ミントで納豆を作ってます! 英国人の夫は「納豆ラブ派」

2018.04.06

 「一日中、朝食が食べられます」―― バスターミナルやオックスフォード駅の近くには、こんな看板を出している喫茶店やパブ、ホテルがあります。
 「朝食」というのは、「イングリッシュ・ブレックファスト」のこと。ヨーロッパで一般的なコンチネンタル・ブレックファストと比べ、品数もボリュームもたっぷり。骨太な「英国料理」そのものです。

 基本は好みに合わせて調理された卵、ベーコン、ブリティッシュ・ソーセージ、ベイクドビーンズ、焼きトマト、マッシュルーム、ブラックプディング(ブラッドソーセージ)が一皿に盛られたもの。これをトースト、そして紅茶、コーヒーやジュースと一緒に食べます。「フル・ブレックファスト」になると、さらにオートミールやシリアル、フルーツが加わります。全部消化するには、けっこう体力が必要かもしれません。

夫の好きな「納豆のある和食」がわが家の朝食

 この大きな「朝食」を、旅の楽しみのひとつにしている観光客は少なくありませんが、それはホリデーだからこそ。英国で暮らす人々の多くは、ふだんはこんな重い朝食を食べません。
 ジムでエクササイズをしている仲間に「朝、何食べた?」と聞いてみると、オーツやミューズリーなどシリアル派が多く、ほかには「クロワッサン」「トースト」「ヨーグルト」「バナナ」「スムージー」などの答えが返ってきました。そして逆に、質問をされます。「ノリコは朝、何を食べてるの?」

 わが家の朝食、週に5日は英国人の夫が好きな「和食」です。ごはん、みそ汁、野菜の常備菜、そして欠かせないのが納豆。

ごはんは、夫がネットで買ったイタリア産の玄米(私は銀シャリ派)、ミント納豆、ワカメとワケギのみそ汁、たくあん(市販品)と、キュウリとセロリの浅漬け、(ゴボウはめったにないので)パースニップとニンジンのきんぴら。今日の納豆には、ワケギを入れ、醤油に梅昆布茶をちょっぴり入れました

 アジア食材店に行くと、たまに冷凍納豆を見かけます。でも日本より値段が高く、いつも置いているわけではありません。日本からイギリスに帰るとき、夫の心配のひとつは「どうすれば、毎日、心おきなく納豆を食べられるか?」ということでした。 
 結局、「自分で作る」という結論に至り、納豆菌と一緒に引っ越してきた次第です。

日本から持ってきた納豆菌が残りわずか! 危機を救ったのがミント

 以来ほぼ毎週、自家製納豆を作ってきました。でも1年経った頃、大事な菌が残り少なくなったのです。「どうしよう」「日本まで買いに行く???」
 そんなおり、耳寄りな情報が。私が家庭教師をしている、日本人の子どものお母さんが言いました。
 「ご存じですか? 納豆、ミントで作れるんですよ」

 ミント?! ミントならOK、簡単に手に入ります。夏は庭から摘めばいいし、寒い時期はスーパーマーケットやガーデンセンターに行けば、フレッシュなものが並んでいます。そして調べてみると、ミントで作る納豆は、どうやら海外在住の日本人の間で知られているもよう。
 「やってみよう」「うまくいったら、助かるね」。
 こうして試作したミント納豆は、期待を上まわる出来でした。しっかり発酵し、糸ひきもバッチリ。ほのかなミントの香りは、自然なもの同士で、納豆の風味といい感じに調和しています。
 こうしてミント納豆は、さわやかな朝の定番になりました。

■わが家の「ミント納豆」の作り方

 各工程にかかる時間を考えて作り始めます。真夜中に容器に豆を盛ったり、発酵を止めたりしなくていいように…。毎回、500グラムの大豆で作り、お弁当箱サイズの密閉容器8個に分けて、発酵させます。写真は、その一部です。出来た納豆は、納豆大食らいの夫と私が1週間で食べきります。わが家のワンコたちも、ときどき10粒ずつくらい食べます。では、作り方をお教えしますね。材料は、大豆とミント!

1.乾燥大豆を洗い、豆の4倍の重さの水に半日ほど浸す(夏は短め、冬は長めに)。
2.浸水してふくらんだ大豆を蒸す(ゆでるのもOK)。
  ※ 煮豆より軟らかく、親指と小指で簡単につぶせるくらいがおすすめ。
3.大豆が軟らかくなる頃に、発酵用の平たい容器を熱湯消毒し、ミントを洗う。
4.ミントの水気を切って、容器に並べる。
  ※豆から出る余分な水分を取るために、キッチンペーパーの上に数カ所穴を開け たクッキングシートを重ねて、容器の底に敷いています。

5.熱々の大豆を4のミントの上に盛り、その上にさらにミントを載せる。
  ※豆はふんわり薄めに盛るほうが、発酵しやすいようです。

6.容器をキッチンペーパーなどでおおい、その上にふたをずらして載せ、タオルなどでくるむ。
  ※空気が通り、湿度を保ちつつ、豆に水滴が落ちないようにします。
7.40℃くらいで20~24時間保温、発酵させる。
  ※温かさを保てればOK。わが家は湯たんぽと毛布を使っています。発酵が進んで「納豆」になると、大豆が白い膜でおおわれます。
8.冷蔵庫に入れて、1~2日寝かせれば完成。
   ※発酵が止まり、風味がよくなります。軟らかかった豆が、少し締まります。

夫はアカペラの練習に「自家製ミント納豆巻」を持参

 さて、ジムのシーンに戻りましょう。
 「朝からライスにミソスープに野菜…そんなに食べるの! ところで、ナットウって何?」―― イギリスに来て何度、この質問を受けたことでしょう。
 「日本の伝統食。蒸した大豆を納豆菌で発酵させたもの」
 「ミソペーストみたいな?」
 「ううん、見た目は豆のまま。でも糸をひいて、ネバネバして、独特の香りがある」こう説明すると、たいてい「糸をひいて」のところで「エッ!」とひかれます。(それ、腐ってる。腐ってるよ!)という、心の声まで聞こえそう。
 「伝統食って…日本人はみんな、それを食べるの?」
  
  この質問には、ひとことで理解してもらえる、便利な説明があります。
 「みんなじゃないけど。納豆はね、『マーマイトなもの』だと思う」

 マーマイトはトーストに塗るペーストで、イギリスのブランド名。イングリッシュ・ブレックファストでは、バターやマーマレード、ジャムとともにテーブルに並びます。
 見た目はチョコレートペーストそっくりですが、塩辛く、ビール酵母の風味が特徴的。その個性の強さから、口にした人は「ラブ派」「ヘイト派」に分かれることが多く、「マーマイトなもの」というと、「好きな人は大好きだけど、嫌いな人には受け入れ難い何か」を指すのです。
 「パートナーは英国人だけど『納豆ラブ派』。ショウユをかけて、刻んだスプリングオニオン(ワケギ)混ぜて、幸せそうに食べてるわ」
 「ふーん。ちょっと勇気が要るけど、面白そう。オックスフォードで買える?」
 「私は家で作ってるの。味見したければ、こんど少し持って来てあげる」

 夫はすでに、男声アカペラグループの練習に「自家製ミント納豆巻」を持参し、数人の「納豆ラブ派」仲間を作ったようです。いつの日か、いろんな国の人が、ミント納豆づくりを楽しむようになるかもしれませんね。

夫いわく、「納豆初心者にはアボカドとたくあんを合わせると、とっつきやすい」。ゴマも入っていて、おいしいですよ

テラダノリコ[プロフィール画像]

テラダノリコ

大学で教育学と日本近世史を専攻。卒業後、生涯教育を提供する会社で講座企画や運営を経験し、その後メディア系の会社でインターネット教材の編集をする。2015年、結婚を機に英国に転居。オックスフォード在住。

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