憲法9条へのカタバシス
<近刊>
- 著者
- 木庭顕
憲法9条とりわけ2項をどう解釈すればいいのだろうか。今まで一度も真に理解しないまま、粗雑な議論で花芽を摘んでいいはずがない。カタバシスは「下降行」、転じて、冥府に降り、過去の人物に遭うこと、さらに転じて、時間軸を遡ることをいう。タイムトンネルをくぐり、明晰に著者は立論する。
9条は、パリ不戦条約が自衛権留保によって空洞化したという苦い歴史的経験の上に立つものであった。自衛概念の危険性は、ホッブズが遙かトゥーキュディデースの書物を最深部まで読み込み、その克服の見事なロジックを組み上げたものであった。
〈こうして、既に9条1項は、一見不戦条約をそのまま継承するものに見えて、自衛のための戦争をも否定する〉〈2項はさらに、占有線を越えない実力形成といえども内部をトータルに軍事化して他国の軍事化に対抗し抑止力(報復力)を得るものであればこれを禁ずる趣旨である。これが自衛権拡張の主要なヴィークルだからである〉そして〈政治システム存立にとって不可欠の原則を宣明したこれらの規定は憲法に不可欠であり、削除することは政治システムの破壊に等しいから、改正は違法である〉
精緻にしてストレートな9条論、ソクラテス・メソッド(対話)を駆使して説く憲法改正問題、近代市民社会の基底を問う圧巻の漱石論・鷗外論(書き下ろし)から、自衛戦争を正当化したとされる通説を鮮やかに覆すホッブズ論まで、ローマ法を専門とする碩学がクリアに見透す9条の構造。
目次
序――日本国憲法9条の政治的弁証に向けて
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1 日本国憲法9条2項前段に関するロマニストの小さな問題提起
1 問題
2 若干の迂回
3 問題の置き換え
2 法学再入門:秘密の扉 ぜんべえドンとオハナぼう、番外篇――ポンポコ山に憲法改正の危機
事態を見つめよう
誰のものでもない
ポンポコ山の桃太郎
まず落ち着いて徹底的に解剖しよう
自分が座っている椅子を自分で蹴飛ばしてはいけません
3 知性の尊厳と政治の存亡――三谷太一郎『人は時代といかに向き合うか』
4 政治はどこにあるか
5 夏目漱石『それから』が投げかけ続ける問題
0 序
1 ジャンル
2 設定
3 問題
4 問題の変幻、「胡麻化し」の先送り
5 問題のトポグラフィー
6 échangeの連鎖
7 「胡麻化し」の深層
8 二つの自然
9 壁
10 エピローグ
6 森鷗外と「クリチック」
0 序
1 考証学
2 「クリチック」
3 江戸末期考証学者たちのlibertinage
4 自律的知的階層
5 文芸化の脈絡
6 小さな分岐
7 お玉
8 安寿
9 結
7 Hobbes, De civeにおけるmetus概念
0 序
1 政治(公権力)形成の直接の土台
2 基層たる概念構成
3 Thoukydides
4 Hobbes再解釈の試み
8 日本国憲法9条改正の歴史的意味
1
2
3
あとがき
索引
著訳者略歴
「憲法9条へのカタバシス」の画像:
「憲法9条へのカタバシス」の書籍情報:
- A5判 タテ210mm×ヨコ148mm/224頁
- 定価 (本体4,600円+税)
- ISBN 978-4-622-08673-4 C1032
- 2018年4月25日発行予定