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なぜ「漫画村」「Anitube」「Miomio」を悪質サイトとして指名したのか。
AnitubeとMiomioは、CODAの削除要請に従わず、当局の介入もかいくぐる悪質なサイトとして、2018年2月に開催された政府の知的財産戦略本部の会合で紹介した。漫画村はCODAに所属する出版社からの要請で、2月の会合で同じくリストに入れて説明した。漫画村についてはCODAから検索削除要請などのアクションは実施していないが、完全匿名のドメイン登録サービス「Njalla」を使っているなど、悪質である点では同じだ。
政府の緊急対策案には、CODAの推計として、漫画村の2018年2月の訪問者数が約1億6000万人、漫画村の被害額は約3000億円との数字があった。推計の根拠は。
「被害について可視化できたらよいのでは」との話があり、2018年4月3日の自民党政務調査会 知財戦略調査会で資料を提出した。その一部が緊急対策案で引用されたようだ。
我々が用意した資料(非公開)に載せたのはSimilarWebの集計値だ。2017年9月から2018年2月の各月における「合計訪問者数」、つまり月次の延べ訪問者数のグラフと、その期間中の被害額だ。
緊急対策案の文面が作成された経緯までは詳しく知らないが、CODAが提出した資料にある「合計訪問者数」と書かれた数字を、緊急対策案では「訪問者数」として引用したのだろう。
約3000億円という被害額の計算法は、2017年9月から2018年2月までの延べ訪問者数である約6億2000万人に、雑誌や単行本の単価の平均額である515円をかけたものだ。
動画サイトの被害額(Anitubeは約880億円、Miomioは約250億円)も同様に、正規ダウンロードの平均単価である356円に、各サイトの合計訪問者数をかけたものだ。
「ブロッキングは伝家の宝刀ではない」
CODAは2016年から国境を越えた悪質サイトに対するサイトブロッキングを政府に主張していたが、本格的な検討につながることはなかった。なぜ今回、サイトブロッキング容認という議論が出てきたのか。
風向きが変わったのは、2017年末頃から「小中学生の間で漫画村が流行っている」との話が報じられるようになったことだ。これまではサイトブロッキングについて政府に提案しても、議論の優先順位は低かった。我々は、Anitubeなどの事例から「もう打つ手がない」としてサイトブロッキングの違法性阻却を政府にお願いしていたが、これは立法による違法性阻却を想定したもの。立法への道筋ができたのは大変喜ばしいが、緊急避難によるブロッキングの容認という案が出てきたのは正直驚いた。
権利者などサイトブロッキング推進派のなかでも、私はサイトブロッキングに一番消極的な立ち位置かもしれない。児童ポルノ問題ではブロッキングについて政・官・民が長期にわたり議論した。通信の秘密の侵害につながるという法的な難しさがあるのは承知している。加えて、ISPが児童ポルノ向けサイトブロッキングの運用で苦労しているのも知っている。
ブラックリストに載ったサイトを単純にブロックしても、ドメインを変えて再開されるだけ。その点でサイトブロッキングは「伝家の宝刀」とは言えず、抜け穴が多い。
英国では著作権侵害サイトでサイトブロッキングを実施する際、別のドメインに移行しても即座にブロックできる仕組みを整え、抜け穴を埋めている。これは簡単なように見えて、法律、体制、運用の三つの面で難度が高い。
CODAとしては、できるだけISPの作業負担が軽くなるような運用を考えたい。ブロッキングの法制度ができるとすれば、行政によるブロッキングではなく司法ブロッキング、つまり権利者の申し立てに応じて裁判所が判断し、ISPにブロッキングを命じるような形になるのではないか。ただ法律ができるまでは、緊急避難によるサイトブロッキングについてはCODAを含む権利者側からISPに、民間対民間の話として「お願い」するしかない。
ISPが法律や司法の判断なしにサイトブロッキングを実施した場合、ISPは通信の秘密の侵害でユーザーに訴えられるなどのリスクを一方的に負うことになる。
その点は重々承知している。いずれにせよ政府の緊急対策案の枠組みでは、我々はISPにブロッキングを「お願い」するほかなく、それ以上のことはできない。今後、権利者やISPなどがブロッキングについて議論する協議体ができる見通しだが、それぞれ何ができるのか、改めて話し合いたい。