前回のコラムに「かぼちゃの馬車」のことを少しだけ書きました。
といっても「事件の真相を探る」みたいな突っ込んだものではなく、「かぼちゃの馬車での失敗談が役立っているようでは勉強不足です」という趣旨で触れた程度なんですが、ぼくが編集長をしている満室経営新聞のアンケートでも相変わらず関心が高いようで、他人が失敗した話というのは本当に「ウケる」テーマであるようです。
であればコラムでももう一度取り上げてみようかなと考え、今回は「どうすれば、かぼちゃの馬車で失敗をしなくて済んだか」という観点から、記事を書いてみました。
同社のシェアハウスを購入したのは、大半が普通のサラリーマンです。被害を避けるチャンスはどこにあったのか、検証してみましょう。
■回避ポイント① 全体のリサーチ
まず、同社の物件を購入した方々は「副収入が欲しい」とか「老後が不安だ」というような興味やニーズが少なからずあったはずです。
ぼくが不動産投資に興味をもったのだって同じような理由ですし、そのニーズを満たすもののひとつとして不動産投資があった訳です。
「不動産を保有して家賃収入を得る」ということでさえ、副収入を得る数多くの手段のひとつに過ぎません。副業や株式投資など、収入を増やす方法は不動産以外にもいくらでもあります。
さらに、シェアハウス運営は数ある不動産投資のスタンスのひとつであり、その中でも「かぼちゃの馬車」は、地方在住の若い女性をターゲットに就職先の斡旋などと絡めて相場以上の賃料収入を得るというビジネスモデルによって成り立つ、シェアハウスの中でも特殊な業態です。
かぼちゃの馬車のオーナーたちが、こういった構造を把握した上で購入を決めかたというと、そうではないでしょう。「副収入を得るなら、かぼちゃの馬車」という極めて短絡的な思考によって、他の選択肢との比較ができなかったはずです。
「もっと稼ぎたいなぁ」という願望のままでなく、日頃から目標に向けて何かしら動いていれば、失敗は防げたのだと思います。
ちなみに自分も、不動産投資をする前は株を買ったり無添加食品の通販事業のフランチャイズを検討していましたし、不動産投資を始めてからもメールマガジンを使ってネットビジネスに取り組んだりしています。これらは全て、目的ではなく単なる手段です。
■回避ポイント② 基礎的な投資分析の知識
人間は不幸や失敗を「他人のせい」にしてしまう生き物です。
事件が表沙汰になった当初は、運営元のスマートデイズ社への非難が凄かったですが、最近は融資をしていたスルガ銀行への風当たりが強くなっています。納得してお金を借りたにも関わらず、自分が苦しくなると「貸し手責任がー」なんて言われてしまう訳ですから、銀行も損な役回りだなぁと思いますね。
非難の根拠としては「銀行が融資をするということは、事業が健全だと借り手に誤解させる」というものですが、1億円もする資金を投じて事業をするにも関わらず、健全性を自分で判断できないようではいけません。まぁ、事業だという認識があった人は多くないと思いますが。
さて、こちらでもコラムを連載されている猪俣淳さんの著作「不動産投資の正体」を読むと、投資分析の基礎的なことは全て分かります。
業者さんが提示してくる「賃料収入」と「実収入(NOI)」との違いや、返済比率がどのくらいであれば安全なのかという指標、物件の価値下落と残債の推移を比べて中長期的なリスクを把握する方法など、全て分かりやすく説明されています。
この書籍を理解した上で、同社のシェアハウスを購入するような人はいないでしょう。仮に「高すぎる家賃設定」で入居が決まり、「サブリースが破綻しないまま」続いたとしても、投資そのもののリスクが高すぎることが分かります。
同社の放漫経営の結果、サブリースが継続できなくなったために表面化した事件ではありますが、そもそもサブリースがどうこうという問題ではないのです。
■回避ポイント③ すごく基礎的な賃料相場リサーチ
地方在住で、東京の家賃相場を知らなかった人でも、賃貸物件のポータルサイトやシェアハウスの検索サイトを少しチェックするだけで、かぼちゃの馬車シリーズのシェアハウスは賃料設定が高すぎることが分かります。
平均して相場家賃の1.5倍程度、場所によっては2倍近い賃料で募集をしています。この水準はバス・トイレ付きの一般アパートと同水準ですから、わざわざシェアハウスに居住する意味がありません。
確かに、「人材派遣会社とタイアップして物件に付加価値を」という(当時の)コンセプトは斬新で、いくつかの企業が実際にシェアハウスを借り上げたというニュースまでありました。
残念ながら、そちらのビジネスモデルも上手く機能しなかった訳ですが、仮に予定通りに回ったとしても賃料相場の差を埋めるには厳しいくらいの差が見て取れたはずです。
■回避ポイント④ 実際の入居率
「いろいろ心配な点はあるけど、家賃が保証されているから大丈夫か」ということで、サブリースに身を任せて購入するのであれば、既存物件の入居率がどうなっているかの確認は必須の作業かと思います。
そして実際、かぼちゃの馬車の入居者募集のサイトを見てみると、すぐに「びっくりするほど入居率が低い実態」が分かります。被害者となってしまった人の中で、こういった入居状況を把握していた人はほとんどいないのではないでしょうか。
また、リサーチを進めていくと、シェアハウスを検索するメジャーなポータルサイトには、同社の物件がほとんど掲載されていないことにも気づいたことでしょう。
これは、こういったサイトの掲載基準を同社の物件が満たしていないことが理由ですが(主な要因は共用のリビングがないため)、シェアハウスを探している人のほとんどが、主要な2つのサイトを使って部屋を選んでいる状況を理解していれば、「募集の道筋が見えない」という結論に至る可能性が高いと思われます。
ほかにも、「土地値と建築価格から、適正な価格設定かどうかを把握する」「地元の仲介会社にヒアリングをする」「他のシェアハウスを見学する」「シェアハウス以外の不動産投資と比較する」など、回避ポイントはたくさんあります。ここまで挙げたポイントのひとつでも実行していたら、このような物件を買うという結論にはならなかったでしょう。
ぼくが前回「かぼちゃの馬車の失敗談など、参考にならない」とコラムに書いたのは、こういったことが理由です。ほら、お粗末過ぎて参考にならなかったでしょ?(笑)
ぼくは、サラリーマン時代は損害保険会社に勤務していましたが、かぼちゃの馬車の被害は交通事故に似ている気がします。
交通事故はひとつの要因だけで起こることは少なく、「スピードを出しすぎた上に雨が降っていて、相手の車も脇見運転をしていた」というように、危険な要因がいくつも重なった時に発生します。
かぼちゃの馬車被害も「情報不足」「リサーチ不履行」「知識の欠如」「判断ミス」といった失敗要因が全て重なって発生した交通事故のようなものではないでしょうか。