写真はイメージ=PIXTA 上場株式の配当にかかる所得税と住民税で、異なる課税方式を選択することにより節税する方法が注目されている。2017年度の税制改正を受けて事実上、可能になった方法だ。税務署への確定申告と自治体への届け出が必要だが、ひと手間かければ、税金を減らせるケースは多い。年金生活者や自営業者であれば社会保険料負担の軽減につながることもある。どんな方法なのか見ていこう。
「こんな節税方法があったなんて……」。ランドマーク税理士法人の清田幸弘代表税理士によると、注目の節税法を説明すると、相談者のほとんどが初めて知ったと驚くという。
節税法はやや難解なので順を追って説明する。
税制上、株式の配当は所得税(国税)と住民税(地方税)が別々に課され、それぞれ有利な課税方式を納税者が選択できる仕組みになっている(図A)。
■税制改正で可能に
ところが実際には有利な方式を住民税で選ぶことは従来できなかった。自治体側の税務対応が追いつかず、所得税で選んだ方式が自動的に住民税に適用される体制になっていたのだ。
これを是正するため政府は制度を改正。自治体の窓口に申し出た人は、有利な課税方式が認められるようになった。16年の所得を基に計算する17年度の住民税から始まっている。
ではどのように課税方式を選び分けるのが有利なのか。表Bは、投資家が実質的に負担する税率を、3つのパターンに分けて比較している。
まず確認してほしいのがa。配当を両税とも申告しないパターンだ。配当は受取時にいったん税金20%(所得税15%、住民税5%)分が源泉徴収されるため通常、改めて申告などする必要はない(申告不要制度)。特定口座の利用者をはじめ投資家の多くはこのパターンに該当する。
次に見てほしいのがb。総合課税を選び配当を申告する人たちで、どちらかと言えば少数派だ。総合課税には「配当控除」という負担軽減の仕組みがあり、所得水準によっては税率が源泉徴収税率の20%より低くなり、aよりも有利。配当控除は法人税との二重課税を調整するためにある仕組みだ。
そして注目すべきがc。最近可能になった節税法がこのパターンだ。所得税は総合課税を選んで税務署に確定申告。そのうえで、市区町村の税務窓口に届け出て、住民税の扱いを申告不要とする方法だ。
課税所得が900万円以下の一般的な水準の人で見ると、税率はaやbよりさらに低く、お得なことが確認できる。
例えば課税所得「695万円超900万円以下」の人の実質税率は18%。計算法は省くが、内訳は所得税13%、住民税5%となっている。所得税は、総合課税を選ぶことで配当控除の恩恵を受けられる。住民税のほうは申告不要の扱いとすることで源泉徴収税率である5%だけで済むのが大きい。bのケースでは住民税の負担はもっと重い。
総括すると、所得が900万円以下の人はcのパターンを選ぶのがよいだろう。一方、高額所得者は「両方とも申告不要のままでいるのが得策だ」(新宿総合会計事務所グループの瀬野弘一郎代表税理士)。
事例を一つ紹介しよう。東京都武蔵野市に住む85歳のAさんは、保有株で年30万円ほどの配当を得ている。従来は配当控除を受けるため総合課税を選んでいた。表Bではbの税率7.2%のところにあたる。
■社会保険料の負担軽減も
より有利な方法(c)があると知ったAさんは今年3月、市役所を訪問。配当を申告不要の扱いとする届け出をした。税率は5%に下がり、住民税額が約7000円減った。
注目したいのはAさんが得したのは税金だけではない点だ。実は後期高齢者医療の保険料が年3万円近くも減りそうだという。
75歳以上が加入する同制度の保険料は、住民税の課税所得に連動する部分がある。「所得割」といい、武蔵野市の例で料率は約9%。Aさんのケースでは届け出をしたことで、課税所得に配当30万円分が上乗せされずに済んだ。結果として保険料負担を3万円近く軽減できる計算だ。
所得割の仕組みは国民健康保険などにもある。加入者はAさんと同様、節税と保険料軽減とセットで得する可能性がある。
住民税を申告不要の扱いにしたほうが得するケースは他にもある。例えば複数の証券会社で「源泉徴収あり」の特定口座を開設して株式を売買している人だ。
図Cのようにa証券で利益、b証券で損失になったら、そのままにせず、確定申告して両口座間の損益通算を実行したほうが通常はよい。源泉徴収されていた税金の一部が還付される。申告分離課税といい、届け出なければ住民税も同じ方式になる(1)。
ただし、国保などの加入者は、申告することで所得が増え、社会保険料負担が重くなる恐れがある。保険料が増えれば、税還付額を考慮しても全体で負担増になりかねない。しかし、住民税を申告不要としておけば保険料に響かないで済む(2)。
「届け出の手続きは市区町村によるが、専用書類に記入したり、住民税申告書にチェックを入れたりする」(税理士の藤曲武美氏)。詳細や不明点は市区町村の税務窓口に問い合わせよう。
(後藤直久)
[日本経済新聞朝刊2018年4月14日付]
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