中高数学教育序説-はじめの0.5歩-

特に数学教員志望の学生さんや若手数学教員の皆様の少しでもためになったらこれ幸い

中学生の数学理解の実態【数と式】編

先日2018年4月17日は全国学力・学習状況調査が行われた日でした。

A問題(主として「知識」),B問題(主として「活用」)という形式では最後の年となります。

さて,この全国学力・学習状況調査については様々な意見がありますが,中学生の数学理解の実態について(あくまで紙面調査に過ぎないのでごくごく一端ですが),量的な分析という意味では貴重な情報を提供してくれていると私は捉えています。

以下,まずは【数と式】領域に限って,個人的に興味深い問題とその反応について簡単に見てみたいと思います。

 

(1)方程式の解の意味

まずは2016年度のA問題から。

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この問題の正答率は以下のとおりです。

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問題で,x=3 を代入すると両辺の値が 6 で等しくなることが示されているわけですが,正答率は48.2%です。

両辺の式の値である 6 を「方程式の解」としている生徒が30.9%います。

こんな分析もされています。

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A3(1)は次の問題。

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つまり,この方程式を「解けた」生徒のうち約半分の生徒しか,「方程式の解」を正しく指摘できていません。

どうしてか。

これはあくまで私の経験に基づく仮説ですが,等号(=)および等式の理解,そして「解」と「答え」の混同に問題があると考えています。

方程式や不等式は,数量の「関係」を表現します。

しかし,小学校の算数では,「等号(=)の右に"答え"を書く」という習慣でずーっと学習してきています。

つまり,等式は両辺が等しいという「関係」を表現する式ではなく,「左辺が計算対象で,右辺に"答え"」を表現する式であると理解している可能性があります。

上の問題では,2x=x+3 の両辺それぞれに x=3  を代入し,式の値を得ています。

この「式の値」を,計算結果としての「答え」として捉え,そして「答え」と「解」を混同しているので,「式の値」である 6 を「解」としている可能性がある。

いかがでしょうか。

もちろん,方程式の前に等式の意味をしっかりやっておかないとまずいことは当然のことなので,方程式より前の文字式の学習のところで「関係」を表す式として等式と不等式をちゃんと学習することになっています。

ここは「日本語を数学語に翻訳すること」を学習する箇所としてとても重要ではありますが,翻訳したところで終わってしまうので,生徒もその意義がわかりづらいのかもしれません。

「答え」と「解」の混同については,教員がしっかりとその違いを明示するとともに,言葉遣いに気を付ける必要がありますね(自戒)。

 

(2)「移項」の意味

方程式に関しては次の問題も興味深いです。2007年度のA問題から。

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正答率は以下の通りです。

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正答率は61.7%です。

興味深いのは次の指摘です。

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3(2)の一次方程式はこちら。

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これの正答率は83.6%と高いです(この辺はさすが日本)。

つまり,この方程式を「解けた」生徒のうち約3割の生徒は,移項の根拠を正しく指摘できていません。

移項という操作が形式化されているのはよいのですが,その根拠までは戻れない,つまり「"なぜ"かはわからないけど項をもう一方の辺に移すときは符号を変えればよい」ぐらいにしか理解していないとすると,やはり問題でしょう。

なぜかというと,まずは単純に同値変形の理解になっていないので,ここは乗り切れても先の学習(例えば1次不等式の同値変形)で困ったりすることになります。

次に,もう少し大きな話でいうと,数学は"なぜ"を大事にしないと結局は伸びない教科であると考えられるからです。

操作が形式化されるのはよい。

意味がよくわからなければひとまず操作に習熟するのもよい。

でも,最終的には,その操作の意味,その操作をしてよい根拠に戻れるようになってほしい。

そうして初めて操作に自信を持てるようになるし,ちゃんと理解して先の学習(それこそ高校で学習する不等式の同値変形など)に活きるようになる。

 

この問題が出た2007年度というのは,実は最初の全国学力・学習状況調査が行われた年度でした。

今年度,これと同趣旨の問題が出題されたようです。

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さて,結果はどうなるでしょうか。

ちなみに,両辺を同じ数でわっている変形を問う問題が2015年度に出題されていますが,そちらの正答率は79.8%でそれなりに高いです。

ここも興味深いところですね。

 

(3)「自然数の意味」-悪問中の悪問-

最後に。

上で書いてきたように私は全国学力・学習状況調査にはそれなりに肯定的な立場なのですが,「さすがこれは悪問では…」という問題が出されたことがあります。

これです。2016年度のA問題より。

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自然数をすべて選べ」で,選択肢に「0」が・・・

意図的に議論を起こすためにこうしたんじゃないかと勘ぐりたくなるレベルです。

趣旨や「正答」率はこうなっています。

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「0」を含めた生徒が32.0%いますが,誤りとなっています。

確かに,高校までの学校数学の立場では「自然数」には「0」を含みません。

しかし,学問としての数学では,「0」を含んでおいた方が都合がよく,それこそ「自然」であると考えられる立場があります。

(ものを数えるときは「1」から始まるのが「自然」だと考える方も,集合論自然数を構成する際には,空集合 ϕ はやっぱり「0」とするのが「自然」だと考えるのではないでしょうか )

その立場を考えずに,「いや学校数学では0を含まないから」と突っぱねるのは筋が悪いでしょう。

何より気になるのは,問題の趣旨が「自然数の意味を理解しているかどうかをみる」だということです。

自然数の意味を理解する」・・・・真面目に考えると,「自然数の意味を理解する」とはどういう状態を指すのでしょうか・・・・

そこに「0」を含められるかどうかということはどう関係してくるのでしょうか・・・・

集合の要素を指摘できればよいということは,ひとまず自然数という概念の外延についての理解を調べようとしている・・・・?

気を付けたほうがよい文言だと思います。

 

私は中1を担当したとき,「0」を含むかどうかについては,両方の立場があると教えました。

そんな私の経験だと,中1生徒からすると「正直,0を含もうが含むまいがどっちでもよい」というのが率直な感想という感じでした。

生徒たちにとっては,これを学習する中1最初のタイミングでは,どちらの方が「都合がよい」だとか,「きれい」だとか,そういう意義がまだ見えてこないので,「0」を含むかどうかはただの約束に過ぎないと考えられるからです。

だからこそ,反応率が割れたとも考えられますし,そんな中でこれを問う必要があったのだろうか,とは考えてしまいます。

 

数と式領域においても,他の領域でも,他に興味深い実態の一端が見られますので,いつになるかわかりませんが,また書きたいと思います。

過去の全国学力・学習状況調査の問題や分析結果はこちら。

www.nier.go.jp