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第513話 号令
―――水燕三番艦
クロメルの待つ方舟、戦艦エルピスは非常に低い位置にて滞空しているらしい。らしいと言い回しが婉曲な表現なのは、俺達が乗る水燕が未だ海の底にて、消音化しながら潜水中だからだ。要は、俺が直接目にした訳ではない。では、その情報源は? というと―――
『ん、水竜王がそう言ってる』
『なるほどな…… うん、大体の位置は分かった。今シュトラとコレットが即席の地図を作ってるから、完成次第複製してクロトに転送させるよ』
『役立てて何より。水竜王も喜んでる』
『ええと、直接お礼を言うのはまだ無理っぽいか?』
『ん、恥ずかしくて死ぬらしい』
『そ、そうか……』
と、この通り水竜王が海の生物達から情報を収集して、海上の状況をリアルタイムで教えてくれたのだ。人見知り過ぎるメンタル面は兎も角として、流石は海の王。その能力は計り知れないものがある。クロトを伝った念話でさえも、シルヴィアやエマを間に挟まないとできない。そんな恥ずかしがり屋さんではあるけれど、やっぱり偉大なのだ……!
「できたー! うん、なかなかの出来!」
「え、もう!? いくら何でも早過ぎないか? まだ数分も経ってないぞ?」
「私とシュトラちゃんが2人掛かりで製作したのです。これでも丁寧に仕事をしたつもりですから、精度はご安心を」
「むう、確かに凄まじく精巧な地図じゃな……」
2人に作ってもらっていたのは、クロトが配下ネットワークにアップした水竜王の情報を、海上と海底の2種類に関連させた地図だ。船を動かしてくれるのはあくまでもトラージの船員達、彼らに具体的かつ詳細な情報が伝わるよう、今回はこの地図を使って船を動かしてもらう。
「クロト、全部の船にこの地図を『複製』して送ってくれ」
俺の肩に乗るクロトが、手渡した地図をモグモグと食べるようにして保管に入れる。これでクロトの分身体が、他の船にも同様の地図を渡してくれるだろう。っと、もう地図を戻してくれた。早いな、送信完了したのか。
「へ~、クロちゃんが新しく覚えた複製のスキル、こうやるんだ~」
スキル発動中のクロトを、シュトラが興味津々な様子で見詰める。気のせいか、注目されるクロトは恥ずかしそうだ。
クロトが新たに会得したこの複製スキルは、対象のアイテムを魔力を消費してそっくりそのまま同じものを作り出すというものだ。まあ、名前のまんまだな。クロト曰く、紙とインクで作った地図のようなものであれば容易に何枚でも、逆に構造が複雑であったり、単純に価値の高いものであるほどに複製はし辛いんだそうだ。俺達が使用する武具とかであれば、それこそ立て続けにスキルを行使して数ヶ月レベルになるとの事。まあそれだけ聞くと扱い辛そうにも感じられるが、そこは使い方次第だ。クロトの持つ『分裂』と『保管』を複合すれば、こんなコピー機&受信機な活躍もできたりする。
「前々から思っていましたが、クロト様は陰ながら途轍もない働きをされていますよね」
「それは日頃から俺達も思ってるけど、やっぱコレットやシュトラから見てもそうなのか?」
「うんうん。高価なマジックアイテムを使って映像音声の伝達をしたりは私達もするけど、あれってお互いに同じマジックアイテムがないと使えないし、色々と制限が多いもん」
「能力の特性上、同じ召喚術を使う私よりも融通も利きますし」
「正直、今までの兵学が覆っちゃうと思うな」
「あと暑い日とか、クロトがベッドになってくれると涼しいわよね!」
我らが頭脳明晰チームのシュトラ、コレット、セラに立て続けに褒められ、クロトはどこか誇らしげだ。いつもより体の震えが多い。だけどセラ、お前が最後に褒めたところは方向性が何か違うと思う。つうか、ベッドになってくれたのか、クロト。うーん、ウォーターベッドみたいな感じ、なのか? よし、今度試させてもらおう。
「それじゃ船長、この船は3番艦なんで、ここを目指してください」
「了解しました。トラージ艦隊の底力、奴らに見せてやりましょう!」
この地図には各水燕の番号をふっていて、そこが戦闘の際の布陣となるようになっている。エフィル達の料理のお蔭もあってか、船員達の士気は頗る高い。この調子であれば、予定通りの位置に船を微調整して陣取ってくれるだろう。
後は召喚術を使って、仲間達を各船に移動させれば準備完了…… なんだけど、その前に。ゴホンゴホン。
「皆、これが俺達の戦いの1つと区切りとも呼べる、最後の戦いだ。敵はメルフィーナの憎悪が生み出した堕天使クロメルと、その使徒の残党。今まで経験した戦いの中でも、一番の激戦になると思う。間違いなく、最強最大の敵だろう。だけど、俺達は積み重ねてきた。クロメルを打倒する努力と、それを成し遂げる為の力を! 俺が指示する事は至極単純だ。敵をぶっ飛ばして、生きて帰って来い! 俺がこんなくさい台詞を言ってんだ。できるよな!?」
「できます。ご主人様の下に、私は必ず帰ります」
「姫様を助けるは王の仕事。ならばワシは、王の剣となり、欲張って盾にもなりましょうぞ!」
「メルがいないと、食事の時間が寂しいものね。私もあの芸術的なおかわりをまた見たいし、いっちょ取り戻してやりますか!」
「皆やる気満々だ。僕達も負けていられないね、アレックス?」
「ガウッ!」
「トライセンだって無関係じゃないもん。私もトリスタンをぶっ飛ばーす!」
「あはは、それじゃお姉さんも一肌脱がせてもらおうかな? 首を持ち帰るのは控えるけど、まあ敵次第って事で」
「へっ! 兄貴や姐さん方に、何よりもプリティアちゃんに俺の勇姿を見せる良い機会だぜ!」
「消耗したエネルギーは糖分で補給。私が一番活躍して、ご褒美は特製ケーキ。うん、良い計画だ」
「お、おでだって竜の王様だ。ダハクにも、ムドファラクにも負けない……!」
「私も微力ながら、皆様を全力でお支え致します。この身はメルフィーナに捧げたもの、本日幾度吐く事になろうと、私は一向に構いません!」
俺の号令に合わせて、皆が声を張り上げる。一部活躍を控えてほしい発言もありはしたが、全員が全員、本気でこの戦いに臨んでくれている事が痛いほど感じられた。ああ、俺は本当に良い仲間達を持ったんだな……
その後、仲間達は再召喚で別の船に向かったり、装備の再確認をするなど思い思いの行動に移った。これら全ての行動が俺達の勝利に繋がるのだと、俺は信じている。
そんな風に再びくさい台詞を心の中で呟いていると、シュトラがとてとてと可愛らしい足音を鳴らしながら、俺に寄って来た。ニコニコと何だか嬉しそうだけど、冷やかしたいといった悪戯心もありそうな子供特有の表情だ。
「ケルヴィンお兄ちゃん、私が台詞を考えなくても大丈夫だったね。これなら出港式も全然問題なかったのに」
「今は身内ばかりだから別なの。それよりもシュトラ、トリスタンをぶっ飛ばすんだって? 俺がぶっ飛ばしちゃ駄目?」
「もう、お兄ちゃんには特大級の相手がいるじゃない。欲張り過ぎるのは良くないよ?」
「なぬうっ!? どうしよう王よ! ワシ、さっき欲張っちゃったぞい!」
唐突に俺とシュトラの会話に割り込んでくる魔王鎧。お前、さっきボガと一緒に別の船に行かなかったっけ? 仮孫案件だから百歩譲って割り込みはオーケーとしても、念話でよくない?
「ジェラール、少し自重を覚えようか」
「お兄ちゃんもね♪」
「「む、むう……」」
ともあれ、いよいよ船は浮上する。さあ、戦いの時間だぞ、クロメル!
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