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第514話 竜王乱舞
―――中央海域
海面から飛び出す数多の水燕の艦隊。船に搭載している機能の1つ、青魔法を利用して水中でも一時的に甲板に出られるようなった為、戦闘員は既にそこにて待機中だ。詰まり、即刻戦闘可能状態にある。
「第一波組、頼んだぞっ!」
最初は時間との戦いだ。気配を消しつつ浮上かつ、不意を打つ為の速攻攻撃。敵戦艦の位置は事前に把握済み、このエルピスを囲うように配置した各船が、八芒星を描くが如く空へと突き抜ける。更にそこから天高く飛び立つは、8体の竜王達だ。
「おう! 神の方舟だか何だか知らねぇが、んなもん俺達が撃ち落としてやるよ!」
「何だい何だい。馬鹿息子がいつの間にやら偉くなったもんだねぇ。息吹の吐き方、覚えてるのかい?」
「それは私も不安。基本、いつもダハクは女の尻しか追い掛けていない」
「ハハッ! おでもそう思うぜ! ダハクはどこに行ってもそればっかだ!」
「ぐう~、親がいるとやりづれぇ……!」
「あらあら、男の子はそれくらい貪欲であるべきだと思うわよ? 私のアズちゃんなんて、違う方向に欲求が偏っちゃってるし」
「おい! 何の話をしてんだよ! 無駄話なんかしてねぇで、さっさと風の障壁を壊すぞ!」
「風といったら僕でしょ! フロムがその道の玄人として、上手い具合に中和してやる!」
「ねーねー。水ちゃん黙っちゃってどうしたの? 気分悪いの? 風邪? ねーねー、雷ちゃんにも教えてー」
「………」
「ま、纏まんねぇ…… ったく、んな事してるうちに予定地点に到達だ! 兎も角、思いっ切りぶっ放せ! 俺の『竜絆』で地力を底上げする!」
好き勝手に振舞う竜王達を窘め、紙一重の協調性で力を結集させるアズグラッド。サラフィアの背に騎乗する彼は、自身の固有スキルである『竜絆』を発動。パーティを組む竜種のステータスと集中力を高め、普段行動を共にしない者同士であろうとある程度の連携を可能とさせる。この力により、絶対に団結できないだろうと思われていた竜王達の全力息吹は、奇跡的に同じタイミングで一斉放射させられた。
ダハクの全ての物質を溶かす腐敗の息、ムドファラクの全属性を注ぎ込んだ竜咆超圧縮弾、竜化して強気になったボガの活火山創造の息といった、ケルヴィン達にとっては見慣れた息吹に加えて、今回は更に他の竜王達の息吹も増し増しだ。
サラフィアが亜熱帯の気候をも一瞬で極寒の凍土に変貌させる純白の息吹、そのママ友であるかーちゃんが有を無に帰す漆黒の息吹、フロムや虎次郎、雷竜王の国を滅ぼす超ド級な息吹群が、四方八方から戦艦エルピスへと放たれた。
―――ッッッ!
エルピスが周囲一帯に噴出した風の障壁に、それら八竜王の威光が衝突する。その際の鳴動は筆舌に尽くしがたいものであり、ただただ凄まじい衝撃の余波が波紋となって拡がっていた。
「ぬうぅーーー……!」
「馬鹿でかい戦艦を介しているとはいえ、全ての竜王の力と拮抗させるとは……! 裏の姫様の魔力は侮れんわい! じゃが!」
「ああ、道は開かれたっ!」
ボガに騎乗するジェラール、サラフィアのアズグラッドが声を合わせながら前を見据える。その視線の先にあるのは、強力な風を出していたエルピス各部の噴出口が、モクモクとした黒煙を出している光景だった。竜王の息吹に対抗する為、エルピスの限界を超えて解き放った暴風の代償。それが正に、エルピスの異常を知らせるあの黒煙だったのだ。
「障壁がなくなったぞ! 全速前進! あのどでけぇ方舟を攻撃だ!」
28艦の水燕は最高速でエルピスへと接近。この間にも各艦・各人による砲撃は開始され、障壁がなくなって露呈されたエルピスの装甲にヒット。攻撃が通じた事実はより各員の士気を高める要因となって、その働きに拍車をかけた。
だが、敵側の戦艦もただ黙って攻撃を受け止めるだけではなかった。大小様々な砲台が装甲部から出現し、スコールの如く弾幕を展開。更には破壊された筈の噴出口から、天使型のモンスターを解き放ち始めたのだ。砲撃やモンスターによる攻撃は水燕に飛来し、かなりの精度でこれを命中させていた。
「ぐっ、そう簡単に事は運ばないか……!」
「も、問題ありません! この程度であれば、耐えさせて見せます!」
全てのトラージ船には、コレットによる巫女の秘術が施されている。これらはケルヴィンの大風魔神鎌や、刹那の斬鉄権でもない限りは破壊されない、世界最硬の護り手。だがしかし、船は数は全部で28隻にも及ぶ。障壁の欠損よりも心配するべきはむしろ、コレットの魔力残量が不足して、秘術の維持が困難になる事だ。
この決戦の日の為に、残ったスキルポイントを『大食い』のスキルに全振りし、大量のMP回復薬を用意したコレット。吐いてでも飲み、飲んでは魔力を回復させるという意気込みは本物で、今も巫女の秘術は正常に機能している。それでも、限りなくこの状況が続くなんて事はありはしない。コレットの鋼の意志が続くまでが、ケルヴィンらに課せられたタイムリミットだった。
「コレット、これから俺達はエルピスの内部に潜入する。その間、頑張ってくれるか?」
「巫女として、私の土壇場という訳ですね? メルフィーナ様とケルヴィン様の為となれば、このコレット・デラミリウス! 巫女として、歴代最高の働きっぷりをお見せしましょうとも!」
「ありがとな、コレット。これ、メルフィーナが姿を消す前に作っていた特製の回復薬だ。この戦場の要はお前だと言っても過言ではないんだ。辛いと思うけど、これで根性を見せてくれ。じゃ、行ってくる!」
「僕もあの方舟の中で頑張ってくるから、コレットも一緒に頑張ろうね!」
コレットはケルヴィンから瓶詰された輝く液体を手渡される。もう純白の方舟は間近、ケルヴィン達は船の甲板から飛び立ち、敵陣へと向かって行った。
「ふ、ふふっ…… 信仰すべきケルヴィン様とリオン様に信頼され、メルフィーナ様お手製のお薬まで頂いてしまいました……! これで無理をするなというのが、無理というものですっ!」
コレットが昂ると同時に、水燕の各艦表面が淡く輝き出す。1層だった障壁が2層、3層と枚数を増やし、その厚みさえも増していく。その強固さは以前とは比較にならず、喩え敵艦エルピスの砲撃が直撃しようとも、水燕本体には何の衝撃も伝わらないほどの護りと化していた。
「うおっ、凄いな」
その光景を横目に見ていたケルヴィンは、安心するかのように口元を緩ませる。と、その直後にシュトラからの念話が送られてきた。
『ケルヴィンお兄ちゃん、アズグラッドお兄様からの伝言よ』
『どうした?』
『さっきの息吹の一斉掃射で、竜王さん達が疲れちゃったみたい。少し時間を置けば復帰できるけど、直ぐには大技とかは使えないらしいわ』
『クロメルの魔力とエルピスを相手取ってだったからな……』
『でも、あの方舟から出てくるモンスターの相手くらいはできるって。私も精一杯フォローするから、お兄ちゃんは自分の戦いに集中してね!』
『ああ、頼んだ――― ん?』
ケルヴィンとシュトラがそう念話していた最中、戦艦エルピスの真下部分のハッチが開かれ、そこから巨大な何かが投下された。
「さあ、ジルドラさん! 我々の出番ですよ!」
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