※本稿はメタモル出版ウェブサイトに掲載されていた成田祟信さんの連載「管理栄養士パパのみんなの食と健康の話」を再掲載にあたり、新たにご執筆いただいた記事です
最近、グルテンフリーという言葉をよく耳にするようになってきました。体質改善や減量、美肌など様々な効果があるとされ、テレビや雑誌などでも盛んに紹介されているようです。グルテンフリーをうたった商品やレシピも増えてきているようですが、噂通りの健康によい食事法なのでしょうか?
そもそも、グルテンフリーダイエットとは、どのようなものなのでしょうか。
グルテンは主に小麦や大麦などに含まれているタンパク質で、小麦に水と塩を加えてねったときの粘りの正体です。日本の伝統的な食品であるお麩も、小麦粉のグルテンを利用して独特の食感をつくりだしたものです。
食事に含まれているグルテンを食べると、体内で消化吸収され、アミノ酸として代謝されるのですが、セリアック病というグルテンに対して過剰な免疫反応をしてしまう人が、グルテンを含む食事をすると、小腸の粘膜で異物と判断されて免疫細胞が過剰に応答し、小腸で炎症反応が起こり、消化不良による下痢や、栄養不足を引き起こします。
グルテンフリーダイエットは、セリアック病の人が食事を安全にできるよう考えられた、グルテンを除去した食事のことをいいます。ちなみにここで述べている「ダイエット」という言葉は食事療法という意味で、日常使われている「減量」のことではありません。
このところ、セリアック病の人が食べる除去食としてのグルテンフリー食ではなく、健康や美容目的のグルテンフリーが流行っているようですが、体に良いという根拠自体があやふやで、そればかりか健康を損ねてしまうおそれがあるのは意外と知られていないようです。グルテンフリーダイエットが健康に良いという主張を検証してみましょう。
食欲を増進させるグルテンを除去すると痩せられる
→ウソ
ずいぶん昔にグルテンの分解物が体内で麻薬のように働き、グルテン中毒のような症状を誘発するという説が流れたことがあります。しかし現在この説は完全に否定されていますし、特別な食欲増進効果はありません。
最近では、低インスリンダイエットに関係し、グルテンは血糖値を上げやすいので、小麦を使ったパンや麺類を食べると食後高血糖を起こし、インスリンが過剰に分泌され脂肪をため込みやすい体になる、という説明もあるようですが、これもデタラメです。グルテンは消化されにくい成分ですので、グルテンが多い食品の方が、糖質の吸収は緩やかになることが確かめられています。
吹き出物を防ぎ、美肌効果がある
→ウソ
健康な人が、グルテンが原因で吹き出物や肌荒れを起こすという信頼性の高い報告はありません。はじめに説明したセリアック病の症状を説明しているだけであることが多く、一般の人が気にする必要はありません。
原因不明な子どものイライラや下痢などはグルテンが原因
→ほぼウソ
セリアック病の人であればそうした症状が現れることも考えられますが、セリアック病のことがよく知られたアメリカでも、症状のある人は3000人に1人くらいであると報告されています。日本人の有病率は不明ですが、子どものイライラや下痢だけでグルテンが犯人であると疑うのは全く妥当性がありません。セリアック病の診断には、血液検査だけでなく、症状がある人へ除去食を行い、体調変化を見た後、専門医によるグルテン負荷試験を経て行われます。確定診断には、小腸の細胞診が必要ともされ、専門医でない人が簡単に判断できるものではありません。
血液検査でIgG抗体を調べてグルテン除去食をすすめるクリニックもあるようですが、推奨されている方法ではありませんので気をつけて下さい。
健康な人へのメリットはなさそうなグルテンフリーダイエットですが、厳密に行う場合や、成長期の子どもに食べさせる時にはデメリットは確実にあるのでより注意が必要です。
グルテンフリー食を一般向けに紹介することの一番の問題は、美味しいものを食べる機会を減らしたり、食品の選択肢を減らしてしまうことです。グルテンフリーダイエットのデメリットを知ったうえで、大人が自分の意思で行う場合は別ですが、成長期の子どもに対して意味のない除去食をすすめないようにしましょう。また、グルテンフリーダイエットを興味本意でメディアが記事にするのも、意味のない健康法を広げてしまう一因となっています。
実際に、グルテンフリーダイエットが広まっているアメリカやヨーロッパなどの調査によると、グルテンフリー食を続けている人ではそうでない人に比べ、2型糖尿病や心疾患のリスクを上げる可能性が指摘されはじめています。食事療法の必要がない人が行うのはお勧めできません。
グルテンフリーダイエットもそうですが、特定の食べものを悪ものにするような食事法には要注意です。健康の基本は様々な地域でとれる色々な食べものをまんべんなく、ほどほどに食べることである、ということを忘れないようにしましょうね。