日本が「インフレになるはずがない」根本理由

アトキンソン氏「ペスト時の欧州に学ぶべき」

資本家の苦境とは対照的に、労働力不足になったため、労働者の労働条件は劇的に改善しました。それを最も顕著に示しているのが、収入の増加です。人が減っても社会資本は減らないので、人々の可処分所得は劇的に増えました。人口が減りだしてから最初の10年だけを見ても、男性労働者の年収は1.8倍に増え、40年後には2.1倍に上昇しました。同時期、女性の年収も1.8倍2.5倍に上昇しました。

では、この時代の労働者は激しいインフレに苦しめられたのかというと、まったくそんなことはありませんでした。オックスフォード大学の研究によると、労働者の収入が激増したこの時代、物価水準はほぼ横ばいであったことがわかっています。

物価がかわらず、収入が2倍以上に増えたのですから、実質賃金が大きく増えたことになります。まさに、人口減少が「労働者の黄金時代」をもたらしたのです。

賃金が上がっているのに、なぜ物価指数が上がらなかったかというと、需要者が少ない中で賃金が上がったので、今まで消費していたものではなく、より付加価値の高いものを消費するようになったからです。簡単に言えば、昨日まで古着を着てパンを食べ、ビールを飲んでいた人が、今日から正絹を着て肉を食べ、ワインを飲むようになったということです。

雇用側も人手をかけずに商品とサービスを提供するしかないので、イノベーションが進みました。

やはり大切なのは「生産性」の向上だ

この事例には、今後の日本経済が進むべき道を考えるうえで、大変重要な示唆が含まれています。

それは、人口減少に直面した欧州の人々が、働き方を変え、産業構造を変え、資本家と労働者の関係を変えることで、必死で「生産性」を向上させてきたことです。もしも彼らが変化を恐れ、それまでどおりの働き方に固執していたら、その後の繁栄がなかったことは明らかです。

人口減少時代に必要なのは、変化を受け入れ、むしろ変化を楽しみながら「生産性」を持続的に向上させていくことです。経済の大前提が崩れ去った時代には、変化を恐れる姿勢は「座して死を待つ」以外の何物でもないのです。

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  • NO NAME5b9707dcedb4
    人口減少の他に、高齢者人口の増加も、日本経済の死に関係していると思う。
    高齢者がこれだけ多く、しかも増加しているのは人類史上初だろう。

    ペスト時代は高齢者の数は少ないから現役の収入が増えたが、現代は、年金保険料や健康保険料のせいで現役の収入が上がらない状況だ。
    今の日本は、人類が初めて遭遇する厳しい経済状況なのかもしれない。
    up110
    down44
    2018/4/20 09:06
  • NO NAMEeec966642558
    UBI(ベーシックインカム)の導入が、これからの時代の経済発展には必要になってくるだろう。
    up75
    down32
    2018/4/20 09:16
  • NO NAMEedce3e58e541
    個々の話で言えば結婚せず子供作らないってだけなのに黒死病レベルの扱いになっててちょっと面白かった
    up88
    down51
    2018/4/20 08:30
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