ゲーマー日日新聞

ゲームという文化を、レビュー、攻略、考察、オピニオン、産業論、海外記事の翻訳など、複数の視点で考えるブログ。

【評価】『ゴッド・オブ・ウォー』レビュー 我々が求めるのは父親クレイトンか戦神クレイトンか【GoW】

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要旨:

新たに生まれ変わった『GOW』は現代らしいエンタメ性重視のゲームプレイを土台に、揺れ動く親子の絆を極めてディープに掘り下げながら描写したが、一方で従来のケレン味は失われ戦闘は中途半端なモノに。老神クレイトンの精神にどこまで同調できるかが、本作を楽しむ上での鍵だ。

 

郷愁の『GOW』

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ギリシア神話を舞台に、元スパルタ人のクレイトス(現職:神)が、復讐心を建前にやりたい放題しまくるアクションゲーム『ゴッド・オブ・ウォー』。

カプコンの傑作アクションゲーム『デビルメイクライ』のシステムと爽快感をそのままに、誰も予想できなかった題材と、大迫力の演出によって、長大シリーズまど昇り詰めた傑作だ。

思えば、ちょっと鎖鎌を振ればザコ敵は血を吹き出しながらバラバラになり、偉大なる神々の目玉を引き抜き、コンボを続ければ右側にコンボ数と同時に「Savage!」だの何だの煽ってくれた『GOW』は、今思えば最後の「日本人の思い描くバカな洋ゲー」だったと思う。

暴力表現、巨大ボスの演出、クレイトスの雄叫び、何もかも過剰だった。だがその微かな記憶と共に、あの頃『GOW』をプレイした子供は大人になり、そしてクレイトスも所帯持ちになってしまった。

 

本作、新生『GOW』は正に「時の移り変わり」がゲーム内容に反映されている。ストーリーはシンプルな復讐劇から、センチメンタルな親子愛に代わり、アクションも『DMC』ライクなハイスピードアクションから、『ダークソウル』のようなシビアなロックオンアクションに変わった。

そう、本作は正しく『GOW』で笑いながら神の首を引きちぎったプレイヤーたちのためのゲームなのだ。今、大人になったあなたに向けて、共に成長したクレイトスと冒険に出かけようと、SIEサンタモニカスタジオへのメッセージなのである。

 

ウェルバランスなゲーム性

まず『GOW』を遊んでいて気になった点が、ウェルバランスで平坦なゲームプレイである。

本作でのゲームプレイは、戦闘→パズル→移動orカットシーン→戦闘…と繰り返し、その最後にボス戦で締めくくるという、一本で色々遊べるエンターテインメント性の強いゲームになっている。

 

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前作『GOW』シリーズから振り返ると、戦闘はアッサリ控えめだ。クレイトスの火力は従来に比べると格段に「常人」レベルまで落ちているが、同時に敵の数も凶悪さも減少している。

とは言え、決して難易度が低いわけではない。というかNormalですら敵は硬い・痛いで、かなり歯ごたえのある戦闘が楽しめる。今作のクレイトスはかなり貧弱で、少しの被弾でも命取りになるため、必然的に新アクション「斧投げ」を活かして、少数戦に持ち込む必要がある。

また敵の種類はかなり多く、それ毎に対策を練る必要があるのだが、その対策は息子がメモを取ってくれていつでも確認できるのは中々考えられたシステムだと感じた。

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地味なポイントだが、紙の質感が素晴らしい

 

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その代り、カットシーンとパズルが多く、絶妙にバランスが取れている。パズルの難易度は戦闘と比べるとかなり易しく、少し考えれば誰でも解ける上に、クレイトスの斧を使ったギミックが多く、合理的で納得できるものも多い。

例えば、クレイトスの持つ斧には氷結させる力が備わっており、これは敵に投げつけることで足を遅くするといったメリットがある他、回転する歯車に差し込めば歯車が止まり、生きた植物を凍らせて粉々に砕くといった使い方もあるわけだ。

パズルには一貫したルールがあり、ステージを訪れる毎に新しい道具を渡されて使い方を覚えるといった面倒な手順は必要ない。個人的に中途半端なパズル要素は苦手だったのだが、本作のパズルはかなり楽しめた。

 

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総じて、こうした戦闘、パズル、移動(カットシーン)の組み合わせから鑑みるに、本作はかの『アンチャーテッド』シリーズと『The Last of Us』を相当意識したと言っていいだろう。

ザコ敵を掃討して、その後すぐロッククライミングを始め、細々したトレジャーを集める流れは、まんま『アンチャーテッド』だし、息子アトレウスとの2人旅という構図は『The Last of Us』に近い。

つまり、良く言えば多様性があり飽きさせないバランスの取れたゲーム、悪く言えば色々なゲームの寄せ集めといた具合だ。戦闘にせよパズルにせよ、それに特化したゲーム程奥深いわけではないが、次々にゲームプレイの内容が変わるので中々飽きず、誰でも楽しめるように作られている。

総じてエンタメ性の強い、万人受けするゲームなことは間違いない。

 

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揺れる親子の絆を描く物語と、驚異的な長回し

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このように、バランスの取れた娯楽性の強い本作だが、その一方で演出と脚本については特筆すべき程に気合を入れている。

 

まず、本作最大の特徴が、驚異的な長回しである。

長回しとは要するにカットを用いず、ずっと同じカメラ・映像で撮影を続ける映像技法であり、最近ではイニャリトゥ監督の『バードマン』という映画が、たった一度もカットしない(ように見せかけた)映画として批評家から絶賛されたが、本作はこれを何とゲームで行っている。

イニャリトゥ監督の『バードマン』は119分の長回しを実現させたが、対する『ゴッド・オブ・ウォー』は予想総プレイ時間が25時間と考えれば、いかにこの試みが驚異的かご理解頂けるだろう。

何と、本作はゲームスタート時の画面から既にクレイトスがプレイヤーの眼の前に存在していて、「NEW GAME」を選択すると画面内のクレイトスがそのまま目の前の木を切り倒し、ゲームが始まるのだ。これ程、印象的なゲームのオープニングは始めてである。

 

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そしてこの驚異的な長回しから展開されるのが、「父」となったクレイトスと、本作初登場となる彼の息子アトレウスとの間で描かれる、長大な旅と親子の絆の物語である。

本作のローカライズプロデューサー安次嶺クリス曰く、アトレウスの年齢は「思春期前、反抗期にちょうど入るかくらいの時期」だそうで、メンタル的にも不安定。父親のことを尊敬している一方、普段は家に帰らず自分の話を聞かないことで、強い反発心も持っている。

一方、ご存知の通りクレイトスも結構な豆腐メンタルなので、少し息子が反抗的な態度を取ると怒鳴りつけるなど、息子への愛が空回りしてしまう悲しいオヤジ。そして2人は「妻」「母」という共通の大切な人を喪った点から、互いに反発し、やがて理解し合うよう描かれている。

正直、こういう不器用な親子愛というだけで、個人的には結構グッとくるのだが、驚くのは細かな演出と声優の演技だ。クレイトスが悲しむアトレウスの背中を擦ろうとしても勇気が出ず触れることが出来なかったり、アトレウスが敬語を使いながら父親に嫌味を言う演技は、父への敬意と憎悪が入り混じった感傷を与える。こうした描写が本当に細かい。

また私は英語音声でプレイしているが、日本語音声も三宅健太に小林由美子と実力派の優れたキャスティングにより、文句なしの出来に仕上がっていると思う。なんと唯一日本語版だけ戦闘中の吐息まで吹き替えしたとのことだ。

 

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世界観も中々意表を突いたテーマで興味深い。前作までギリシアでの戦いに明け暮れたクレイトンは、より静かな生活を求めて北欧に移動している。そして北欧の神々やトロルたちとの戦いに向かっていくのである。

この神話と神話の一種のクロスオーバーは中々に面白い。かのスパルタ戦神クレイトンと、特に戦いに関する逸話が豊富な北欧の神々、どちらが勝つのか? 正しく神話大戦と言うべき構図だが、一方で今回のテーマは復讐劇ではないので、神様同士のドライな付き合いが垣間見えたりする。

またギリシアという南欧に住んでいたクレイトンにとって、北欧は全くの異郷だ。これにより、新規プレイヤーとも全く同じ視線で、常に新鮮な冒険をすることが出来る点からも、北欧への「引っ越し」は本作に様々な恩恵を与えている。

 

されど戦闘は物足りない

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が、気になったのが戦闘だ。

本作はありふれたロックオン中心の近接アクション(Melee Action)だ。R1で弱攻撃、R2で強攻撃に加え、斧の投擲による遠距離攻撃が可能だ。また防御には盾によるガード、パリィ、回避が標準装備されていて、要するに『ダークソウル』そっくりの戦闘である。

 

…のだが、色々と脇が甘い。

まず、元ネタになった『ダークソウル』の美点を挙げよう。まず敵は一部例外を除き殆ど最初から配置されており、プレイヤーに倒す順番や使うスキルを決めておく猶予がある。また戦闘の中には「スルーする」というのも立派な手段で、まず敵をひきつけて有利なポジションについて攻撃するなど、マップを十全に活かした戦闘が可能だった。

だが『GOW』では、敵は大半が戦闘中にリスポーンするので戦略を考える余地がなく、画面外からの不意打ちを常に警戒するのは不合理だ。また、敵を全員倒さないと絶対に進めない所謂アリーナ式なので、マップの構造を殆ど活かせないし、ちょこまか動く敵を全滅させる時間だけテンポを失う。

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また、敵の攻撃も自分の攻撃も、相手に「吸い込まれる」ラフな当たり判定のため、敵との間合いや武器の刃渡りを考慮した立ち回りが薄く、敵味方共に回避による無敵を利用した単調なタイミングだけの駆け引きになりがちだ。

総じて、「やらされている感」が拭えないリニアな戦闘だった。色々戦法が用意されてはいるが、自分たちで遊び方を限定した上で難易度を調整しているので、常に開発者が用意したレールを歩いている感が拭えない。

 

無論エンタメ性を重視したアドベンチャーゲームなので、本格的なアクションは期待していないが、それにしてもプレイ時間の半分を占めるであろう戦闘部分である以上、もう少しリプレイ性のある戦闘を期待していた。

前作、特に名作と評される『GOW3』の場合、奥深い戦闘とまで言わずとも、ユニークな武器で爽快感があり、またコンボ等で極める要素もあったので、本作の地味で粗の目立つ戦闘は、全体的にトーンダウンした感が拭えない。

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総合

「父親クレイトン」という新たな『GOW』の可能性を発見した功績は大きいが、「戦神クレイトン」としてはゲームプレイが些か物足りない。

とは言え、広大なオープンワールドを息子と旅し絆を深めるアドベンチャーとしては、優れた点が無数に存在する良質な娯楽精神に溢れた良作だ。

 

※本批評はあくまでファーストインプレッションです。後に完全版を投稿する予定です。