本心は手足に出てくるのではないか アニメ映画「リズと青い鳥」監督 山田 尚子さん
高校の吹奏楽部を舞台にした映画と言えば、目標に向かって走る熱い青春物語が定番です。山田尚子監督の手にかかると異なる世界になりました。新作アニメ映画「リズと青い鳥」は2人の少女の揺れ動く感情を繊細にすくい取り、清涼感漂う作品に仕上げています。
-「リズと青い鳥」は人気小説「響け!ユーフォニアム」シリーズが原作。熱血青春ドラマとして描かれがちな吹奏楽部のイメージを裏切る映画ですね。
★山田 「響け!ユーフォニアム」シリーズにはユーフォニアムを吹く久美子という主人公がいますが、今回の原作はオーボエのみぞれとフルートの希美の話が際立っていたので、2人を主人公にもう1本(スピンオフ的な)映画を作ろうと提案しました。吹奏楽部の「熱血」という要素を取り除いて2人にフォーカスしました。
-どんな点にひかれましたか。
★山田 原作のキャラクター造形の切り口に興味がありました。少女たちの間にある羨望や嫉妬、大事なものを手放したくない感覚…そんなごちゃごちゃした感情を繊細にすくい取っている。少女が悩みながら思春期を生き抜いているところに魅力があり、彼女たちの動作、機微を映像で全部取り切ろうと思いました。彼女たちの美しさを記録したいなあ、と。
-横顔、机や椅子の間にのぞく足のカットを多用して感情を繊細に表現していますね。
★山田 口から出ている言葉が本心かどうかは本人しか分からない。強がっているだけかもしれないし、後ろめたさや本心みたいなものは足や手に出てくるのではないか。そう考えた映し方です。
-楽器によって吹く人のキャラクターって異なりますね。
★山田 パートごとに違う感じですよね。フルートの希美はからっとした性格で、オーボエのみぞれはしっとりしている。結構、あるあるっぽく言われました。オーボエは楽器の手入れに手間がかかり、内向的で情熱的な人が多いけれど、フルートは楽器の組み立てもさくっとできて性格もからっとしている、とか。吹奏楽部は体育会系みたいで大変だというイメージでしたが、コンクールなども取材してみて、何かに夢中になるのは美しいことだと教えてもらった気がします。
-監督自身はどんな高校生活を送りましたか。
★山田 たぶん無神経に生きていました。楽しいが一番みたいな感じで笑って、悩みも見て見ぬふりをしていたことが多かったと思います。本音を話すようなことはなかったかもしれません。今回の登場人物のように悩みから逃げず正面から向き合い、自分の思いを持っている人は尊敬します。
-アニメ監督になったきっかけは。
★山田 幼少期から視覚表現に興味があって、映像によって怖くなったり興奮したりすることに感銘を受けました。影響を受けたのは、ロシアのセルゲイ・パラジャーノフ監督「ざくろの色」や松本俊夫監督「薔薇の葬列」など。動く絵画みたいな芸術性の高い作品に出合って映像を撮ってみたいと思うようになりました。
-監督に必要なことは。
★山田 アニメの監督って「図書館みたいな人」で何でも知っていなきゃいけないんだと思っていましたから、私みたいな者がなれるなんてびっくりです。日々勉強だけど、監督になるのは夢だったので、信じていればなれるんだなという気持ちです。仕事に必要なのは、見通す力でしょうか。実写と違って偶然に撮れるものが全くないので、自分でコントロールしなければならない。私自身は積み上げて答えを出してからじゃないと始められないタイプです。
-福岡を素材にしたアニメのオファーが来たらどんな作品を。
★山田 「福岡恋物語」を撮りたい。以前、社内旅行で福岡に来たんですが、福岡タワーで「恋人の聖地」と書かれているのを見て「福岡は恋人の街」と勝手なイメージを持っています。タイトルは「博多恋物語」の方がいいですか?
▼やまだ・なおこ 2004年京都アニメーション入社。09年に初監督を務めたテレビアニメ「けいおん!」が大ヒット。11年の長編映画「けいおん!」、16年「聲の形」で日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞。テレビアニメ「響け!ユーフォニアム」のシリーズ演出を担当。写真左側は同シリーズのキャラクター「チューバくん」。
=2018/04/21付 西日本新聞朝刊=