栄養のためか、文化の継承か
プルエッツ氏は、セネガルのフォンゴリ・サバンナ・チンパンジー・プロジェクトでチンパンジーの狩りを調べていたときに同様の行動を目撃している。ガラゴ(アフリカの森林に生息する原猿)を捕らえたチンパンジーたちは、やはり頭部を先に食べていた。
雑食性のチンパンジーが、主食ではない肉を求めて狩りをする理由についても、研究者たちの間で意見が分かれている。
プルエッツ氏は、チンパンジーは栄養を摂りたいのだろうという仮説を支持するものの、それだけでは各地のチンパンジーの行動の違いをすべて説明はできないと言う。
例えば、チンパンジーには卵を食べるものと食べないものがいる。また、フォンゴリのチンパンジーがヒヒを襲撃したときには、その頭部を群れの仲間に与えるという不思議な行動が見られることがあるし、内臓は捨てられることが多い。
プルエッツ氏は、群れの中の文化や学習の伝統が大きな影響を及ぼしているのではないかと考えている。
肉が初期人類の進化を促した?
チンパンジーとヒトはともにヒト科の動物であり、共通の祖先をもっている。どんな理由があるにせよ、肉を食べる行動の研究は、ヒトの進化について新たな知見をもたらすはずだ。(参考記事:「ヒトと類人猿の分岐は1300万年前?」)
ギルビー氏は、初期のヒト科動物につながる種は、脂質を求めて、より多くの肉を食べるようになったのだろうと主張する。(参考記事:「人肉はカロリー低め、旧人類はなぜ食べた?」)
「初期のヒト科動物を理解するために、チンパンジーをモデルにするのは良い方法です」とプルエッツ氏は言う。
「チンパンジーの狩りの鮮明な映像が得られたことで、初期のヒト科動物のふるまいを予想したり仮説を立てたりすることが可能になります」(参考記事:「ヒトはなぜ人間に進化した? 12の仮説とその変遷」)