演劇や放送、ダンス、その他あらゆるパフォーマンス・アートと同様、大舞台のDJブースへの道のりも、一部の恵まれた立場の人たちにとっては簡単な所業となりつつある。新人パフォーマーの薄いメッキを剥がすと、そこにはショウビズの世界で活躍する両親や、億万長者のスポンサーの影が見えることや、当の本人がそのまんま社会的なエリートであるというケースが実に多い。
その背景には、プロのDJになることや、エレクトロニック・ミュージックのアーティストになるためのコストがうなぎ登りで庶民の手の届かない世界に向かっているという事情がある。誰にも負けない情熱を持っていることは重要でなくなり、高価な機材や、VIPエリアの収益、ソーシャル・メディアのフォロワー数、イビザでの出演経験、ラスベガスでの露出といったことの方が全てを左右するようになってきているからだ。
ヴィンテージのヴァイナル・コレクションや高級機材を見せびらかす新たな富裕マニア層も台頭してきた。実際には、ヴィンテージ機材が同じヴォーカルをより魂揺さぶるものにすることなんてないし、12インチでプレイした時だけ鳥肌が立つブレイクだって存在しない。しかし、持てる者と持たざる者の断絶は、未だかつてない、もはや不健全なレベルにまで達している。あまつさえ「出番を買う」行為が蔓延してきた現代、ダンスミュージックをキャリアにするための唯一の方法が「お金」になってしまう危険性が現実のものになってきた。
イビザでは、DJに渡航費を支払わなかったり、経費に対して少額すぎてびっくりするような報酬しか支払わないクラブが複数ある。これに伴い、名前を売るためにイビザでDJ出演をしようと思ったなら、それなりに先行投資をできる金銭的な余裕が必要になってしまった。これらのクラブに行くと、金が大河のようにチケット売り場やバーに流れ込む一方で、DJたちには全く支払われないということも頻繁に目撃する。
おしなべて言うと、DJプレイをするために自費が少しでもかかってしまうのであれば、それはもはや「出番を買っている」行為だ。こうやって自分に下駄を履かせるDJは、他のDJたちのビジネスをさらに難しいものにしている。
新人DJは、常に「より安く」出演するよと鼻息を荒くするライバルの脅威にさらされている。そして安価なDJたちも、「タダで良いよ」と気前の良いフリーDJたちに仕事を奪われる。そして最終的には、順番も立場もすっ飛ばして、出演するためなら「大枚をはたくよ」という輩までいるのだ。この問題は極めて有害で、既に蔓延している。
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