昨日、原宿のfinetrack TOKYO BASEにて開催された山岳写真の講習会に参加してきました。講師はブログ「登山と写真で仕事をしている人。」でお馴染みのネイチャーフォトグラファー山写氏と、finetrack TOKYO BASEの店長であり山岳ガイドの平川陽一郎氏です。
【4/19(木)】山岳写真を撮るための山の登り方と撮影技術講習会
登山をしながら安全に、美しい写真を撮るためには何が必要でどこに気をつければいいのか。山岳ガイドとネイチャーフォトグラファーの2人で登山と写真撮影の両方から「山岳写真」をお話します。
- 開催日時:4/19(木) 18:30〜20:00(20:00〜21:00は個別相談・フリートーク)
- 定員:20名
- 開催場所:finetrack TOKYO BASE 2階特設会場
- 講師:山写(ネイチャーフォトグラファー)、平川陽一郎(TOKYO BASEマネージャー)
「山岳写真を撮るための山の登り方と撮影技術講習会」
山岳写真講習会 in finetrack TOKYO BASE | 登山と写真で仕事をしている人。
なんと100人を越えるキャンセル待ちが出たというこの人気セミナー(TOKYO BASEでは初のことだとか)、山岳写真におけるリスクマネジメントから撮影技術のレクチャーまで、無料で参加したことが申し訳なくなる位、大変有意義なセミナーでした。
気合いの入ったフルカラー印刷のレジュメに、記念品までいただいてしまって恐縮です。
セミナーの内容についてレポートを書くことを許していただいたので、本記事にまとめてみました。尚、後半の撮影技術に関するトピックについては、配布された転載禁止のレジュメと内容が被る部分は全般をカットしています。皆さんが一番知りたい部分だとは思いますが、どちらにしてもテキストのみでは説明が難しいものが大半で… ご了承ください。
セミナー前半は山岳写真についての安全、リスク管理について
TOKYO BASEの店長でもある平川氏の挨拶に始まり、山写氏の自己紹介からセミナーがスタート。主に山写氏が進行しつつ、トピックによって山岳ガイド(日本山岳ガイド協会 認定登山ガイド/日本山岳ガイド協会 危急時対応指導員/マウンテンガイド協会 会長 等)でもある平川氏の解説(ブルーにしています)を都度挟んで行くスタイルです。
(以下、山写氏の発言要約)本日のメインテーマは山岳写真の講習ですが、どういったリスクがあるかを学び、安全に山岳写真が撮れるようについて一緒に考えていきましょう。
登山をしながら撮影する危険性について
山岳写真は一般登山プラス荷物を背負うので色々なリスクがある。
- 体中の筋肉を酷使するので → 腰や肩の腫れ
- 体への負担が大きいので → 転倒リスク(前から転倒しやすい)
- 汗を書きやすい → 低体温症
- パッキングの重量バランスが悪い(重いザックの上に置くので)→ 滑落リスク
荷物が重いので行動力が低下するので、写真撮影をすることでタイムスケジュールが圧迫される。
また、稜線付近は撮れ高がいいので日没まで居ることで、日没により視界不良に陥いり焦りから道迷いを誘発したり、低体温症から行動不能になる恐れがある。
登山写真は自己責任か?
「自己責任だから好きにさせろ」という人もいるが、山岳写真はあくまで登山なので、登山のマナーは絶対に守ること。そして、自己責任を全うするために自分でできることを考える。
- 勉強をする
- 山岳保険に加入する
- 経験者と一緒に山に入る
- 山岳ガイドに同行する
どんなときに救助を呼ぶか?
「時間通り自分で下りられないとき」「行動不能なとき」には救助を呼ぶ。
NHKの撮影などに同行した場合、ガイドは常に天気や状況を見て次の行動を示唆している。撮影に没頭しがちな撮影者は一般登山者よりも「時間が掛かる」「荷物は重い」「ルートから外れがち」など状況が見えてない。通常の山以上にリスクが多く見える。
撮影機材+15kgで変わる世界
一眼レフカメラと大三元レンズ、三脚を持つと15kg程の荷物が増える。そうするとどんなことが起こるか?
- 行動力が半減
- 故障リスクが上がる
- ザックを下ろすのがつらい
一般登山よりも体への負荷がかかり、15kgの撮影機材を背負って6時間の登山を行った場合、一般男性でプラス784kcalのカロリー消費をしてしまう。
初心者はどれぐらいの荷物を背負っていいか?
普通は(トータル重量)10kgに抑えて頂ければ・・・・・
となるとカメラは推奨できない?
そうですね(笑)
携行食について
カロリーを補填するものを採りましょう。サプリメントも大いに利用してください。登山者もランニング雑誌などを読んで、(美味しい山飯もいいけど)ランニングの理論を取り入れるのがオススメです。朝からガソリン満タンの状態でスタートして、常にちょこちょこ補給して切らさないのが基本です。
山岳写真は汗冷えリスクの塊
汗をかきやすい上に撮影でのストップ&ゴーを繰り返すので、体調不調、汗冷えを誘発しやすい。これは登山としては最悪な行動のひとつ。
低体温症とは?
一般的な体温は36.5℃。35℃になると震えが始まり、34℃になるとろれつが回らなくなり動きが鈍くなる。ここが限界で、これを過ぎると山ではもう回復しない。
36.5℃から1℃たりとも上げない、落とさないことが大原則。
35℃になってしまうと手が動かなくなり、服すら着られなくなる。稜線に出る前に着るなど事前に備えて行動すること(暑ければ脱げばいい)。
「低体温症になったらセルフレスキューはできません」
体温を下げないには「歩く」「食べる」「着る」。
finetrackのドライレイヤーを着て体を冷やさないこともひとつの対策。
ザックへのアクセスは減らそう
水筒だと吸水をサボリがちになるので、ハイドレーションを使うことをオススメ。行動食もチョークバッグやポーチなどにいれて、行動中にもすぐ手が届くようにしている。
吸水について
水分は脱水の7割以上取る必要があるので、30分に1回200mlの吸水を行うこと。それ以上は1度に飲んでも体内に吸収されずに出てしまう。
水だけでは吸収されないので、ハイドレーションとは別にスポーツドリンクにマルトデキストリンのパウダーを溶かしたものを飲むのがオススメ。マルトデキストリンはAmazon等で売ってるので、届いたらすぐに小さい袋で小分けにして冷蔵庫に保存。小分けしないとベトベトになる。
- 出版社/メーカー: H+Bライフサイエンス
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稜線で行動することと稜線に居続けることは全く違う
登山の際は強風の中(行動をせずに)外に居続けるようなことはあまりない。そこで、汗冷えを防ぎながら保温する必要がある。
ハードシェル+インサレーションがいいが、ハードシェルには透湿性などに弱点。そこで保温しながら透湿性も高い「ドラウトレイ」、行動と保温を両立してくれる。
山写氏が使用するfinetrackウェアについて
- スキンメッシュ/ドラウトフォース/ドラウトレイ/フロウラップ/ポリゴン4フーディ/フォトンジャケット(雨天時)
- ストームゴージュアルパインパンツ/フォトンンパンツ(雨天時)
5枚着るので空気の層ができて温かい。かつベンチレーションがあるので湿度のコントロールが可能。finetrack製品の特定のどれが良いとかでなく、システムが気に入ってる。
山岳写真に使いやすいシステム
足に長時間負荷がかかると、モートン病になることがある。
対策としてクッション性の高い厚手の靴下を履く → 「メリノスピンソックスEXP」
パッキングと歩き方について
上に重いものを置くことは登山のパッキングでは一般的にNG。しかしレンズを壊さないため、経験則からそのようなパッキングをしている。
遭難の原因ベスト3「道迷い」「転倒」「滑落」。撮影には全て当てはまってしまう…。下りはバランスを崩しやすいので、重量のあるものがザックの上にあると危険。このようなこと(パッキング)は止めましょう(笑)
山写氏による重量級ザック(30kg)の背負い方実演。片側のストラップだけを持って引き上げようとするとザックを壊す可能性があるので、両手を使い一度膝の上に持ち上げてから、肩を入れて立ち上がります(テキストだけでは説明不可?)。
撮影機材を入れたときの歩き方
疲労が蓄積しないように工夫して歩いている。
- ストックを使い前に体重を掛け、腕にも負荷をかける
- 足の中央で着地する(かかとで着地するとバランスを崩しやすい)
- 歩幅は狭く(普段の半分位)スローペースで歩く
足指先を伸ばし足首をロックしかかとごと持ち上げて母指球で下りるのが正しい山の歩き方。平地なら3歩で歩けるところを5歩で歩きましょう。
ストックは杖ではなくポール。ポールを使って三点支持をした歩き方を意識し、腕を動かさずポールを振るようにして先に着きます。
30kgを越えるような荷物を背負うならばアッパー/ソールの厚い/固い登山靴を使うのがオススメ(3.5〜5万円位)。
山岳写真に効果的な筋トレ
山のトレーニングは(毎日歩くより)山に行くしかないでの、週1日山に行きましょう。その他には、荷物を背負って坂道を上る。トレッドミルで傾斜を付けて走るなど。
セミナー後半は山岳写真の機材、撮影技術について
ここからカメラと写真(撮影方法)に関する内容になりますが、スライドや作例なしにレポートが難しいものが多いのと、私の理解が追いついてない部分は適切にまとめられない可能性もあるのでかなりザックリ。撮影技術などは山写氏のブログ記事がベースになっているトピックも多かったので、分かる範囲で当該記事へリンクを張っておきます。
一眼レフとミラーレス一眼
それぞれのメリットとデメリットを色々と解説。現時点で山写氏がオススメするのは? → ミラーレス一眼(まじかよ)
撮影アクセサリー
基本アクセサリをいろいろ紹介(レンズクリーナー、レンズペン、ブロワ、レリーズ等)。結露対策はレンズヒーター、フィルターはND/C-PL一種類ずつでステップアップリングで対応している(角形は割れるので山には基本持って行かない)。
カメラの携行方法
「肩で支える」「胸で支える」「ザックで支える」
山岳写真の撮り方
- 良い写真とは? → 自分が好きな写真
- 撮影技術は必要ないという前提で写真は楽しむもの
- (構図や露出など)ルールを守る必要もない
- 基本的には自由に撮ってもいいけど…
- なぜ撮影技術が必要なのか? → 好きな写真が撮れる可能性を上げるため
そのためのロジカルなアプローチ(センスは必要ない)
価値のある写真とは?(3つのベクトル)
- 文化・学術的価値
- 自己満足的価値
- 芸術的価値
(とても面白い話でしたが、詳細は割愛します)
絵・写真は価値観を変える
希少性=価値という考えもあるが、良いものは大量に作られても価値がある
日本の山岳写真には価値を変える潜在力がある?
1年を通しての景観美は世界最高峰。価値観を変えることができれば、日本の山岳写真にもワンチャンあるぞ?
山岳写真の構図
- 広角、標準、望遠
- 絞りの選び方
- 山岳写真で多様される構図
山岳写真の撮影技術
絞り優先、オートブラケットで手持ちの3連写(上下1段)(山行をしながら三脚を使わず素早く撮る場合の方法)
手振れしないカメラの構え方
押さえつけて止める
被写体の探し方
「奥行き」と「動き」、「明度差」と「色相差」
被写界深度とピントの取り方
目に付くもので一番手前にあるものにピントを合わせる
山岳写真のライティング
時間帯による構図と表現
夜の撮影について
一番よく知ってるフィールドであえてナイトハイクをして暗さの距離感に慣れましょう。そして夜の寒さを体験する。
ツェルトを積極的に使う:1分で出せて1分で仕舞えるか? ケースには入れず持っていく、積極的に使うというのはそういうこと。
疲れない歩行ペースの作り方
自分が出した計画通りに歩くのが疲れないペース。最大心拍数を上げずに歩くこと。会話しながら歩ける歩行ペースが目安。
ギアについて:SUNNTO SPARTAN
- 高度、気圧、日の出日の入り時間の確認
- ルートの確認(事前に入れたルート)
それにより的地までの到着時間の予測、現状の把握が可能になる。実際に歩いてみてコースタイムとの誤差を確認し、全体を予測する。
カメラと写真に関するオススメ書籍
こんな感じで90分… の予定が2時間に
その他にSUNNTOマーケティング担当者の方による宣伝タイム、ぱくたそ代表すしぱく氏による「ぱくたそと山岳写真」についての話などもあって、予定の90分を大きく越えて120分という非常に中身の濃いセミナーとなりました。
その後、山写氏への質問タイムの後、個別相談やフリータイムへ。実際に使っているザックや撮影機材を見たい人、直接質問したい人で山写氏は囲まれてしまいました。私は平川氏がガイド時に携行しているというファーストエイドキットについて見せて頂いたり、装備のアドバイスを受けることができ、こちらも大変勉強になりました。早速、諸々見直してまた本ブログにフィードバックすることができれば記事にするなりできればと思います。
改めまして、山写さん、平川さん、finetrackさん、関係者の皆さま、有意義なセミナーを開催していただきありがとうございました。そしてお疲れさまでした。