【パームビーチ=島田学】安倍晋三首相が米フロリダ州でトランプ米大統領と過ごした時間は、17、18両日で10時間を超えた。首相にとって今回の会談の最大の目的はトランプ氏との蜜月関係の演出だった。中国や北朝鮮に付け入る隙を与えると北朝鮮問題にも波及しかねないためだ。その意味で通商問題で立場の違いはあったものの、一定の成果を収めたといえる。
「世界中の多くの首脳たちがこのパームビーチの『マール・ア・ラーゴ』に来たがる」。トランプ米大統領は安倍晋三首相との初日の会談の冒頭、昨年に続き2度も首相を自分の別荘に招いたのは、異例の厚遇だと切り出した。
両首脳は会談後の共同記者会見でも「安倍氏はこの1年、北朝鮮対応で私たちを力強く支援してくれた。私はあなたと共にある」(トランプ氏)、「友情と信頼関係をさらに深めることができた2日間だった」(首相)と言葉を掛け合った。
2人には共通の課題がある。トランプ氏は11月に米中間選挙を控え、首相は秋の自民党総裁選で3選がかかる。日本側は中間選挙向けにトランプ氏が通商問題で要求してくるのは織り込み済み。
日本経済への打撃を小さくするよう知恵を絞った。首相とトランプ氏が合意した通商を巡る新たな協議の枠組みはその代表例だ。
首相が会談以上に重視したのがトランプ氏とのゴルフだ。政局や政策の判断で気分が左右するとみられているトランプ氏が今回の会談でこだわったのが首相とのゴルフだったからだ。
首相はゴルフのスコアカードとともに、提案のキーワードとなる英単語や鍵となる統計の数字を書き込んだ「カンニングペーパー」(首相周辺)をポケットに忍ばせ、ゴルフに臨んだ。
18日の共同記者会見で、トランプ氏は拉致問題について「拉致被害者が帰国できるよう最大限努力する」と明言。「2国間の貿易協定が望ましい」と述べたが、トランプ氏自身の口から「日米自由貿易協定(FTA)」という言葉が発せられることはなかった。
政治家の会談で注目される一つは時間だ。相性が合わない政治家の会合時間は短くなる傾向にある。首脳同士も同様だ。長時間の会談は第三者の臆測をかき立てる。今回だと中国や北朝鮮。首相とトランプ氏が過ごした時間が2日間にわたり合計10時間超になったのは、首相の狙い通りだった。
首相は国内で学校法人「森友学園」や同「加計学園」を巡る問題など相次ぐ不祥事で内閣支持率が低下。党総裁選での3選を疑う声もささやかれる。首相周辺は「訪米後は支持率も回復してくるはずだ」と楽観的だ。
これまでは内政の失点を外交で挽回する循環があった。ただし、今回の首脳会談の評価は、北朝鮮への対応であれば、6月にも開く米朝首脳会談の結果をみるまで判断できない。
国内は福田淳一財務次官の辞任など不祥事の幕引きには、ほど遠い状況だ。トランプ氏との蜜月の演出が首相の求心力低下の歯止めになるのか否か。その成果は帰国後、早速わかる。