日銀は19日公表した「金融システムリポート」で、貸し出し競争が激化する中で地銀や信金の経営体力への懸念を示した。地銀が増やしてきた「ミドルリスク企業」向けの融資で、リスクに比べて金利が低い低採算の融資先が増えていると指摘。経済環境が反転した際に大幅な損失が出る恐れを試算で示した。金融危機の芽になりうる脆弱性をはらんでいる。
半年に1度公表する「金融システムリポート」で分析した。銀行界と問題意識を共有する狙いがあり、金融政策の判断材料にもなる。日銀は今回の報告で、地銀や信金などが近年増やしてきたミドルリスク企業向けの貸し出しを巡り、金融面の弱点が増していないかを点検した。
地銀のミドルリスク向け貸し出しの中で、企業の財務リスクに見合わない低い金利で貸している融資を低採算融資と定義している。こうした案件が少なくないと日銀はみている。低採算先貸し出しが中小企業向けの貸し出し全体に占める割合は25%(16年時点)。直近のボトムだった10年は17%だった。低採算先向けが占める割合が30~40%に達する銀行も2割ほどある。
財務基盤が弱い企業は内部資金が少ない。金利が低ければ借り入れたいという企業は多く、低採算先が膨らんだとみられる。金融機関がリスクを取った融資を増やしてきた一方で、金融機関が融資先の破綻に備えて積んでおく貸倒引当金などは過去最低水準になっている。景気の改善が長く続き、企業の倒産件数が減っているためだ。
ただ、景気は数年単位で循環する。ひとたび反転すれば「予想外の損失を被る可能性がある」と日銀は警鐘を鳴らす。
とりわけ地銀は大きな打撃を受ける可能性が高い。内外経済がリーマン危機時並みに悪化すると想定した自己資本耐久度検査では、自己資本率が安定性の目安となる8%を割り込む地銀は、調査対象の4分の1に達した。
貸倒引当金の引当率がリーマン危機時並みに上昇すれば、地銀の一部では、正常先の債権への追加引き当てのみでもコア業務純益の50%相当の信用コストが発生する可能性があるとの試算も示した。
今の良好な経済環境が続くと見込み、金融機関が低採算先の融資をさらに増やせば景気悪化や金利上昇などのショックで要注意先などが一気に増える可能性がある。金融システム全体にも影響を及ぼしかねない。