数年前、マイナンバーの通知が届いて、杉松が小部屋まで持ってきてくれた。なぜかセツシも一緒にピャーッと走ってきた。
「ネコにはないよ!」
即座に言われていた。その通りだと思った。ネコにマイナンバーはない。ネコは国民ではないからである。あの家に住んでいた七体の生き物のうち、マイナンバーを受け取る資格があるのは二体だけであり、残りの五体にマイナンバーは与えられない。
そのかわり、ネコには税金を払う義務もない。源泉徴収もない。ネコの拾ってきた石ころ、草、昆虫などは、そのままネコのふところに入る。国はその一部を取ろうとしない。そう考えると、ネコというのはさすがに、いいご身分である。
むかし、初音とセツシが二匹でがんばって縁側にいた蛾をつかまえようとしており、最終的にはセツシが仕留めて自慢げにいじくっていたことがあったが、国は知らんぷりである。あれの一割をほしがらない。我が国の財政が厳しいことを考えると、これは非常にもったいないことである。ネコの収入の一割でも国庫におさめることができれば、状況は違ってくるんじゃないか。
所得税だろうが、消費税だろうが、ネコは見事に税の網の目をくぐりぬける。そして、きんたま丸出しで耳をかく。これは本当に、いいご身分である。やはり、税金の無縁の存在だからこそ、床に寝転がって腹を丸出しにしてゴロゴロと転がったりするんだろうか。
すこし前に、私は確定申告の作業を終えたが、ああいう作業をしていると眉間のあたりがグーッと加熱してきて、とても腹丸出しでゴロゴロ転がる気になれない。あるいは、現実逃避として腹丸出しでゴロゴロ転がりたくなる。しかしネコは現実逃避としてゴロゴロ転がっているわけではなく、ありのままの現実としてゴロゴロ転がっている。この差は大きい。
そういえば私も、無職の居候としてかぎりなく税金から遠い位置にある日々を送っていたときは、床でゴロゴロしていた気がする。めくれたTシャツから腹だって出ていた。丸出しではなかったぶん、ネコには劣るか。きんたまもしまっていたし。