貧困に抗っていこうというとき、本当に真剣に取り組むのなら、原資が限りなくゼロに近いところからでも、努力と積み重ねで最前線まで自力で歩いていける「救いの科目」がなければ、リアルな夢も希望もないでしょう。

 シリコンバレーの成功者の中には、廉価なPC1台、それ以外は紙と鉛筆と頭と胆力だけで勝負した人が少なくありません。そういうチャンスをまるまる奪いかねない話だと思います。

 私のごく身近に、基地の町で育ちグレかけた経験のある青年がいます。体格が華奢でボコボコにされてから、グレてもうまくいかないと考え、ふとしたきっかけで紙と鉛筆だけで数学に目覚めました。

 お金は本当になく、すべて自分で働いて学費を稼いで大学進学、在学中も自分で稼いで大学院まで修了、現在は外資系コンサルでAIの国プロを率いて大活躍しています。苦労しているから力があるし、人間としても大変に魅力的な男に育ちつつある。

 そういう多くの実例を念頭に、明記したいとおもいます。「高等学校数学必修廃止」、100%反対します。あり得ません。

 それは、経済的に必ずしも恵まれないかもしれない生徒の未来の、自由と経済的な自立を奪う最短経路の1つになりかねないことからだけでも、議論の余地がほとんどない自明なことです。

 形だけ高卒で、現時点で必修とされている程度の初等数学すらちんぷんかんぷんで世の中に放り出された18歳のすぐそばにライフロング・ワーキングプアへの近道が口を開けているのは、冷静なあらゆる第三者の目からみて明らかでしょう。そんな施策はあり得ません。