NHKスペシャル キム・ジョンウンの野望 第1集「暴君か戦略家か 禁断の実像」[字] 2018.04.15
そこに記されていたのはキム・ジョンウン氏の野望だった。
ある北朝鮮元幹部が記した極秘メモ。
1年前に書かれたメモはまるで今起きている事を予言するかのような内容だった。
先月北朝鮮のキム・ジョンウン朝鮮労働党・委員長が中国を電撃訪問。
非核化にまで言及した。
そして世界は今史上初の米朝首脳会談の行方を固唾をのんで見守っている。
突然外交に動き出した真のねらいは何なのか。
北朝鮮から動く事のなかった6年間何をしていたのか。
独裁国家の誕生から70年。
北朝鮮の動向が再び世界を揺るがし始めている。
「NHKスペシャル金正恩の野望」。
その知られざる戦略に3本シリーズで迫っていく。
キム・ジョンウン氏は経済制裁の中なぜ体制を維持できるのか。
ある秘密機関の存在が浮かび上がった。
監視の目をかいくぐり世界で暗躍する外貨獲得機関の実態とは。
戦争なのか対話なのか。
突如非核化の意志を打ち出したキム・ジョンウン氏の真意を最前線の研究者たちが読み解く。
今夜の第1集は謎に満ちたキム・ジョンウン氏の実像に迫る。
人民を救う改革者か?それとも恐怖の独裁者か?直接キム・ジョンウン氏に会った人々や体制に仕えた元幹部への取材から国内統治の秘密が浮かび上がった。
更にキム・ジョンウン氏が6年間に発した膨大な指示を人工知能で分析。
これまでの政権と全く異なる戦略が見えてきた。
ベールに包まれた若きリーダー。
知られざる実像に迫る。
北朝鮮の最高指導者キム・ジョンウン委員長。
政権発足から6年たったがその実像はいまだ多くの謎に包まれている。
詳しい経歴や正確な年齢すら分かっていない。
実績のない若者がどうやって国家を支配したのか。
これは存在が徹底して隠されていた幼少期を捉えた貴重な写真。
宮廷でひそかに英才教育を受けていたとされる。
母親は大阪生まれの在日朝鮮人。
その事実は伏せられ今も多くの人民が知らない。
閉鎖的な空間で会うのは限られた幹部のみ。
8歳の少年に対し幹部たちは大将と呼んでいたという。
叔母は後にこう言った。
ベールに包まれた人物像の分析にいち早く動いたのは韓国政府だった。
国家安保戦略研究所の元所長ナム・ソンウク氏。
キム・ジョンウン氏の登場後性格や思想を調べ報告書にまとめる密命を受けた。
調査に乗り出した韓国政府。
突破口となったのはキム一族が世界を学ばせる場としていたスイスだった。
これは兄ジョンナム氏がスイス留学中の貴重な映像。
外交官の家族など外国人が多く集まるクラスでジョンナム氏は流ちょうなフランス語を話していた。
これは新聞記事を使って自分の国を紹介する授業。
キム・ジョンウン氏も12歳の時にスイスに留学していた。
最高指導者の家族である事を隠しパク・ウンと名乗っていた。
当時一緒にバスケットボールをしていた男性。
覚えていたのはキム・ジョンウン氏の負けん気の強さと失敗を繰り返さない周到さだった。
当時の担任はキム・ジョンウン氏の適応力の高さを口にした。
こうした情報をもとに韓国政府は若きリーダーの能力を報告書にまとめた。
浮かび上がったキム・ジョンウン氏の周到さと気の強さ。
しかしスイスの経験が後の行動や思想にどのような影響を及ぼしたのかほとんど明らかにならなかった。
この若者が突然トップの座についた経緯は北朝鮮の歴史の中でも異質だった。
社会主義国家でありながら世襲が正当化されキム一族が権力を独占する北朝鮮。
建国の父キム・イルソン主席は独裁体制を維持するため早くから息子のキム・ジョンイル氏を党の要職に就かせた。
そこで20年にわたり実績を積ませながら後継の正当性を人民に喧伝し周到に世襲を実現した。
その後15年以上にわたり独裁を維持した…核・ミサイル開発など軍を主体とする先軍政治を推し進め権力基盤を固めた。
しかし60代で脳卒中に倒れると突然後継者問題が浮上。
そこで公の場に登場したのが三男のキム・ジョンウン氏だった。
実績もなく幹部たちよりもはるかに若く権力継承の時間もない中での世襲。
どうやって党や軍2,500万人の人民を支配したのか。
キム・ジョンウン氏の6年間を独自に調べ上げ国内統治の謎に迫った一人の北朝鮮元幹部がいた。
かつて朝鮮労働党の幹部でキム・ジョンウン氏の父キム・ジョンイル総書記と直接面識を持つ接見者と呼ばれたエリート。
ソン氏は2000年代に脱北。
その後も北朝鮮内部の人脈とつながりを持ち最新の情報を収集しながら分析を続けた。
ソン氏は去年死去。
生前ソウルで行動を共にした秘書に遺品の全てを託していた。
ソン氏が残していた内部情報や分析のメモは全部で2,000点余り。
核・ミサイル開発の現状や幹部たちから聞き出す党や軍の最新情報など北朝鮮の内幕が記されていた。
その多くは韓国政府に報告され対北朝鮮政策における貴重な情報源とされた。
キム・ジョンウン氏はどんな戦略で国内を統治しているのか。
それを読み解く鍵としてソン氏がまず注目していたのが北朝鮮の経済変化だった。
これは90年代の北朝鮮の映像。
父キム・ジョンイル氏の時代冷戦終結で社会主義国家からの援助が滞り経済が破綻。
食糧の配給が止まり盗みや賄賂が横行闇市も出現した。
更に自然災害が追い打ちをかけ一説では200万を超す人々が餓死。
人民の不満が募り体制に揺らぎも生まれた。
しかしキム・ジョンウン時代に入ると経済事情は一変していた。
これは監視衛星を使ったアメリカの調査。
7年前の2010年北朝鮮の市場は200か所余りだったがキム・ジョンウン氏の登場後400か所に倍増。
経済成長率や食糧生産量も向上していた。
私たちは今回経済制裁が厳しくなる前に撮影された北朝鮮内部の映像を入手した。
以前よりはるかに情報統制が厳しくなったキム・ジョンウン氏の時代。
内部の映像がほとんど流出しなくなった中監視の目をかいくぐって記録されたものだ。
旅行者は行けないピョンヤン周辺の地域で撮影された映像。
そこにはまるで資本主義のような競争原理が導入されている実態があった。
この運転手は会社や国から与えられたノルマを達成すればそれ以上のもうけは自分たちの利益になると語っていた。
市場の様子も記録されていた。
売り場には赤い上着を着た人々が肩を寄せ合って並んでいる。
キム・ジョンウン氏はかつてなかった新しい言葉「自強力」という指示を発し豊かさは与えられるものではなく自ら勝ち取るものだと人民を刺激した。
各地の市場では激しい売り込みや値切り交渉が行われていた。
自強力を生かした統治とはどのようなものなのか。
私たちはキム・ジョンウン時代を直接知る脱北者を訪ねた。
脱北者の多くは韓国政府から提供されるアパートに暮らしている。
北朝鮮から逃れる人の数は年々減少。
その上キム・ジョンウン政権発足からまだ6年でその時代を知る脱北者は少ない。
2014年に脱北したこの女性は北朝鮮に家族を残しているため身元を特定しない事を条件に取材に応じた。
漁師だったこの女性は取った魚を中国の船に積み替えるいわゆる瀬取りで生計を立てていた。
子どもの将来を考え瀬取りの途中で脱北した。
女性の証言からキム・ジョンウン氏の経済政策の一端が見えてきた。
経済活動への意欲を刺激する一方で規律化が進み管理が厳しくなったという別の脱北者もいた。
独自の方法で人民の統治を進めているキム・ジョンウン氏。
私たちは更に詳細を探るためある分析を試みた。
キム・ジョンウン氏が登場してから6年。
その間に発せられた演説や談話党や軍に対する極秘の指示書など1万4,000点に及ぶ膨大な言葉を人工知能を使って読み解いていく。
全ての言葉の使用頻度発言の場所やそれに伴う感情時代ごとの関心の変化などを分析。
更に父キム・ジョンイル総書記の言葉も同じ方法で調べ比較していく。
そこからキム・ジョンウン氏が前の時代より何を重視しているのかどの分野に関心を持ちどのような感情で実行しているのか探っていく。
3か月にわたる分析でキム・ジョンウン氏が重視する10のキーワードが浮かび上がった。
その一つが「同盟」という言葉だ。
ここにどんな意思が隠されているのか。
北朝鮮の研究者や心理学の専門家らと共に読み解いていく。
公安調査庁で30年にわたり北朝鮮の分析を行ってきた坂井隆氏。
同盟の整備には全ての人民を何らかの組織に属させ目標を与えようとするねらいがうかがえる。
青年同盟は経済発展と人民生活に重要だと説く演説。
農業勤労者同盟は革命基盤に欠かせないとする発言。
更に同盟に関わる指示では「強める」や「ふるい立たせる」など相手を鼓舞する言葉が常に付随する傾向があった。
心理学の専門家で演説の言葉からアメリカ大統領などの深層心理を読み解いてきた海野素央氏。
人心を掌握するキム・ジョンウン氏独特のデータも明らかになった。
発言場所や方法を見ると父親の時にも増して現地視察や直接指導が多かった。
20年以上にわたり北朝鮮分析を行ってきた礒敦仁准教授はかつてのような思想による統治よりも実利を重んじる特徴が見えると指摘した。
分析で新たな発見があった。
自強力というキム・ジョンウン氏独特の言葉が核・ミサイル開発を加速させた2016年から使用頻度が急増していたのだ。
元エリート高官だった脱北者のソン氏も経済の再生とその担い手のコントロールを同時に行うしたたかな一面を読み解いていた。
韓国で半世紀以上にわたり北朝鮮を分析してきたカン・インドク氏。
実績のなかったキム・ジョンウン氏が体制を維持するために緻密に練った統治戦略だと見ている。
人民をたたえながら統治を進めたキム・ジョンウン氏。
一方で党や軍に対しては異なる戦略をとっている実態も見えてきた。
キム・ジョンウン氏は権力基盤を軍に置いた父キム・ジョンイル総書記の先軍政治を受け継ぐ事なくその権力を党に移行。
軍が過度に力を持つ事を防いだ上で党の委員長に就いた。
更に父に仕えた功労者たちを次々と粛清するなど恐怖政治を断行し自分だけに忠誠を誓う部下で固めた。
2016年に韓国に亡命しキム・ジョンウン時代に脱北した幹部の中で最も地位が高いとされる…NHKの単独インタビューに初めて応じキム・ジョンウン氏の権力掌握の内幕を語った。
キム・ジョンウン氏のそうした傾向が人工知能による分析でも浮かび上がった。
キム・ジョンウン氏を特徴づける10の言葉の中にあった「イルクン」。
幹部を意味する言葉だ。
「イルクンが自分だけを押し出して大衆と離れて行動している。
一番警戒すべき危険要素だ」。
イルクンに関する発言や指示ではそのほとんどが強い嫌悪感と共に語られていた。
幹部たちのデータを見ても頻繁に人事を入れ替えている事が分かる。
突出した力を誰にも持たせず数人の有力者が互いに牽制し合う体制を構築しているのだ。
キム・ジョンウン氏が警戒を強めたイルクンにあたる人物が見つかった。
砲兵部隊で連隊長を務めた…キム・ジョンウン時代に強化されたという監視の実態について語った。
監視の目は世界54か国に散らばる北朝鮮大使館などの職員にも行き届いていた。
去年キム・ジョンナム氏暗殺事件で世界の注目を集めたマレーシア。
(クラクション)大使館の職員たちはメディアに対して一切の情報を明かさなかった。
こうした海外の大使館にキム・ジョンウン氏はどのような指示を出しどう統制しているのか。
その実態を知ってほしいと1人の人物が取材に応じた。
ベトナムの北朝鮮大使館の元職員で去年イギリスに亡命を求めたチェ・サンモク氏。
キム・ジョンウン氏の指示は大使館ごとに異なっていたという。
チェ氏が撮影したベトナムの北朝鮮大使館内部の様子。
職員は自由に外出できないため建国記念日など特別な日は館内でパーティーを開くのが唯一の楽しみだったという。
しかしたとえくだけた社交の場でも互いに体制への不満などは口にできなかった。
大使館の職員はいわば人質として子どもを北朝鮮に残している事がある。
職員は常に強制送還の恐怖を感じているという。
過酷な仕事に不満を持っていたある日大使館に発せられたキム・ジョンウン氏の指令に戦慄したと明かした。
この時少しでも不満を口にすれば無事ではいられない。
チェ氏はそう感じたという。
競争心や欲望を巧みに操る人民統治と父を上回る恐怖政治を繰り広げたキム・ジョンウン氏。
北朝鮮から一歩も動かず6年間着々と進めていたのは足元の国内支配を確立するという野望への第一歩だった。
キム・ジョンウン氏はその後どう動くのか。
元高官のソン氏は世界がやがて直面する事態をいち早く予見していた。
キム・ジョンウン氏を見つめ続けたソン・ミンテ氏。
去年自ら予言したジョンウン氏の動きを見る事なく生涯を閉じた。
国際社会はキム・ジョンウン氏の戦略の渦に巻き込まれていくのか。
そして対話の先に何が待っているのか。
2018/04/15(日) 21:00〜21:50
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル キム・ジョンウンの野望 第1集「暴君か戦略家か 禁断の実像」[字]
突然動き始めた北朝鮮の金正恩委員長の真のねらいとは!?史上初の米朝首脳会談に向けた知られざる戦略とは?“金正恩の野望”に迫るNHKスペシャル・新シリーズ第1弾!
詳細情報
番組内容
暴君か?策略家か?第1集は、謎に包まれた金正恩氏の実像と国家支配の謎に迫る。金正恩氏が政権について6年。急激に外交に動き出すまで、北朝鮮で一体何をしていたのか?NHKは金正恩時代の最新の北朝鮮の内部映像を入手。そこから、意外な「統治の秘密」が浮かび上がった。直接正恩氏に会った人々や、政権に仕えた元幹部たちの新証言や、金正恩氏が発した膨大な指示・発言のAI分析から、知られざる「人物像」を解き明す。
出演者
【語り】渡邊佐和子
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ニュース/報道 – 報道特番
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32080(0x7D50)
TransportStreamID:32080(0x7D50)
ServiceID:43008(0xA800)
EventID:27414(0x6B16)