった。
未来社は例の件に関し黙殺を決め込んだ。
前回の決闘審判でボコボコにされたことで評判は下がるだろうが、それでも隠したい何かがあったのだろうか。
「……まずはフランベルジュのことを理解してからだ。あとは」
腕を組んで壁に背を預けながら、顎で指し示す由希子の姿。
「ねーゆっこさんやらせてー?」
「だーかーらー駄目ですってそれ触っちゃ……!」
なんかもう大惨事である。
「あれ止めてやらね?」
「えー」
「何だその面倒そうな顔は」
角川俊暁は認識を改めた。この広瀬涼、堅物に見えて踏み込んでみたらフランクである。
「えいっ」
「やぁ、だ、めっ、それっ……!?」
そしてとうとう、子供の無邪気な力に押され操作を許してしまう由希子。
―――しかし、その操作で大画面のモニターに映し出されたのは。
「……!? あれは!?」
映し出されたのは、地下施設の映像。
そこに存在していたのは……深紅と、青のロボット。

その青は、角ばったがっしりとした形状で、大きな肩部装甲にはハッチのようなものがあり。
その赤は、すらりとした形状で、機体を覆う程のバックパックはその推力の大きさをイメージさせる。
映像で確認された二機は、格納庫か研究スペースと思わしき施設に存在していた。
不自然に空いているスペース……半端に開きがある。何機か持ちだされた後なのだろうか。
「何か見つかったよ、りょーちゃん」
「本当?」
「中身見なきゃわからないけど……」
調整用に使用されていたパソコンが生きていたのだろうか、そこからメモリ媒体を刺してデータの吸い出し。
最中、資料と思わしきファイルを見つけたため、その中身の開示を試みる。
数秒のラグ後、操作を受け付けたパソコンが中身を表示する。
「これは……」
映し出されたのは、いくつもの設計ファイルとその機体のデータ。
機体設計、おそらく形式番号であろう「SLG-」で始まる名称。
そして記されている愛称と思わしきもの。
「この機体、ここにあるのと似てるね」
「ツヴァイドリル、ドライフォート……ドイツ語の数字と適当な言葉をかけあわせたのか?」
名称を読み上げた2機。由希子が気づいた通り、それは目の前にある、赤と青の機体と類似したフォルムを持っている。
ここの研究の成果でほぼ間違いないだろう。
「なるちゃん、ここの二機から何か感じる?」
「んー……」
試しにナルミに聞いてみるが、難しい表情で考え込んでいて。
流石に、幼い子供に無理をさせているのだろうか。
「……大丈夫?」
「? だいじょーぶだよ、おねーちゃん」
額を優しく撫でると、怪訝そうに首を傾げる。
特に無理をしている様子でもないが……正直、涼から見れば心配なものは心配である。
日常的に意思を理解する能力が発揮できるほどならいい。
ただ、能力を己の労力を使って発動させているのであれば、それは幼い少女に対しての負担なのではないか。
心身ともに未成熟な今、負担をかけさせてしまってはいけない。
かといって連れてこないわけにもいかないが、大人が子供に頼ってどうするんだ、と気持ちを切り替える。
「……えーと、あったスペック表。材質、材質―――!?」
その一方、後方でデータの捜索を続けていた由希子……その声色の変化に、思わず振り向いた。
「由希子?」
「りょ、りょーちゃんこれ……」
モニタの一部分を指し示す由希子。
その画面に記されていた―――『材質:生体金属ODEN』の字。

空から落ちてきたモノは、オーバーテクノロジーの塊だった。
落ちてきたというのに、隕石のように歪な岩をしていたわけではなく。
まるで卵のように曲面に包まれていたそれは、地球に衝突し、大地を抉り、抉った場所に海を引き込んだ。
そこまで荒い落ち方をしたにも関わらず、研究が始まったそれは損傷のひとつも確認できなかった。
当初は『凄まじい硬度と強靭性を持った未知の物質』と仮定し調査に踏み込んだ。
だが、実際はその想定をはるかに上回る結果に遭遇した。
サンプルとして装甲を採取することはできたが、その箇所は数日後には何もなかったかのように修復されていた。
それだけであれば、何者かが手を加えた可能性もまだ考えられただろう。
だが実際は違った。
―――サンプルとして持ち帰った装甲の体積が、明らかに増大していたのだ。
その事実が発覚して以降、調査隊の上層部は警戒を強め、マスコミを含めた部外者の立ち入りを完全に禁止した。
綿密かつ極秘な調査の結果、一つの事実が判明。
この装甲は空気中に置くことで自力で容量を増すことが判明したのだ。
装甲以外何も置かず、監視カメラを置いて観測した、その状況において、部屋内の二酸化炭素が酸素に入れ替わり、装甲の体積が増大していた。
人間にとって不要な二酸化炭素を有益な酸素に変えつつ、自力で容積を高めることができる金属。
その後の調査により、容積を増した装甲を使い、機械の外装に適した軽量かつ高剛性の金属を作成することが可能と判明。
さらに研究が進むと、その習性を利用し、微量ずつではあるが電気エネルギーを発生させることも可能となった。
この異様なほどの多様性に、先の二酸化炭素を使用したと思われる体積の増大に植物の光合成と似たようなものを感じたのか、
生きた金属と形容され、『生体金属』の名をつけられるに至った。
その後研究スポンサーの一つである会社の意思により、『ODENオーデン』と名称が決定。
本来は北欧の最高神オーディンの名をつけるつもりが誤字を起こしたとか、
会社の名を残すために敢えてオーディンそのままにはせずに会社の名の響きを捻じ込んだとか、
名称に困った挙句打ち上げで食べたおでんを名に冠したとか、あることないことが騒ぎ立てられたが。
ともあれ、混乱と乱獲を避けるために管理を徹底する状況を生んだ末に情報は公開され、
エルヴィンが独立都市となる理由の一つに成ったのだ。

―――それほどの生体金属を、素材にしている。
言うなれば、このSLGという機体群は、空から落ちてきた物体と同じ物体で出来ているということ。
これならば、自力で損傷を修復したメンテナンスフリーであることは容易に説明がつく。
だが。
「待って、フランベルジュの『意思』って……」
それが真実で、ナルミの、そして涼の感じたものが正しかったとすれば。
性質上生体金属と名づけられたこの機体が、本当に意思を持って、機体を動かしているということになる。
確かに、精密機械による人工知能ではなく、材質自体に意思が宿っていたのであれば、
先の決闘審判の終盤、電磁機雷を浴びせられたにも関わらず機動を止めなかったのも頷ける。
「……これは、とんでもないものを拾っちまったな」
俊暁がぼやくのも無理はない。
かつて世界を揺るがした生体金属が、一人の手に渡ってしまった。
この生体金属は核となる箇所が存在しているのが明らかになっているが、核の増殖には早くて半年もの時間を要している。
そして核がなければ増殖や光合成の類似現象も起こらない。
後にこの生体金属が販売されるようになっても、それは企業が大金をはたいてやっと購入できるレベル。
今でも非常に供給が少ないにも関わらず需要があまりに多く、エルヴィンで生体金属を持たざるものは企業にあらずとまで言われている。
それを丸ごとひとつの機体の素材として使うなど、贅沢にも程があるのだ。
「ええ。装甲の強度も説明がつきます。
 合成金属はODENがあれば手間はそこまでかかりませんけど、代わりに強度は落ちますし」
由希子の技術者としての言葉が、ODENが使われているという真実を補強する。
確かにODENの増殖した部分を削り取り、そこから安価で合成金属を作ることは現在の主流となっている。
しかし耐久年数が低いことにはじまり、いくつかオリジナルに大きく劣る問題が発生した。
それでも既存の金属を上回る性能からか、合成金属がロボットの外装における一つの主流として使用されている。
外装の交換が簡単に済むのであれば、耐久年数の低さは特に問題がないのだ。
故に装甲を消耗しやすく、交換も容易な、ロボットを始めとした大型機械の外装に合成金属が出回ってきている。
現状の兵器の基準はその合成金属であり―――それを考えれば、フランベルジュの剛性がどれだけ規格外だったか、理解もできるものだ。
「もし、意思があったとしたら、今までのフランベルジュの行動も分かる。
 しかし、この二機は……?」
涼が見上げる二機。ナルミが意思を上手く感じ取れないということは、何かあったのだろうか?

この時、大人三人は一つのミスを犯していた。
大きな情報が開示されていくあまり、注意力がそちらに流れていたこと。
誰もこの瞬間、情報の方に気を向けすぎて、警戒という重要な要素から気が逸れていたこと。
そして幸運だったのは―――機体を見上げていたおかげで、涼の目に何かの影が映ったこと。

飛びこむ影。
反射的に腕を前に出し、影の勢いを肌で感じ受け止める。
突き出された鋭い一撃、それをいなしながら脚を振り上げる。
感覚で対処しながら、一瞬焼きついた状況から遅れて思考が回ってくる。
いなした一撃は腕によるもの、脚を振り上げる先は腹に向かう。
間違いない、今対峙しているのは人間であると理解した。
容赦のない一撃、しかし相手もそれをもう片手で受け止め、あろうことかその勢いで相手は大きく飛び退く。
「ちぇー、止められたか」
機体の装甲に陣取り、不貞腐れながら手を振るその姿は人間。
身体の各所、その頬に露出した模様、頭に装着しているのか一対の機械質のパーツが目立つ。
「でェも、せっかくイレヴンちゃん捕捉できたことだしィ―――」
瞬間、視界から消える。
否。単純に捕捉しきれないスピードで急接近しただけだった。
この場でそのスピードについていけるのは、広瀬涼一人。
再びその一撃を捌き―――今度は奇襲目的とは違う。
床に着地しては飛びかかるように攻撃を浴びせ、至近距離に詰めてから拳、蹴り、拳。
その全てをいなしきり、互いに一旦距離を取る。
「……な、何だお前は!?」
「りょーちゃん!?」
そこで漸く、俊暁や由希子の状況把握が追いつく。
銃を構える俊暁、その言葉に気づいたのか、その影が俊暁を向いて。
金髪のロングヘアー、身体つきから女性と思われるが―――その狂気を孕んだ、張りついたような笑みは、
隙あらば身体つきを値踏みしてしまいそうな俊暁ですら釘付けにしてしまうかのような笑みだった。
「りょーちゃん? へえ、そんな名前で呼ばれてるんだァ……?」
まるで涼の他には興味がないと言いたげな女性は、けらけらとそう笑うと―――俊暁の視界から消えた。
咄嗟だった。
先の異常なまでの女性の速さを見ていたからか、俊暁は次に自分を狙ってくると直感していた。
その場から強引に背後に飛び退き―――女性の一撃は空を切る。
空を切った腕に走る衝撃。
飛びのきながらのせいでろくに狙いはつけられなかったが、迷うことなく発砲した。
明らかにそれは必中コース。やらなければやられる、俊暁の頭に直感的に浮かんでいた故の発砲。
結果的には、それで正解だったのだろう。
その拳銃による一撃、腕に直撃したにも関わらず―――その腕で『血の一滴も出さずに弾いて』いた。
「あーやだやだ。ゴミかと思ったけど少しは粘るじゃん」
ぱっぱっ、と平然とその腕を払う。まるでゴミがついたかのように。
普通拳銃で撃たれれば、どんなに防具をつけていたとしても衝撃は残るものである。
それを何ともないかのように腕を払い……。
間違いない、普通の人間ではない。
「じゃあァ、死―――」
「フォーティィィンッ!!」
フォーティンと呼ばれた女性が躊躇なく蹴り飛ばそうとした瞬間。
背後から叫びと共に突き出された拳。
逆に今度は、攻めに入った涼が拳を突き出すも、今度はそれを掌で受け止められてしまう。
それを知っていたかのように、フォーティンの腹目掛けて抉りこむように放たれる脚。
だが最初のやりとりで涼のやり方を見抜いたためか、それも通じず。
脚を空いた片手で受け止められ、拳を受け止めた手に、ぎり……っ、と力が籠められる。
「ぐ……ッ!」
構わず空いたもう片手でフォーティンを殴り飛ばす涼。
腕の力だけで強引に殴りつけたため、威力こそ出ないが、拘束から逃れ体勢を立て直すことに成功した。
「げぅ……っ、やァるじゃん、イレヴンちゃん。あの時はもっと―――」
「行けッ! 逃げろ!」
フォーティンの言葉より優先するべきものがあると言いたげに、俊暁と由希子に対して声を荒げる。
だが、一人足りない。
「ナルミが!」
「いいからッ!」
一刻の猶予もなかった。
いつの間にかそこから消えていたナルミも大事だが、フォーティンの前に全員が倒されてしまえば意味はない。
それに、由希子は荒事には全く向いていないのは涼自身がよく知っている。だからこそ。
足りないひとりの心配をしていた俊暁も、その意思の前に仕方ないと頭を抱え。
「……仕方ない、頼んだ!」
「ちょっと、りょーちゃん!?」
「行くぞ……!」
心配する由希子を宥め、警戒しながらもその場を離れる。
あとは、この場に広瀬涼が居る限り、フォーティンは追う行動はとれないだろう。
「なァんだ。お優しいりょーォちゃん?」
否。正確には、フォーティンは俊暁や由希子を狙う気は毛頭ない。
最初から敵意は涼にのみ注がれていた。だからこその行動。
「……」
「おお、こわいこわい。りょーちゃんりょーちゃんりょーォちゃん!」
「黙れフォーティン……!」
嘲笑、徹頭徹尾愉快そうに目の前の女性が言葉を転がす。
そんなに私が憎いか。そんなに私が気に入らないか。ならば、私一人を相手にすればいい。
―――気の済むまで、付き合ってやる。
覚悟を決め、息を静かに吐いて。す、と片手を前に出して構え……。

瞬間。
一瞬で間合いを詰めた二人の拳が、交差した。


 Flamberge逆転凱歌 第5話 「14(フォーティン)」
                         つづく。
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