「オファー殺到」で喜んだのもつかの間……。写真はイメージ=PIXTA 4月11日付の日本経済新聞朝刊の記事によると、「2017年度は転職者の求人倍率が過去最高となった。転職後の賃金が1割以上増えた人も3割と、最も高い水準にある」「転職者数は311万人と5年前より25万人増えた」そうです。このような、過熱気味ともいえる現在の転職市場において、転職活動中の皆さんへの「スカウト」「オファー」も急増しています。しかし、実はそれが必ずしも最終的に良い転職先に決まることと結びついているわけではありません。その現実について、解き明かしてみたいと思います。
■「オファー」殺到、あなたは転職市場の人気者か
有効求人倍率と転職者の賃金 「この歳になって初めて転職サイトに登録したのですが、こんなに色々な転職エージェントや企業からスカウトが殺到するなんて、驚きましたよ」
先日お会いした40代後半の方との面談の中で、飛び出したのがこんな発言でした。また、ミドルの方の転職成功記事で「私は数十社からスカウトがあった」という見出しが目を引いたり、書籍で「130社からオファーのあった私が語る成功術」のようなタイトルが躍ったりする昨今の転職市場の活況。しかし、そもそも「オファー」という表現には、気をつける必要があります。
本来、「オファー」とは企業からの採用内定(の通知)を意味するものでしたが、現在の転職登録サイトでは、転職登録者に紹介エージェントや企業人事が声掛けのメールを送る、そのメールの名称が「オファー」となっていることが多いのです。
つまり「スカウトがあった」「オファーが何十社、何百社」といっても、それは初動の「転職を考えているあなたの経歴を見たところ、今求人をしているポジションでの可能性があるのではないかと感じました」という事前のご連絡、あるいは良くて書類選考段階での通過をお知らせするものにすぎません(私は、これを「勘違いオファーゲッター」と呼んでいます)。
もちろん、こうした転職スカウトの声がかかることは、転職活動をしている人たちにとってはよいことです。あなたの経歴に、可能性や魅力を感じる企業、人事、経営者がいるということですから。
では、こうした転職スカウトから声が多くかかる人が、イコール、転職成功者なのでしょうか。実は、この答えが「YES」とはいえないところに、昨今の転職活動における非常に重要なポイントがあるのです。私自身、月に数十人から、場合によっては100人近くの若手リーダー、ミドル、エグゼクティブとお会いしている中で、
●書類選考はかなりの確率で通過するのに、面接でその先になかなか進まない人
●よいところまで進むものの、最終面接でいつもご縁がなくなる人
と、
●必ずしもスカウトの声掛けの数が多いわけではなかったり、非常に限られた案件内でしか検討できないバックグラウンドや年齢であったりするのに、早期で良縁に恵まれる人
とが、常に二極化して存在しているのが現実です。なぜこのようなことが起きるのか。その差は、なんなのでしょうか。
■転職の成功には3つの「ステージ」クリアが必要
転職活動における二極化が発生するメカニズムを、具体的なステップで見ていきましょう。
(1)汎用的な職種・業界経験なら、スカウト段階では声掛けが殺到
ニーズの多い営業系、経理・財務系の職種などであれば、率直に言ってスカウトの絶対数は多くなります。また、なかなか獲得が難しいエンジニア系職種などですと、多少経歴的に難がありそうだと思われても(例えば短期間での転職繰り返しがあるなど)、「ぜいたく言ってられないので、一度会ってみようか」となるケースも少なくありません。同業界からのスカウトが多くなるのも、やはり同じ理由からです。
(2)学歴・企業ブランドフィルターも、いまだ健在
企業や経営者個別の判断軸や好みによりますが、学歴フィルターや前職までの在籍企業名といった企業ブランドのフィルターも、いまだに根強いのが事実です。こちらも、この2点のいずれか、または両方がよい(よく見える)ため、あまり細かい職務の経験内容や実績について参照せずに、「取り急ぎ」スカウトをかける企業やエージェントがいるのも現実です。
上記2つの段階は、「まあ、とりあえず、会ってみようかステージ」です。折しもこの転職市場の過熱状況で、以前に比べて、この「まあ、とりあえず会ってみよう」アクションが増加しているわけで、これが次のステージ以降での「悲劇」を、結果として激増させている理由にもなっています。
(3)実際に面談や面接に進んで気づき始める現実
冒頭の方のように、「おお、こんなにスカウトが殺到、俺も人気者だな。転職市場も過熱しているというのは本当だったんだ。これは俺のキャリアアップ転職も楽勝だな」と思って、気楽にエージェントとの面談や企業との面接に足を運び始めてみると、徐々に気がつく現実があります。
●面談の場では、あまり話が盛り上がらないまま終わってしまった
●自分が希望しない案件を押し付けられ、応募するよう強要された
●希望を伝えると、「そのような希望の職務や肩書、年収は無理」と言われた
●次の面接にまったく進まない
理由は、(1)(2)のレベルでは対象となったものの、実際に個々個別の企業・ポジションの話となると、職務経験での取り組み方や実績が不明確であったり、正直あまり成果を残せていなかったり、そもそも、ご自身が今後何をやりたいのか、できると思っているのかについての棚卸しが甘かったりするためです。
率直に申し上げて、自分の力量把握が甘かったり、一定以上の実績をこれまでしっかり残していない方々が、この「人物力量仕分けステージ」で次々と望みを打ち砕かれることとなります。自身の強み・弱みを踏まえた、適切な求人での検討ができている方は、この仕分けステージをクリアし、次に進みます。
■最終勝負は「同志に加えたいか否か」をクリアできるか
(4)よいところまで進むものの、いつも最終面接で落とされる
前半戦の選考をクリアし、2次、3次、最終面接へと進むものの、最終段階でなぜかいつもトーンダウンしてしまい、結果、ご縁に至らない。こういうタイプの方も少なくありません。
経歴、実績は悪くない。求めている要件はおおむね満たしてもらえそうだ。そう思われる方は、(3)の「仕分けステージ」をクリアし2次、最終へと進みます。しかし、最後にご縁があるか否かは、一つには「人間性的な部分でのフィット感」、二つ目に「ご本人の情熱、コミットメント」、この2つをしっかり感じられるか否かにかかっています。
要は、「一緒に働きたいと感じるか」。理屈をある面超えて、毎日共に机を並べて気持ちよく楽しく働けそうか(ある経営者は、「一緒に飲みに行きたいと思うか」とおっしゃっていました)。そして何よりも、「彼、彼女にこの仕事を任せたら、最後までやり切ってくれるだろう」と感じられるかどうか。
特に年齢や役割が上にいけばいくほど、この2点は非常に重要な最終採用決定のポイントとなります。この「同志に加えたいか否か、ファイナルアンサーステージ」で、あなたの本気度・本音が問われるのです。
必ずしもスカウトの声掛けの数が多いわけではなかったり、非常に限られた案件内でしか検討できないバックグラウンドや年齢であったりするのに、早期で良縁に恵まれる人は、(3)(4)のステージを最初からクリアされていることが多いです。
「転職活動=可能性を広げなければいけない」と考え、ご自身の専門職種や経験業界などを逸脱して、「なんでもできます!」「なんでもやります!」とアピール、応募される方を多く見ますが、全くナンセンスなことです。そうした行動が、失点、失策につながっていることをぜひ認識いただければと思います。「なんでも」とは、「あなたならではの、成果を出せる強みがない」とイコールです。
逆に、ご自身の得意領域、専門領域が限られている方は、それが明確であるがゆえに、採用する側の経営者や企業からすると、自社がキャリア採用で求めたい職務に合致しているか否かが分かりやすく、だからこそ当人もその専門領域への腹のくくり方や情熱を感じられることが多いのです。
スカウト数が多い方は、それに浮かれず、惑わされずに、自分の強みや今後やりたいことについて、しっかり明確化することで、「転職活動のための転職活動(=やみくもに応募、面談や面接の数を増やす労力)」から脱して、効果的、効率的な転職活動ができるでしょう。
初動のスカウト数が少ない方で、専門領域や方向性が絞られている方は、その詳細をより分かりやすく記述する工夫などはしつつも、決して意に沿わない方向に間口を広げるような勘違いはせず、ご自身にフィットした出合いを積極的に待ち続けてください。あなたにフィットした一社の一ポジションと出合えればよいのですから。
※「次世代リーダーの転職学」は金曜更新です。次回は4月27日の予定です。この連載は3人が交代で執筆します。
井上和幸 経営者JP社長兼CEO。早大卒、リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、リクルート・エックス(現リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に経営者JPを設立。「社長になる人の条件」(日本実業出版社)、「ずるいマネジメント」(SBクリエイティブ)など著書多数。 本コンテンツの無断転載、配信、共有利用を禁止します。