先日、日本にも投資先を多く持つ著名な米国人アクティビストと懇談する機会があった。
彼は、「日本企業で経営者になる人材というのは、社内政治を勝ち上がってきたというだけで、本来の経営能力があるわけではない。だから日本には『ゾンビ企業』が多い」と辛辣な言い方で彼なりに日本病を見抜いていた。
米アマゾンが第二本社を作るということで、米国の多くの地方都市はその誘致合戦にしのぎを削っている。自治体の中には、同社にその地域の行政判断の権限を与える提案をする動きまで出ている。
また、グーグルの親会社アルファベットは、グーグルのカナダ本社移転に伴い、トロント市の行政と一緒になってIT化された未来都市構築の計画を推進している。
すなわち、米国やカナダでは、力のある民間企業が行政から請われて政治にも大きな影響力を発揮する新たなステージに入っているのに対し、日本では、相変わらず民間が行政の権力者に擦り寄って利益誘導に躍起になっている旧態依然としたありさまなのだ。
経団連をはじめとした日本の経済界も、次世代に向けて毅然としたイニシアチブを執るどころか、アベノミクスに浮かれて安倍政権べったりだった。それが、働き方改革の不調や森友問題で政局が風雲急を告げる状況になったとたんに現政権の批判を始めている。
現代は、インターネットを始めとした技術革新によって、個人がエンパワーされ解放された時代だ。いわゆる、Wisdom of Crowds(群衆の叡智)の時代なのだ。
個人が組織や主君の犠牲になるのではなく、個人を最大限に尊重して活かすことが組織や主君の繁栄に繋がらなければならない。
グーグルには、don’t be evil(邪悪になるな)という言葉があったが、実際、正義感の強い人が多かった。組織内で発生する不祥事を見逃さずに、芽が小さい段階から問題の真相を究明し再発防止につなげていく健全な自浄能力がはたらいていた。
まさにWisdom of Crowdsが機能する企業風土に、これからの組織のあるべき姿を見るような思いがしたものだ。
最近も、ドローンの軍事利用に関する開発行為(Project Maven)を進めていることに対し、数千名のグーグル社員が反発の声をあげている。
ニューヨーク・タイムズの報道によると、社員らはサンダー・ピチャイCEOを非難する共同声明をまとめ、4月11日現在で既に3100名以上が署名したという。
抗議声明には「グーグルが戦争ビジネスに関わることはあってはならないことだ。我々はProject Mavenの中止を求め、グーグルやその関連企業が今後、戦争関連のテクノロジー開発を一切行わないことを宣言するよう要請する」とある。
政局の変化によって改憲の発議は微妙になってきたが、何より憲法とは国民が国家を律するためのものであることが前提なのを忘れてはならない。
時の権力者やその権力を利用しようとする一部の人々の意向で改憲が進むようなことは決してあってはならない。
そもそも、「主権在民」や「国民主権」を謳う現在の日本国憲法は、まさにWisdom of Crowdsの時代を先取りした優れた憲法であることを再認識しておきたい。
日本病を食い止めるのは、良識ある個人一人ひとりの叡智や行動でしかない。
その時に我々に勇気を与えてくれるのが、世間の常識に捉われず、異端であることを厭わず、自由闊達を標榜し、個を尊重して世界から尊敬され繁栄したかつてのソニーだ。
日本病払拭と日本再興には、現代のグーグルにも通底する、かつてのソニーが育んだDNAが参考になるのではないか。その思いを佐高さんとの対談に込めてみた。
日本でも、いわゆるデジタルネイティブ、ネットネイティブなどと呼ばれる世代から、若く優秀な技術者や起業家、元気な新興企業がたくさん生まれている。
また昨年、経済産業省の若手官僚達がまとめた『不安な個人、立ちすくむ国家~モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか~』という提言が話題にもなった。
新しい時代を作るのは常に若者たちだ。日本の古い体質とは無縁な新たな世代から、次世代の日本を担う前向きなエネルギーが沸き上がることに期待したい。