失礼な「働き方改革」法案

昨日、証明書類が必要になって北京にいる妹にお願いしました。すると1時間半後に「取ってきた」と言うのです。「今日は土曜日じゃないの?」と言うと「役所は土日もやっているのよ。兄さん知らなかったのね。」と言われました。

そう言えば、中国では銀行も土日営業しています。「日本の銀行は3時まで」と言うと中国人は目が点になります。夫婦が共に働く中国では、行政サービスや金融サービスは仕事時間外に受けるのが当たり前です。

日本の国会で大騒ぎしている働き方改革法案。この話を聞くたびに不快になるのはなぜ個人の働き方を法律で決めてもらわないといけないのかと思うからです。与党と経営者団体がやるべきことは社員が働き方を決める権利を尊重することです。自由な労働市場に基づきより良いサービスを規制緩和と経営改革を通じて実現することです。働き方は生き方の重要な部分であるため、法律で働き方を決めることは生き方を法律化するようなものです。

夕方や土日にも住民サービスを受けることは、公務員や民間人の総労働時間を増やさずに実現することが可能です。しかし、社員がいくら働き方を変えてもしょせん、規制と経営の下で行われた「戦闘行為」です。兵隊がいくら勇敢に犠牲を払っても大本営と司令達が改革を拒否すれば無駄死にが増えるだけです。

実は働く社員の一人一人は必死です。自分の家族を守るために少しでも収入を改善しようと時計の針を見ながら残業代を計算する父親の姿が目に浮かびます。しかし、彼らは兼業できない、転職しにくいから、一つの会社に媚びを売って忖度し、他に通用しない社畜に成り下がるしかないのです。だから安い残業代を狙って、少しでも収入が良くなるように頑張っています。

本当のことを言えば、彼らが好きなだけ兼業できるならば、何も同じ会社でわずかな残業代を稼ぐ必要はないのです。正々堂々と他のところで気分転換しながら勉強しながら稼げばいいのです。しかし、政権のために働き方改革を宣伝する大手マスコミのサラリーマンに聞いてみれば分かるように、兼業を許す大手マスコミがどこにありますか。規定上できても運用上不可能にしている大手も出てきましたが、正規と非正規労働の格差がこれだけ大きくなれば、非正規に成り下がらないように、必死に忖度しないサラリーマンはいないのです。

結局、働き方改革は社員を楽にする法案ではなく、経営者を楽にする法案なのです。そして当局や経営者側に立つ既得権益者たちがその法案に「働き方改革」という失礼なタイトルをつけて国会で通そうとするのです。先日、データ不正との理由でこの法案の通過を放棄された時に、経営団体の代表たちはこぞって残念を表明したことが象徴的でした。働き手のためのものであれば、労働者たちが反対するはずです。この法案は羊の頭を掲げて犬の肉を売る法案なのです。

私は左翼と思われるかもしれませんが、間違いなく保守なのです。現役の時から自由経済と経営改革を信じて止まない経営者でした。私は日本で最初に残業を制限した経営者だったかもしれません。サービス残業を最も早く厳しく批判した経営者だったと思います。

本当の進歩は社員の労働強度を減らしながら、収入を維持することです。あるいは同じ労働強度を維持しながら、社員の収入を上げることです。「週休7日が幸せか」と過労死遺族に問い詰める飲食産業の経営者議員。これは「働き方改革」の本質を象徴する一幕です。週休7日を求める日本の社員を見たことはありませんが、構造改革と経営改革が遅れているくせに毎日社員に勤勉と頑張りを求める経営者を私はたくさん知っています。

同じ飲食産業でも先日深センで社員が楽になって顧客が満足する風景を見ました。着席するとウェーターがやってきてテーブルに置いてある二次元バーコードを指して「ご注文はこちらからどうぞ。」と言った後、20分間の砂時計をひっくり返して「上の砂がなくなるまで食事が揃わない場合、食事が無料になります。」と言って去りました。

二次元バーコードを携帯でスキャンして写真付きのメニューから食事を注文し、食事後にそのまま携帯で支払うのです。注文取りなし、レジなしです。社員がやることはクレーム処理や老人や子供の手伝いです。

この現場から分かるように、規制緩和を通じて金融改革をした上、経営者が技術投資と経営改革を敢行しない限り、上述のようなサービスは出現しません。「週休7日が幸せか」という誰も望んでいない仮説を立てる暇と、「働き方改革」を法制化する暇があるなら、自分たちの改革に早く着手したほうが自他ともに良くなりますよ。
この記事へのコメント
面白く読みました

私も働き方改革に疑問を持っています
我が会社でも、上司に合わせて、会議禁止など改悪案が進んでいます

一定の時間で終わらない業務の質や原因を問う意識が低いのに、日本人のダメさを感じます

まさに、法律で決めて欲しくない内容ですね
Posted by 浅野嘉名 at 2018年04月20日 08:33
私が1981年に職場配属になった当日、つまり社会人第一日目に感じたことをそのままご指摘頂いたようで驚きました。
Posted by 江川 彰彦 at 2018年04月20日 08:37
働くのは、ボランティア活動と違い経済価値を生み出さなければなりません。 誰が経済価値を生み出すのを企画しているかです。
①企画者で複数の人手が必要な事を企画した:経営者
②自分だけで出来ることを企画した:個人事業
③他人が企画したことの為に手足になって働く:通常のサラリーマン(このなれの果てが大企業の経営者で良いのか、東芝の種は尽きません。
①は社員の生活を保障するので、責任を伴います。
②は、一番気楽で縛られない、スマホさえあれば何処でもオフィースです。
③は、働くというとこがこの範疇で分配論に日本の場合なります。でも自分の労働がお金になるかは、他人任せなので、気楽な職業です。
現在71歳で3社ばかり請負営業で適当に稼いでますが、義務がなく権利だけの②が増えていくのが本当の意味での働き方改革では、と思います。
Posted by 石井 洋二 at 2018年04月20日 08:45
宋さん

いつも拝読しています。

今回はよくぞ言ってくれました、と思うと同時にどうして国内でこのような声が大きくならないかを考えさせれたました。




Posted by amleth at 2018年04月20日 08:49
もう…拍手です。 その通りだと思います。
人間というものがわかってない人達が、今のこの国の上部にいる。 こんな口だけ巧みな権力者達を、ここまで放置しておく私たち国民を、どうしたらいいのかと思います。  やはり、繰り返し、今の教育の在り方を問いたいです。
Posted by 末永美枝子 at 2018年04月20日 09:14
いつも拝見させていただいています。

毎回、前向きなご意見に納得するとともに、なぜ日本は このようなまっとうな意見が論議のテーブルにすら載らないのか?極めて残念です。

なぜ日本人は ここまで内向きなのでしょう?
〇務省のセクハラや××学園問題等、この国の未来を優先していない日本のトップの方々のダメさ加減に見せられると、若い人たちが将来への希望を持てなくなると、子を持つ親として、非常に悲しくなります。

予備知識がある訳でも、その関係者でもありませんが、現在は 問題を世に問う(例えば署名活動を募る)ネットの活動もあるようですし、そちらに公表していくのはいかがでしょう?
(宋さんにご迷惑がかからぬよう、厳重な注意が必要ですが)

私自身、公私ともに問題を抱えており、日々疲れ切っている身ではありますが、子供たちの為に、何かしたい気持ちはあります。




Posted by 新潟の通称ボーズ at 2018年04月20日 09:28
いつも有難うございます。

この件、たまには私もスパークしようと
思います。働き方改革、出て来る題材の
相当数、体を張って提供したつもりです。

早朝出勤して語学学習をして、事務処理
をこなし、月末金曜午後は何か訪問先を
作って気分転換していました。4年前の
ことです。あれ??、プレミアム何とか、
とか、早朝語学学習ブームとか?
既視感ありありですが、笑

結果、私はその会社をリストラに遭い、
再就職先はいわゆる火事場泥棒、不正会計
在庫処理で知る人ぞ知る会社、、頭に来た
ので海外への再就職活動をしながら国内で
自営をしています。

やっていたことをネタに使うだけで、何も
報酬も成果も与えない社会はさっさと
見切った方が子孫のためだろうと思って
いますが、さすがに見る人はちゃんと見て
いるようで、政権が落ち目になると同時に
前向きな話が色々来るようになりました。
ですので、この経緯・文脈をきちんと記録
と記憶に残して次段階に進もうと考えて
います。

「働き方改革」とは、改革と名付けて
ネタにだけ使う、古今東西、権力者の
"常套"手段にすぎません。
"上等"じゃありませんか(^^;)。

犯人はどこか、もう一目瞭然ですね(笑)。

(注)既に、次に繋がろうとしている
状況ですので、毒を吐くのはこれくらい
にして今回だけはご容赦下さいませm(__)m
Posted by sparerib at 2018年04月20日 09:42
生産性向上や新事業育成こそ「経営者の仕事」であって、従業員の自転車をもっと漕がせる議論ではありません。「働かせ方改革」も本質は賃金カット以外の何者でもないからこそ、法案提出が流れた時に経営者団体ががっかりしたわけです。
賃金カットしか知恵のない経営者を入れ替えない限り、日本経済の浮上はあり得ません。そこをなんとかする知恵を出さねば・・・
Posted by Hiro at 2018年04月20日 09:46
某野党も、「1日8時間働いたら普通に暮らせる世の中を」と言い放っています。悲しい。なぜ8時間なのか。。。
強制しなければ社員は自律的に成果を上げることが実証されています。それができないのは経営者が社員を信じていないから。成果を上げられない社員がいたときにどうするべきかということを考えないから。全てについて計画をたてられないから。(考えたくない? 考える能力がない?)
Posted by Best Field at 2018年04月20日 09:47
宋さん
お早うございます。
今回のコラムは「う~ん」とうなりました。
理にかなっているのです。

宋さんの言う通りであれば「就職活動」もその規制も糞くらえですね。

まるで日本って、帝国主義×社会主義ですね…?
Posted by 沼田一博 at 2018年04月20日 09:56
そろそろクールビズの季節ですが、服装にせよ働き方にせよ、お上からのお達しがなければ変われないのは国民の意識が真の意味で成熟していないからだと感じます。
義務教育課程では従順たることばかりを求められ、それが世界に誇る日本の美徳であるかのようにテレビでも繰り返し喧伝されてほとんどの人は疑問にさえ思わないばかりか、少数派意見を主張することを「イタイ」ことだと考えています。
そしてそうした至極当然の違和感や疑問を呈する人たちを「左翼」のひと言で片づけるのが今のネット社会です。

シンセンの飲食店のお話も、行政サービスも素晴らしいですね。
ぜひ「日本すごい番組」の信者の方々にも見ていただきたい内容です。
Posted by 働き方より政権改革 at 2018年04月20日 09:58
「働き方改革」は、”改悪”になるでしょうね。日本の終身雇用制がもてはやされた時期も一時はありましたが、これは間違いで、低賃金・長時間労働の根源でしょう。
私も、転職したときに色々考えましたが、終身一つの会社にしか働かない人は、社会に対する犯罪ではないかと思いましたね。
話は違いますが、私は、将来の社会はロボットが働いて、人間は働かないでも過ごせる社会になって、最低の収入保障を受けられる様になって欲しいと思います。古代ローマ時代の奴隷がロボットになり市民が遊んでいても過ごせる社会は理想でしょうね。(働きたい人は一生懸命に働けばいいのです。)
最も、今の中国はこの様な社会なっているのでしょうか。共産党員が金持ちになってその他の国民が大変な暮らしをしている社会に見えますが。
Posted by 旧旧車 at 2018年04月20日 10:00
ルールを守る・マナーのある日本人だからだと思います。
ただ、昔から人の意見に左右され、うのみにする点は、変わってほしいです。

Posted by まりん at 2018年04月20日 10:14
宋さん

宋さんご指摘の通りです。今回のご意見、全面的に支持!!

いわゆる経団連に象徴される日本の旧態依然とした経営者は限りなく国家社会的なメンタリティで政官財の癒着を前提とした集団な気がします。

表向きは資本主義・自由主義を建前としつつも、既存ビジネス保護、既得権保護の村社会であり、国家社会主義的な側面が強いと思いますね。

バブル崩壊後の失われた30年に苦しむのも当然であり自業自得かと。

過去からのシガラミをぶち壊す必要があると思っています。
Posted by red thong at 2018年04月20日 11:22
全く同感です。働き方を法律で決めるなんてナンセンスです。本当の改革は外枠の時間規制でなく仕事内容の改革と労働流動性の向上でしょうね。
Posted by 佐藤 潔 at 2018年04月20日 12:54
興味深く拝読しました。中国の銀行は土日営業が当たり前、とは、恥ずかしながら初耳でした。今回の法案は、働く人のためになっていないのではないかと思っていましたが、その通りだったようです。首相があまりに熱心でしたから。
Posted by A生 at 2018年04月20日 13:04
宋さん

いつもお世話になります。
毎回メルマガを拝読させていただいております。

先に宣言しておきますが、私は勉学においても政治においても何の知識もなく、今回コメントしますが内容や言葉に誤りがあるかもしれませんが、ご容赦ください。

宋さんのことはテレビで左翼と言われているのをお見かけしたことがあります。また、実際にメール内で、よく「左翼ではない、保守」だと記載されておりますが、読めば読むほど私にも左翼に見えています。
もしかしたらビジネス上のメルマガで一部の人を、洗脳しようとしているのではないかとさえ思っています。笑うでしょうね。

大変な無礼を記載しましたが、今回の働き方改革に関しましては、全く同意見です。

これは左翼や右翼ではなく、価値観や倫理観の問題だと思います。

「週休7日が幸せか」には衝撃でした。

先日まで国会で議論されていたみなし残業に関わるデータ不正においては、安部首相が「働き方改革」を提唱する代わりに経団連から絶対にみなし残業を通すように言われたのではないかとすら思いました。

私は共働きであり4歳の子供もおります。まだまだ子供も風邪をひいたり、肺炎になったりと落ち着かず、子供のために休暇を使うのみで有給休暇は毎年ぎりぎり。何とか過ごせる範囲で残業と土日出勤で消化としていただいこともあります。

日本の役所は本当に効率が悪いと感じました。保育園に出す書類に毎年同じことを記載した書類を提出する必要がありますが、郵送ではなく、役所に提出という何とも保育園に求めることとは思えない謎の仕組みです。

また、金曜19時まで開庁とされていますがなぜか、書類提出は17時までしかできないとのことです。

私はたまたま家と会社が近くにあり、上司に許可をもらいダッシュで用事を済ませていますが、世の母は大変だなと痛感しております。
銀行も同様です。

働き方改革をする前に、庶民に密着した改革を行わない限り、日本は新しい時代を迎えれず、世界からどんどん引き離されていくと思います。

これからも左翼の人だと思うと思いますがメルマガは読ませていただき、いろいろな考え方を勉強させていただきます。

乱文・乱筆失礼いたしました。
Posted by ゆみさん at 2018年04月20日 15:28
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