毎4半期に約50作品、年間で数えれば200作品以上放送されているTVアニメ。そんなアニメを、各作品1話のみ(作品によっては5分だけ!)視聴して、水面下のトレンド推移を考えるという、ヘンテコなアニメ感想ブログがあります。
ブログタイトルに代表される、メッタ斬りトーンの記事の数々に反し(?)、ブログの端々から伺えるカルチャー全体への博識ぶりと、4年以上ブログを続けられるテンションの謎を知りたく、ジャンル複合ライティング業者を自称しているEAB こと葛西祝さんへ、お話を伺ってきました。
実は、日頃はゲームライターとして様々なメディアでご活躍されているEABさん。お気に入りの映像作品や、今後の日本アニメに期待することって、あるのでしょうか?
■「売られた喧嘩を買ったブログ」
タ:今日はお忙しいところありがとうございます。2年くらい前から、「ヤバいブログあるなぁ!」と楽しく拝見していたのですが、去年、運営として関わっていたアートアニメーションの自主上映会に、EABさんがお客様としていらっしゃって下さって。「あのEABさんが!」と勝手に盛り上がり、ご挨拶したのがご縁でした。前から気になってたんですが、商業アニメはお好きなんですか……?
E:普通に好きですよ。
タ:そうだったんですね! 昔からですか?
E:漫画やゲームには触れていましたが、実はアニメってそんなに見ていなくて。高校時代は、そこらにいる映画青年ぽかったです。ビデオ屋に寄って、黒澤明や小津安二郎借りてました(笑)
タ:アニメを見るようになったきっかけというか、ブログを始めた理由は。
E:自分は、アニメのブログ以前に、ゲームのブログ「GAME SCOPE SIZE」と格闘技のブログ「オウシュウ・ベイコク・ベース」をそれぞれやっているんですが、そちらでふと、日本のラノベアニメゲーム周辺について思いついたことを書いたことがありました(※)。そうしたら、はてなでバズって、ブログやってきて初めて色んな人から全力で喧嘩を売られてしまったんです。それまでゲームとか格闘技の感想には、割と好意的なコメントが多かったので、そのギャップにビックリしちゃって。売られた喧嘩を買った形で、ブログを初めてしまいました。
タ:日本のアニメを、「1話しか見ない」「作画や脚本やキャラクターではなくコンセプトに注目する」「毎クールのモードを考える」という態度で見ている人って、私自身は他に知らず、とても面白いなと思っていたのですが、こうした視聴態度には、何かお手本やインスピレーション源はあるのでしょうか?
E:アニメ感想は巷に溢れかえっているので、何か違うのを書きたいっていう、ぶっちゃけただの逆張りです。昔、美術予備校に通っていまして。油彩とかやってましたよ。しかしそこでとんでもないひと悶着あって、人生の段階が停滞することになりました。美術史では、まあそれはともかく美術作品を作品の中身だけで評価することは無いんです。全体の流れから、個別作品や要素を読み解いていく態度は、自分にとっては違和感がないんです。
タ:美術やられていたんですか! 腹落ちしました!
E:絵の上手い人、たとえば葛飾北斎が猫を描こうと練習する時、猫をリアルに描くことはしないんです。猫を見ながら、「丸と棒線」のように、どんどん抽象化してあたりをつける練習をするんです。
そうなると、絵の上手い下手って、実はあたりのうまさで測ればよくね?ってなります。ご存知かと思いますが、写真をはじめとした、現実を模倣しやすいテクノロジーの登場以降、美術はリアルに描くこと以外を模索してきたっていう経緯があります。ゲームの世界は、たとえばインディーゲームの界隈などで少なくない作品が現代美術の領域に踏み込んでいるのですが、「そういえば日本のアニメはどうなのかな?」という好奇心は、純粋にありました。
タ:あのブログは、EABさんにとっての「あたり」だったんですね!
E:そんな立派なモノじゃないですが(笑)。あとは、劇場版アニメは、例えば「あの宮崎駿監督が……!」といった文句のように、「作家性」「物語性」を期待されがちですが、対してUHFアニメは何が期待されているんだろうか、という点も、ブログを始める前から気になるようになりました。批評って、時間経過して全然読めなくなるものが多いじゃないですか。自分のブログもそうですけど、3年前のエントリのほとんどが、目も当てられないなとも思ってます。
■サンプリングを楽しむ文化としての、日本のラノベアニメゲーム周辺
タ:アニメ作品を見る際に、注目しているポイントは?
E:映像が効果的かどうかですね。作画のカロリーと内容があっている作品を見ると、楽しいです。そうじゃない作品も楽しいですが!
タ:なるほど。一方で、作品全編から過剰な熱量を感じられる作品を、「村上隆系」と名付けて評価されています(※)。
E:いやさすがにまんま村上隆とはいえません(笑)。 サンプリング&リミックスのみで構成されているタイプと言うべきでしょうか。これは作品を評する時の「テンプレート」「パッチワーク」とは意味は別ですよ。アニメを見ているうちに、フリクリ、ガッチャマンクラウズ、京騒戯画、ローリング☆ガールズ、URAHARAといった作品がどうも異端に思えてきて、これらを繋ぐキーワードとして、アニメやマンガ、ゲームというサブカルチャーをアートというハイカルチャーの手法で取り上げていた「村上隆」を持ち出しました。村上隆がアニメオタクから面白くないと思われているのが面白くない、というのもあって。ただ、ブログにも書いていますが、このモードは長い意味内容を持つ必要のある長編作品には基本向かないので、覇権を取ることはないと思います。
タ:サンプリングといえば、音楽になりますが、DJシャドウによるサンプリング作品「Endtroducing」(1996年)に言及なさっていますね。私自身が音楽全く聞かないので「Endtroducing」以降の流れがわからないのですが、まず音楽のそれを教えていただきたいのと、アニメでも近しい動きがあるのか、教えて下さい。
E:サンプリングとは、過去のアーカイブを切り貼りするだけで作品を作ることです。庵野秀明やタランティーノを筆頭に、今の40代50代のクリエイターは、サンプリング行為にリアリズムがあるように思います。庵野監督個人に限って言えば、あとの様々なジャンルの人物との対談に見られるように実際に戦争体験を持っている岡本喜八監督、60年代に松竹ヌーヴェル・ヴァーグとして活動し、当時の現実と闘っていた大島渚に対してコンプレックスを感じているという、オリジナル信仰の持ち主であることも興味深いです。僕個人はもうサンプリングやリミックスが当然になってしまっているという時代を過ごしましたので、オリジナルというものの定義が違っている実感はあります。
オリジナル信仰って、観客側は、作品に対してつい無意識に要求してしまいがちなので、気を付けなければいけないと思っています。宮崎駿もフライシャー兄弟のアニメのロボットの暴走をルパン三世でもやってみせるようなサンプリングがうまい人とも言える。
■海外アニメを見ると、日本アニメは余計に趣深い
タ:スタジオでいえば、TRIGGERや京アニやシャフトがお好きですよね。
E:何か挑戦的なアニメを作りたいと思った時、「脚本やコンセプトでひっくり返したい」という手法は割とわかりやすいですが、そこを「映像だけで何かやりたい」と明確に尖っているのが、この3社だと思っています。まどマギだって、犬カレーをキャスティングしたことから計算して、あの設定や脚本になったんじゃないでしょうか? それから、もう少し専門的に絵を習得してる人が描く萌え絵は、萌え絵への抵抗が見えて、面白いんです。
タ:最近見たアニメ作品で、面白かったものはありますか?
E:「On Happiness Road」という台湾作品です。アニメ―トが凄かったのはもとより、実写畑の監督がコレを作ってしまったのかという、才能の厚みを感じました。まだ正式な配給が日本で決まっていないので、公開を期待している作品のひとつですね。国内では「きみの声をとどけたい」と「宇宙より遠い場所」が物語的にもデザイン的にもつながっている気がして素晴らしかったと思います。
タ:日本以外のアニメも、よくご覧になっていますよね。
E:ちょっとフラストレーションはあるんですね。映画好きは、インディー映画からハリウッド超大作まで見る流れで、アニメーションに関しても海外の長編も対象に入っている。「アニメ好き」という単語に、海外アニメやアート短編アニメまでが含まれることが少なく、UHFアニメとアートアニメの両方を語れる人が、多くはいません。海外アニメと日本アニメでは文法が違うということが1番の理由かも知れません。短編/長編を行き来できる強度もあるのは湯浅監督くらいじゃないしょうか。彼の手がけた『ちびまる子ちゃん』劇場版とか、湯浅監督が手掛けられたシーンだけ切り取って1つの作品と言っていいくらいの出来です。
タ:やはり、日本のアニメファン向けには、長編作品が中心となってしまうかと思いますが、長編のポイントは?
E:ストーリー以上に、キャラクターが立っていることをよく見られているかなと思います。長編は、キャラクターを馴染み深く見ていく作業です。それに比べると短編アニメーションは感情移入しづらく、なかなかポピュラーにならないんでしょうね。
■『ポプテピピック』について
タ:最近の記事を見ていますと、『ポプテピピック』評(※)につい笑ってしまったのですが、ポプテピピックいかがでした?
E:『魔法少女くるみ』評(※※)を見てください(笑) 『魔法少女くるみ』を製作したPie in the skyの方が、原作漫画がやろうとしたことに近いのではと思います。原作漫画は横山裕一作品がやっていることに近いと思って読んでました。ところがアニメになると、全く違う消費のされ方をしており、例えば「ダウンタウンがお笑いを崩すために作り出した楽屋ネタって発明を、何もわかってない声優が猿真似して炎上しているのを見るココロコネクト問題」を思い出す感じで、アニメを2話見ました。Twitterを観ていたら「パロディの宝庫だ!」って評価しているのを見かけたのも、悲しみに拍車をかけました。
タ:各方面への批判が凄い(笑)
■その他あれこれ
タ:ブログをやっていて、大変なことはなんですか。
E:反応がない時は辛いですね。
タ:EABさんでも「反応がないと辛い」と思うんですか?
E:思いますね~。結局、頭悪い話で逆張りに手を出した。それが「GAME SCOPE SIZE」に書いた「ガキのモード」の前身ですし。格闘技やゲームのブログでは「この方に怒られたら、意見を改めよう」という方が何人かいるのですが、「ガキのモード」ではあんなに定期的にブックマークで揉めるのに、いない。
タ:これまで言われたことがあるかもしれませんが、クリエイターにはなりたいと思われたことはありますか?
E:ありますが、やるなら抽象的ですがフィジカルあげることにビビらないようにしたいなと思ってます。僕の話はさておき、批評が得意な人が手掛ける創作は、得てして創作に対するフィジカルが弱い。フィジカルというのは、たとえば批評出身はアイディアはありますが、そのワンアイディアを仕上げていくのにかなりロジカルな技術や経験もいる。反発くらっても筋トレして戦い続けて身体を大きくしていくように、作品を構築して仕上げていくことです。タックマンさんも、もし何か作りたいなら、フィジカル鍛えなきゃだめですよ。RIZINのギャビ・ガルシアのように半端なアイディア程度をロジカルに詰め、オードリーが「ヒルナンデス」でイケアの椅子の強度を確かめるように試してくる観客がけっこういるんです。
タ:はいw 筋力といえば、格闘技をお好きになったキッカケはなんだったんですか?
E:説明が少々ややこしくなりますが、『シルバー事件』『Killer7』というゲームを製作しているグラスホッパーマニファクチュアさんの作品が好きなんです。本編にもプロレス・格闘技ネタが溢れているのですが、決定的になったのは『花と太陽と雨と』のライナーノーツでした。ゲームにライナーノーツついてくることがまず珍しいのに、その書き手さんの相良伸彦さんが作風とプロレスや格闘技関連の批評とも照らし合わせ文章だったんです。確実に何か面白いことを言っているのはわかるのに、何を言っているのかさっぱりわからず、「『シルバー事件』をより深く理解するために……ターザン山本の文章読まなきゃ!」というのが、発端でした。
タ:アニメといい格闘技といい、何かを鑑賞されるキッカケが、独特ですね……。
E:『シルバー事件』、是非やってみて下さい!ゲームプレイの実力ほぼいらない作品ですので。
タ:わかりました(笑)。最後に、日本のアニメに今後期待することが何かあればお願いします。
E:UHFでは作品性を高めるアニメが『宇宙より遠い場所』など放映されましたが、作品性と真逆なサンプリングとリミックスを極めたものがまた出てこないかなと思います!読んだインタビューは忘れましょう。でも培った技術とモードはそのままに、またお会いしましょう!
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いかがでしたでしょうか。これからも、ハードな態度でアニメを見続けられるEABさんのブログが楽しみです!
(追記)4/21「北斎による猫の絵」の画像を差し替えました。