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「ゆるキャン△」第1話を例にBGMの意味と役割を考える 〜BGM・劇伴音楽による演出方法とその効果~

キャンプをテーマにした日常系&少し非日常系な作品『ゆるキャン△』。2018年1月にはTVアニメの放送が始まりました。大自然の中でゆったりと穏やかな時間が流れるストーリーに映像、そして映像と一緒に流れるアコースティックなBGM・劇伴音楽に私もすっかり引き込まれてしまいました。

Sound, music, mix, engineer
Image by Drew Patrick Miller, Unsplash

映画やドラマ、アニメのサウンドトラックはもちろんそれだけでも十分に楽しむことのできる音楽になっています。一方でBGMは映像と合わさることによって、意識的にも無意識のうちにも映像を観る人に心理的な影響を与えてBGMや映像の印象が変わってくるのも面白いところです。

今回は『ゆるキャン△』の第1話を例に、映像とBGMが合わさることによって生まれる印象の変化や演出上の効果など、BGMの意味と役割について考えていきたいと思います。


はじめに

目次はこちら

  1. BGMで作品全体の雰囲気を彩る
  2. BGMの流れ始めるタイミングとその意味
  3. BGMでシーンにまとまりを作る
  4. BGMがなくなるところとその効果
  5. BGMで伏線を張る

時間の表記はこちらの動画を基準にしていきます。

ゆるキャン△ 第1話「ふじさんとカレーめん」
ゆるキャン△ - ニコニコチャンネル:アニメ


1. BGMで作品全体の雰囲気を彩る

例えばクラシック音楽は少し洗練された雰囲気を、尺八の音は日本の伝統文化を連想させたりというように音楽のジャンルや楽器の音色だけでも聴く人の受ける印象はずいぶんと変わります。そこでBGMの音楽ジャンルや使う楽器を一つの作品の中である程度そろえることがよくあります。

『ゆるキャン△』BGMの作曲担当は立山秋航さんです。最近ではTVアニメ『けものフレンズ』のBGMを担当したことでも話題になりました。立山さんによれば、リクエストはケルト音楽やアイリッシュ音楽でしたが、ファンタジーに寄り過ぎず「自然」を感じさせるような「世界のフォークミュージック」そして「アコースティックサウンド」をキーワードに制作を進めたそうです [Sound Designer 2018]。アイリッシュ・ケルト系の音楽の他にもドイツのフォーク音楽やカントリー音楽など様々な民族音楽の要素が詰め込まれています。

もう少し細かく見てみると、この作品のテーマにも大きく関わるキャンプ場ではキャンプ場ごとにその個性を表現したテーマ曲が用意されているそうです [千葉 2018]。連続ものの番組では映像の制作前にBGMを作っておいて後から選曲する方式が一般的で、様々なシーンに使いやすいような汎用的な曲を用意することが多い中、特定のシーンを想定したBGMを用意するのは比較的珍しいことでもあります。作品全体の雰囲気はもちろん、こうした場所ごとの雰囲気の違いが映像だけでなくBGMでも書き分けられているのはすごいですね。


2. BGMの流れ始めるタイミングとその意味

オープニングテーマの後は志摩リンがキャンプ場に向かうシーンから始まります。ここでは道沿いの風景と志摩リンが自転車を漕ぐ様子が交互に映し出されます。ここで流れる「ソロキャン△のすすめ」はシーンの開始ではなく、2:44の志摩リンの顔がアップで描かれるカットから始まっていて、風景だけではなく登場人物の性格もBGMで表現しているように感じられます。

キャンプ場に到着して流れるBGM「キャンプ場のテーマ ~本栖湖~(Aパート)」も到着後すぐに流れる訳ではありません。5:15からの林の中を通り抜けるカットと、自転車を停めて本栖湖を眺めるカットの後、画面全体に本栖湖と富士山の風景が映し出される5:23から流れ始めます。作品を観る人の視点でBGMを流す場合もありますが、このように登場人物の視点と心情に寄り添ったタイミングでBGMを流すと、作品を観る人も登場人物と同じタイミングで同じ気持ちを共有しやすくなります。

キャンプ場のテーマ曲と流れ始めるタイミング
TVアニメ『ゆるキャン△』第1話より引用

エンディングテーマ直前にも登場人物の心情に寄り添ったタイミングでBGMが流れ始めるシーンがあります。志摩リンは各務原なでしこの乗った車が出るのを見送って、反対側を向いて歩き始めます。すると不意に「ちょっと待って!」の声がして、後ろを振り返ったちょうど19:44で明るく朗らかなBGM「ゆるキャン△のテーマ」が流れ始めます。無表情で少し感情が分かりにくい志摩リンの感情表現をサポートするようなポジティブなBGMです。BGMにはこうした心理的な表現や感情表現を補ったり強調したりする役割もあります [Davis 2010]。


3-1. BGMでシーンにまとまりを作る

今度は中盤の薪集めのシーンで流れるBGM「キャンプ場のテーマ ~本栖湖~(Bパート)」に注目してみます。大塚明夫さんの渋い声でナレーションが入ってキャンプの豆知識を解説したり、松ぼっくりが喋ったりするこのシーンは他と比べると少し異色なシーンです。シーン全体にひとつのBGMが付くことで豆知識を解説するシーンが続いていることを視聴者が理解しやすくなりますし、ナレーションを登場人物のセリフだと勘違いしてしまうというような事態を防ぐことができます。

次の焚き火の解説シーンでも先ほどと同じようにBGM「ソロキャン△のすすめ」が使われています。BGMの盛り上がりとともに11:10からはキャンプ場のカットをいくつも挟みつつ、ゆるやかに時間が過ぎていく様子を表現しています。このように複数のカットをつなぎ合わせてシーン全体に別の意味をもたせる手法は「モンタージュ」とも呼ばれます。すっかり夕暮れとなるシーンの終わりではBGMも一緒に終わることで、大きく時間がジャンプする次のシーンへの移行を分かりやすくしています。

時間のゆるやかな経過を表すカットの連続とBGM
TVアニメ『ゆるキャン△』第1話より引用

3-2. BGMでシーンにまとまりを作る(〇〇シーンのテーマ曲)

映像作品ではカメラで撮影をするときのひと続きの映像(カット)が集まってひとつの意味的なまとまり(シーン)ができます。カットが変わるときの現実世界では起きないような映像の急な変化をやわらげるためにも、こうしたシーン全体にBGMを付けることはよく行われます [Davis 2010]。

こうしたBGMの使い方として分かりやすいのが、〇〇シーンのテーマ曲と呼ばれるようなBGMです。12:53で志摩リンが逃走するときに流れるチェイスシーンのテーマ「キャンピングinポッシブル」や、13:12から流れるなでしこのボケと志摩リンのツッコミがひかるギャグシーンのBGM「ゆるやかな時間」がその例です。「キャンピングinポッシブル」は同じく立山さん担当の『けものフレンズ』BGM「セルリアン」を思い起こさせるような、アコースティックなBGMの中で異様に目立つエレクトロサウンドでギャグ的な効果も狙ってるのかもしれません…?

16:01からなでしこがカレーめんを食べる場面で流れるケルト・アイリッシュ系のBGM「キャンプ行こうよ!」は第2話の冒頭や再開シーンでなでしこが登場するときにも流れます。アニメ序盤ではなでしこのテーマ曲のような使われ方がされているBGMです。このような登場人物のテーマ曲は繰り返し登場人物と一緒に流れるので、逆に曲が流れることでその登場人物を連想させることもできます。


4-1. BGMがなくなるところとその効果(突然の中断)

少し逆説的ですが、BGMを流すことでBGMが流れない部分を目立たせることもできます。例えば音楽を予想外に中断させるときに興味が引きつけられる現象 [Sridharan 2007] をうまく利用した演出方法は、このゆるキャン△第1話でも何回か使われています。

第1話の中盤、志摩リンとなでしこが初めて会話をするシーンではBGMが突然中断するポイントが2か所あります。どちらもなでしこのボケるところで、ちょうどBGMがなくなって無音になったタイミングでお腹の音が響き渡ります。こうしたギャグシーンでBGMを中断する演出方法は次回予告の手前、「へやキャン」のコーナーでも使われていますね。無音になった後すぐに犬山あおいのツッコミが入ります。

ギャグシーンとBGMの突然の中断
TVアニメ『ゆるキャン△』第1話より引用

4-2. BGMがなくなるところとその効果(BGMの切れ目)

BGMを突然中断するのも強烈な効果がありますが、BGMが自然に終わってしばらく無音になるのも注意が引きつけられるタイミングのひとつで、このゆるキャン△1話でも効果的に使われています。志摩リンがメインで映されている序盤ですが、4:03と9:28でなでしこが寝ている様子を映す短いカットが挟まれます。どちらもちょうどBGMの終わるタイミングに重ねることで印象を強めています。第1話のエンディングテーマ曲はそのままストーリーと映像が進行しながらセリフや効果音とともに使われていて、曲の終わるちょうど22:34頃に朝の学校で志摩リンとなでしこがニアミスする重要カットが挟まれます。

最近行われたクラシック音楽を聞いている最中に脳活動を測定する実験では楽章間の無音になるところで脳が大きく活動することが発見されていて、ヒトが現実世界の出来事をこうした音が大きく変化する場所で区切って整理・記憶している可能性があるそうです [Sridharan 2007]。BGMを付けることで映像だけではなく音の面からもストーリー上の区切りがハッキリするので、BGMは映像作品のストーリーを理解しやすくさせる手助けになるのかもしれません。

ちなみにラストの次回予告手前にある「へやキャン」のコーナーでは、23:04でBGMを中断した後すぐに次のBGMを流しています。BGMとBGMのあいだに無音部分がないと少しせわしない印象になるのですが、それをテンポ感が重要なギャグシーンにうまく利用しています。


4-3. BGMがなくなるところとその効果(無音)

なでしこの目線で始まる冒頭の1分程のシーンはBGMがありません。第1話の他のどのシーンとも時間のつながりがなく伏線としての意味もありそうな重要シーンになっていて、あえて無音にすることで焚き火の音を引き立たせると同時に映像にアクセントを付けています。

初期の映画音楽では映写機の音がうるさく、BGMはこの雑音をかき消すという意味ももっていました [Schaefer 2001]。長いあいだBGMがない状態が続くと周りの雑音に気を取られて現実世界に引き戻されてしまうこともあるので、現在でもこうした雑音をかき消すためにBGMを付けるのには意味があります。もちろん先ほどの例のように短い間であれば無音はいいアクセントにもなります。


5. BGMで伏線を張る

ここからは16:48頃から始まる、ゆるキャン△第1話のクライマックスシーンを見ていきます。さかのぼると5:23の昼間の本栖湖と富士山の風景カットにも対応するシーンです。BGMもよく聴くと昼間のシーンで流れたBGMのアレンジ版になっています。

短いメロディーやハーモニー、リズムをキャラクターやイベントと結びつけたり、またアレンジをすることでそこで起こる変化を暗示したりする手法はライトモチーフ(Leitmotif) と呼ばれます。19世紀に作曲家のワーグナーがオペラ作品でライトモチーフを効果的に使ったことでこの手法が確立されて [Gustavo 2001]、それ以降は映画やアニメ、ゲームの音楽にまで使われるようになりました。

昼間のシーンでは湖に到着した直後の5:33や5:45などで、笛(ティンホイッスル)で演奏・提示される本栖湖のライトモチーフを聞くことができます。このモチーフは同じく昼間の薪集めのシーンで流れるBGMにも少しだけ使われています。夜のシーンでは、暗闇の中で本栖湖と富士山が一瞬画面に映る16:48から「キャンプ場のテーマ ~本栖湖~(Cパート)」が聞こえるか聞こえないかくらいの小さな音量で流れ始めます。17:41や17:46、17:53、17:54で月明かりが差し込む伏線的なカットを挟みつつ、18:16でついに本栖湖と富士山の風景が映し出されると同時にライトモチーフがもう一度提示されて、ここで伏線が回収されます。

昼間に流れたBGMに登場する本栖湖キャンプ場のライトモチーフ
TVアニメ『ゆるキャン△』第1話より引用

映像と同じようにBGMも少し手前から一気に盛り上がってちょうど18:16でクライマックスを迎えます。先ほどはBGMを突然中断させる演出方法を紹介しましたが、ここでは音楽が予想外の展開をして興味が引きつけられる現象をうまく利用しています。映像に付けるBGMでは曲の途中で曲調が大きく変わることは映像の印象も大きく変えてしまうので避けられることが多いのですが、こうした場合は例外です。

クライマックスで再び提示される本栖湖キャンプ場のライトモチーフ
TVアニメ『ゆるキャン△』第1話より引用

おわりに

どのような種類・雰囲気のBGMを付けるかはもちろん重要ですし、BGMの流れ始めるタイミングや流れ終わるタイミングによっても映像の印象は大きく変わります。選曲や音響効果・MAの人たちが担当することになるBGM選びやタイミング・流し方の調整、セリフや効果音とのバランスなども映像音楽には欠かすことのできない重要な作業です。

(2018.3.21)『ゆるキャン△』のオリジナルサウンドトラックに合わせて曲名を追記しました。

映画やアニメ、ゲームで使われるBGMの種類とその役割について知りたい方はこちらの記事もどうぞ。

映画・アニメ・ゲームでのBGMの役割とその種類 〜BGM・劇伴音楽による演出方法とその効果を考える~

参考文献

[Sound Designer 2018]  サウンド・デザイナー (2018): “最先端を行く音楽クリエイター達 ― 立山秋航=「ゆるキャン△」”, サウンド・デザイナー 2018年3月号.
[千葉 2018]  千葉研一 (2018): “「ゆるキャン△」京極義昭監督インタビュー──ロケハンを重ねてキャンプの空気感、料理、温泉まで魅力をすべて詰め込みました!”, アキバ総研. (https://akiba-souken.com/article/32693/?page=2)
[Davis 2010]  Richard Davis (2010): Complete Guide to Film Scoring, Berklee Press, pp.141-142, pp.142-143.
[Sridharan 2007]  Devarajan Sridharan, Daniel J. Levitin , Chris H. Chafe , Jonathan Berger , Vinod Menon (2007): “Neural Dynamics of Event Segmentation in Music: Converging Evidence for Dissociable Ventral and Dorsal Networks”, Neuron - Cell Press. (http://www.cell.com/neuron/fulltext/S0896-6273%2807%2900500-4)
[Schaefer 2001] Hilary Schaefer (2001): “Emotion and the Film Scores: An Empirical Approach”, e-Film Music. (http://www.e-filmmusic.de/article1.htm)
[Gustavo 2001]  Gustavo Costantini (2001): “Leitmotif revisited”, FilmSound.org. (http://filmsound.org/gustavo/leitmotif-revisted.htm)