「文化庁が、文化に関する施策を推進する総合的な役所になり、京都に移転することに反対はしません。ただ、京都には独特の、文化を“身内”で抱え込み、ヨソ者を排除するような風土と、それを構成する人脈がある。それは修正すべきではないでしょうか」
こう苦言を呈するのは、文化行政に詳しい民進党の大島九州男参院議員である。
文化庁の京都移転法案(文部科学省設置法の一部を改正する法律案)が、今国会で審議される。既に法案は今年2月に閣議決定され、10月1日の施行が決まっているが、大島議員は「京都独特」の問題を指摘、その実例として、3月29日と4月9日、参院文教科学委員会で日本漢字能力検定協会(漢検)問題を軸に切り込んだ。
漢検は、2009年、創設者の大久保昇理事長(当時)と息子の浩副理事長(同)が、公益法人である協会の資金を不正に流用したとして、逮捕、起訴され事件化した。ただ、既に9年近い歳月が経過、事件は記憶の彼方となり、漢検といえば年末催事の「今年の漢字」を思い浮かべる人が多いだろう。
しかし、事件を誘因した根深い構図はそのままだ。大島議員が指摘したのは、事件を機に体制が変わった漢検で、パワハラを苦に退職した元幹部職員の自殺が起こったこと。京都市による法外な漢検資金利用。そして漢検に関与する京都の名士たちの複雑な人間模様である。
漢検が今も抱える問題を検証してみたい。
漢検に、不正流用を指摘されるほど豊かな資金があったのは事実である。大久保父子排除後は、日弁連元会長の鬼追明夫弁護士が理事長となったものの、その鬼追氏を送り込んだはずの池坊保子代議士が、鬼追氏に代わって理事長に座るなど混乱が続いた。その課程で、権力闘争をつぶさに見ていた幹部職員が、退職勧奨を受けて辞職。その際、「私が見聞したことを口外しません」という念書の提出を強要されたという。
「その方は、理事たちの権力闘争のなかで、漢検の社風、文化、運営方法を全否定され、どちらにつくかといった踏み絵を強要されたことに強い憤りを持ち、その後、自殺されました。森友学園問題で公文書の改ざんを要求され、プライドを傷つけられて自死した近畿財務局の方と同じ。弱い者にシワ寄せがくるような社会、システムは許されません」(大島議員)
事件当時、漢検の総資産は70億円と算定され、「事件の背景はその争奪戦」(京都政界関係者)といわれた。その象徴が、漢検本部と漢検ミュージアム(博物館・図書館)が入居する建物である。
「東山区祇園の弥栄中学校跡地に建っていますが、借地権も保証金も家賃もすこぶる高く、相場の2倍から3倍です。しかも校舎の有効活用が本来の趣旨なのに、漢検の場合は改築資金が23億6000万円と巨額で、他の校舎では京都市が負担した例もあるのに、ここは全額、漢検の負担。誰が、どんな意図でこんな計画を立てたか不明ですが、漢検資金を狙ったことは間違いない」(同)
60年の定期借地で借地権料は2億6100万円。家賃は年間7835万円で保証金は3億円である。確かに高い。
京都におけるこうした計画の実務者は、京都の表裏を知り尽くした人物であることが多い。ここで、その役割を担ったのは、漢検専務理事の可児達志氏とその右腕的存在の足立健司氏である。
「可児さんは公明党の市議を6期務め、市会副議長を経て03年に引退。その後、創価学会員ではない唯一の公明党代議士となった池坊さんの選挙参謀となって信頼を得、それで池坊さんが漢検に引っ張った。足立さんは、裏千家の千玄室さんの秘書を経て代議士秘書を務めた。幾つもの財団に関与、行政の動かし方を知っています」(京都市元幹部)